第三話 幕開き 神になっただけ

「絆、ここはどこだ? 随分と荒れ果てているが」


 辺りは繫栄していたであろう街の残額と放置された死体が散らばっている。


「皇帝の生まれ故郷ですわ」

「お前がやったのか?」

「いいえ? 数多の不幸が重なった結果ですわ、私は関係ありません」


 絆は口元を隠して笑っている。

 その時地響きと共に地面が爆発して何かが出てきた! 


「貴様か! 不幸の神! 我が故郷を滅ぼしたのは!」


 巨大な影が人の形をしているモノだった!


「あらあら皇帝? 随分と勇ましいお姿になられて!」

「ふざけるな! 何が勇ましいだ! こんな威厳も何もない影の人間の形が神だと!」

「はい、そうですわ」

「縁君、どういう事?」

「全てじゃないが、神って信仰心のイメージで、姿形が決められるんだよ」

「縁君達は?」

「俺達は半分人間だからな」

「なるほど、信仰心から産まれた神って、真っ白なキャンバスなのね」

「ああ、その表現に近いな」

「お聞きになりました皇帝? 神になられたんですから、それくらい知ってましたわよね?」

「ぐっ!」

「その愚かさ、人間らしいですわ」

「私が愚かだと!?」


 人を小馬鹿にするような笑みと笑い声を出しながら、皇帝を見る絆。

 皇帝は近くの建物を破壊して怒りを当たり散らす。


「え、何か急に馬鹿に見えてきた」

「お兄様? 説明よろしくお願いいたします」

「『意思』かな、一言で言えば」

「意思?」

「『目標』と言うべきか、彼の願いは『神になる事』だったからな」

「どういう事?」

「意思や目標の無い奴が、心身ともに弱いのは必然だな」

「え!? 目標も無く神になったの!?」

「夢は人それぞれだから」

「それはそうだけど……」


 スファーリアは悲しそうな表情で皇帝を見た。


「貴様に何がわかる!?」

「いや、知らないけど可哀想な人だなって思って」

「神になれば何でも出来る、または全知全能とかでもおもったのかしら? 馬鹿馬鹿しいですわ」

「一つ先輩として助言するなら、悪神はめんどくさいぞ? 皇帝」

「敵も多いでしょうね、私以上に」

「前に縁君が信仰心は質だと言った意味がわかるわ、カラッポだものこの神様」

「滑稽ですわよねお姉様? 攻撃してこないのは神になって、私とお兄様の神としての力量の差を感じているからですわ」


 絆は皇帝を嘲笑うが、皇帝は何もしてこなかった。

 言葉通りなら今の皇帝に絆達をどうこうする力は無いのだろう。


「い、言わせてお――」

「今になって自分が誰に喧嘩を売ったのか理解したようですわ、だから何も出来ないのですよ?」

「絆、もういいだろ? 哀れすぎる、殺してやれ」

「そうですわね、お兄様」

「……くっ!」


 明らかに先程と態度が一変している皇帝、何かに怯えるように立ち尽くしている。

 手を出して来ない時点で、皇帝は絆より弱いと証明したようなものだ。


「ふふひ! あははは! ああ! 素晴らしい! 人間らしいですわ! 後になって後悔する!」


 絆は狂った様に笑い出して、皇帝に対して絶賛する拍手をしている。


「言っとくが逃げられんぞ? お前はここで死ね」

「お兄様! 手出しは無用でしてよ!」

「ああ」

「さあ? そろそろ本格的にとっくに始まっている神と神との戦いを始めましょうか!? 遠慮はいりません全力で殺しに来てくださいまし!」


 拍手を止めると絆は傘を開いた。


「我が神器でお相手いたしますわ! 正確には『俺がお前の神器になるぜ!』と熱い情熱と魂を持った伴侶です」

「とっくの昔に後ろに居るぜ!?」


 皇帝の背後から暑苦しそうな声が聞こえる!


「何!?」


 皇帝は巨大な身体で振り返える。

 そこには真っ赤に燃えているような髪の色と髪型と、ボロボロになった雨除けマントを羽織っている男が高い建物の屋上に居た。

 マントで服装は見えないがその男性の顔付きは熱い魂を感じさせる!


「何時気付くのか楽しみだったんだがな!」

「貴様が『神器』だと!? 笑わせるな! ただの人間が!」


 皇帝は男に向かって手から黒い塊を放つ!


「へっ! 皇帝さんよ! 俺はあんたが気に食わなかったんだよ! だが手が出せなかった! 何故ならば! あんたが『人間』だったからだ! 人間にはルールがあるからな! めんどくせぇが!」


 男性は建物という建物を走って飛び移ったり、道具を使って皇帝が放つ黒い塊をひょいひょいかわしていく。


「しかし! 神様になったあんたに人間のルールなんざ意味ねーよな?」


 攻撃を避けながら男はニヤリと笑っている。


「なんちゃって秘密結社! 『子供の秘密基地』が成敗してやるぜ!」


 皇帝の攻撃が終わると男はビシッと皇帝を指差した!


「な、名前がカッコ悪くない?」

「それは言わない約束だぜ? 未来の姉貴!」


 暑苦しい笑顔でスファーリアの方を見る男。


「む、貴方にお姉さんとは言われたくない」


 スファーリアは嫌な顔をしていた。


「お、悪い悪い! 俺の名前はきょう! かがみって書いて鏡だ! 馴れ馴れしかったな! 確かによくしらん奴からそう言われたらいい気分はしないか!」


 鏡はサムズアップで自分を指差しながらスファーリアに頭を下げている。


「私はスファーリア」


 軽く頭を下げるスファーリア。


「んじゃ、続きの自己紹介は後にしてコイツを断罪する!」

「ふ、ふははは! ただの人間に負ける私ではないわ! 貴様からは何も感じぬぞ! 人間!」

「へっ……だろうな! だが!」


 鏡はマントで見えなかった刀を抜き、それを天に向かって掲げてた!


「我が信仰する断罪の神ベルモーン・ベルリッタよ! 罪深き人ならざる者を裁く力を我に!」


 そう大声で叫ぶ鏡!

 すると天から青い光が鏡の目の前に現れ、それが徐々に広がっていく!


『貴方に神と人の英知の結晶を』


 辺りに女性の声が響いた次の瞬間、その天から降り注いでいる光から何かが降ってきた!

 凄まじい音と共に勢い良く降ってきた何かは土煙を上げた。

 徐々に土煙は晴れていくと……。


「神と人の英知! 断罪丸参上!」


 スタイリッシュで高速移動が得意そうな青色がベースのロボットだった!

 が、大きさが13センチくらいのフィギュアサイズである。


「……え? 小さすぎない?」


 スファーリアはその場に居る者の代表をするかのように拍子抜けの感想のような声を出した。


「これからが本番さ!」


 鏡は抜いた刀を納刀する。

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