第13話 芹沢 美水希の手作り弁当
「なんだか疲れてる?」
「あーその、よく寝れなかった……いや、ん~……よくは寝れたけど、遅刻ギリギリでちょっと疲れたかも」
芹沢さんに「そーなの?」と心配そうに見つめられるとちょっと照れる。
時間は昼休み。朝はバタバタと落ち着かない感じだったから妙に疲れを感じる。
芹沢さんはきっちり授業中に居眠りしていたから、ぱっちりと目が開いている。とても元気そうだ。
まあ、授業中に寝ちゃダメだが……。
「おかしいな。
おう……、たしかに夏杜希は朝起こしてくれたな。
一時間も早く!
やっぱあれなのかな、夏杜希ってすこしアホの子なのかな? 心配になってくる。
なんだか納得のいかないといった芹沢さんは、むむむっと念じるように眉間に
悩ましい感じの芹沢さん、可愛い。
「ま、それはそうと。今日はね、お弁当を作ってみたの」
芹沢さんは
ピンクの可愛らしいプリントの
「はいどーぞ」
手渡された弁当箱。
一瞬、きょとんとしてしまうがすぐに気付く。
「えっ!? これ俺に?」
「その反応。なんだか白々しいなあ~」
にこにこしながら手渡された弁当箱に気が動転してあわあわする。
「迷惑だったかな……」
しょぼんとする芹沢さん。
あざとさを感じさせずに、自然とその仕草ができるのは反則である。
嬉しくってにやけてしまうじゃないか。
「ううん。すごく嬉しい! ありがとう!」
「あはっ! よかった。好みに合うか分からないけど、どうぞ召し上がれ」
嬉しさ半分、恥ずかしさ半分。
朝練で忙しいにもかかわらず、お弁当を作ってしまうとは、何たるハイスペック。感動で胸が一杯だ。
早速、芹沢さんが作ったお弁当をひろげてみる。
おにぎり、からあげ、定番の卵焼きと続き。
タコさんウィンナー、ポテトサラダ、ほうれん草の
「すごく美味しそう」
「よかった。ささ、食べて食べて」
芹沢さんは手を差し出すように食事を
それでは、からあげから……。
俺が食べる様子をそわそわとした
「これ、すごく美味しいよ!」
「よかったー」
にへら、と口元が
へにょんと
ずっと緊張していたのか芹沢さんの表情はいつにもまして
「どんどん食べてね」
俺はおにぎりにかぶりついてあることに気が付く。
手のひらサイズのおにぎり。これって芹沢さんが握ったんだよな……。ちょっとドキドキする。
いやーしかし、この考え方はちょっとストーカーっぽい。
ぶんぶん頭を振って雑念を振り払う。
つぎは、卵焼き。
甘すぎず、だけどしっかりと
「この卵焼き好きな味だな~」
それを聞いて、芹沢さんはさらに、えへへと嬉しさに表情をほころばせる。
もう、その表情といったら!
胸をえぐるほどの愛らしさに、〝きゅんっ〟とときめいてしまう。
そんな芹沢さんと一緒にお昼を過ごせるというのに、お弁当まで作ってもらって――
「ほんと、爆発しちゃえばいいじゃない」
突然、耳元でそんな言葉を吐き捨てられて振り返ると、そこには
「うわあああ! いつからそこにいたの!?」
「むふふふ、ずっと見ていたわよ~」
なんで一年の教室にいるのかは知らないけど、後ろから突然現れないで欲しい。心臓に悪い。
「まったくゆうくんのデレデレなところを見ててもしょうがないけど、
颯希ねーちゃんは妹の姿を見て合掌する。
いやまあ、そうしたくなるのは
「おねーちゃんにはお弁当ないのかな? かな?」
「? なんで私がおねーちゃんにお弁当作るの?」
「がっはっ! この扱いの差!!」
でもー可愛いから許すー♪ 再び合掌する颯希ねーちゃん。
うむぅ、いまいちその〝合掌〟の使いどころがわからない。
「ところで何か用でもあったの?」
俺は涙を流して合掌し続ける姉の姿に問いかけた。
「ああ、そうなのよ。ゆうくんに大切な用事があってね」
ぱちり、とウインクしてみせる颯希ねーちゃんからはなんだか不穏な雰囲気を感じる。
「これをゆうくんにお届けに参りました」
手渡される一通の封筒。
差出人には『芹沢美水希ファン倶楽部』とあった。
ん? これってもしかして、ついに俺にも
俺の不安をよそに、もっきゅもっきゅ楽しそうに食事をする芹沢さんに、うっとりと合掌を続ける颯希ねーちゃんの姿が印象的なお昼休みだった。
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