第二話 幕切れ 想いっ切り蹴るだけ

「馬鹿な、神の復活には信仰心や時間が必要なはず」

「どうした斬銀? 手を出さないのか?」


 信じられない出来事に戸惑う斬銀を睨む縁。

 何時ものわざとらしい神様口調や物言いではなく、立ち姿で神様の風格を表している。

 表情を変えずにただ斬銀という敵をジッと見ている縁。


「へっ、甘く見ていたのは俺だったか、ならば奥義で答えよう」


 斬銀は今自分が感じている恐怖を吐き出すように、空元気な笑いと溜め息する。

 覚悟を決めた顔をする斬銀は右手を前に少し突き出し、左手は自分の心に問いかけるように胸へ。

 縁は斬銀から感じた恐怖に後退りをして冷や汗をかいていた。


「最終奥義『斬心全心きしんぜんしん』」

「二人共、もう少し下がってろ」


 斬銀から目を逸らさずにそう言った縁だが、自分が見ている人物が放つ言い表せない威圧感を放っている。

 絆とスファーリアは言われた通りに下がった。

 その時トライアングルがスファーリアに何かを訴えるようにクルクルと周りを回りだす。


「縁君」

「小さい頃に君と出会っていたのを思い出した」


 トライアングルビーダーを縁向かって投げるスファーリア。

 縁は振り返らずにトライアングルビーダーを受け取った。


「演奏したり、お礼に界牙流を見せてもらったりな」


 お互いに顔は見ていないが優しく笑う2人。

 だが直ぐに縁は目の前の敵を睨み、トライアングルビーダーを槍のように構える。

 斬銀は先程の構えから動かずにただ縁を見ていた。

 縁は一直線に斬銀を目指して突撃。

 トライアングルビーダーを突き出し地面を蹴り、その一歩で斬銀の間合いに入る。


「絶滅演奏術! 根絶!」


 斬銀の腹部に思いっきりトライアングルビーダーを突き立てる縁。

 金属がぶつかり合う様な低温の音が辺りに響き渡った。


「俺には通じないぞ?」

「!?」


 微動だにしない斬銀を見て直ぐに縁は後方へ飛んで斬銀から距離をとった。


「いっ!」


 飛んでいる最中に縁は身体から血を流し始めた、着ていた和風は刀傷のように斬られていて、無数の傷口見て取れる。

 縁は間合いに数秒居ただけでこの傷を負うことを認識した。


「質問いい絆ちゃん? 縁君が完璧な演奏術をしている」

「お兄様は自分と心を通わせた人物の力を借りる事ができますの」

「なるほど、縁君はいい判断した『根絶』は音が身体を蝕んでいく演奏術」


 スファーリアはただ真っ直ぐに縁を信じる目で目の前の戦いを見ている。


「直ぐに離れたのはいい判断だが」

「何!?」


 縁の持っていたトライアングルビーダーが高い金属音を出して真っ二つになった!


「絆」


 壊れたトライアングルビーダーを絆に投げ渡しす。

 絆は小さい肩掛け鞄にスルスルとトライアングルビーダーを入れていく。


「トライアングルビーダー入るんだ」

「お兄様の『神器』ですから」

「なるほど」


 絆の一言で納得するスファーリアは視線を斬銀に戻す。


「もう終わりか?」


 斬銀は構えを解かずにゆっくりと縁に近寄っていく。


「貴方がね」


 スファーリアはニヤリと笑った。


「……ぐっ!」


 斬銀が急に苦しみだして膝を付いた。

 身体からは脂汗が出ており、かなりの痛みが走っているのだろう。


「私の楽器を破壊してタダで済む訳ないでしょ? 『音』が出るんだもの」

「お姉様いったい何が?」


 絆は目の前の光景にびっくりしていた、今の縁ですら苦戦するであろう斬銀があっけなく倒れたからだ。


「楽器の破損音には演奏術の効果を格段に上げる効果があるの」

「ハッ! 面白い小細工じゃねーか! だが!」


 斬銀は自分の両方のふとももに対してツボを押すように両手でそれぞれをグッと食い込ませる!


「この程度の死地は乗り越えてきた」


 脂汗は引かないが斬銀は立ち上がった、我慢しているようだ。


「なら小細工は無しだ」


 縁の呼吸も荒くなる、斬銀に受けたダメージが多かったのだろう。


「小さい頃に教わった界牙流、それを使う」

「界牙流? 中途半端な付け焼き刃が俺に効くと?」


 斬銀は脂汗を垂らし震えながらも先程と同じ構えをする。


「蹴るだけだ、中途半端か確かめてみろ」


 縁は足を肩幅に開いて目を閉じた。


「んじゃ、見せてもらおうか? 君の想い」


 スファーリアの隣にいつの間にか風月が居て、期待の眼差しで縁を見ている。


「行くぞ!」


 縁は目を見開いた!


「ハアアアアアァァァァ!」


 魂の叫びを吐く縁!

 地面が揺れ、空間すらも揺るがしかねないその叫びは城を崩壊させるのには十分だった。


「これは!」


 目の前の縁を見て斬銀は攻撃を受け止めようる構えをする。


「お姉様、城が崩落を始めそうですから傘に入っ――」


 絆は傘を開いてスファーリアを見た。


「……」

「……」


 スファーリアと風月の縁を見る目が何かを見定めようとする目をしている。

 絆は立ち入ってはならないと思いそれ以上何も言わなかった。


「かいがりゅうぅぅ……」


 縁はそう言うと斬銀に向かって走り始めた!

 一歩一歩が大地を揺るがすような振動を起こしている!


「ただのおおぉぉ……けりいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 縁は純粋にただの跳び蹴りをした、なんのなんてことないこの蹴りには想いが込められていた。


「ぐっ! ぬう! こ、この威力は!」


 両手を重ねて跳び蹴りを受け止める斬銀、巨体が縁の蹴る勢いで動いている。


「ぬうおおおぉぉぉぉぉぉ!」


 斬銀の足元の地面が徐々にえぐれ、踏ん張ると共に縁の蹴りを受け止めているからか、身体から血を流し始めた!


「……やるな」


 不意に斬銀は笑った、負けを悟ったのと同時に自分の信頼する友の成長を見れたのが嬉しい、そんな笑みをしている。


「人を好きになる覚悟が中途半端な訳ねぇだろうが! この筋肉やろぅがああぁぁぁ!」

「ああぁぁぁぁれえぇぇぇぇー!」


 縁の魂の叫びと想いが込められた跳び蹴りを受け止めきれなかった斬銀は、城の壁をぶち破り勢い良く飛んでいった!


「みたか……筋肉野郎が! はぁ……はぁ……ごばぁ!」


 縁は蹴り終わるとそのまま地面にぶっ倒れて口から大量の血を吐いた!


「お、お兄様!?」


 絆は縁の蹴りの威力に我を忘れていたが、血を吐いた兄を見て正気に戻りすぐに駆け寄った!


「ん~及第点」

「厳しすぎ」


 風月は口を尖らせてそう言った。

 スファーリアはジト目で風月を見る。


「だってあたしにはまだ言ってもらってないもん」

「すねるな、自分」

「あたしにはなんて言うのか楽しみにしとくよ、ほれ愛しい人が血反吐吐いて倒れてるんだから心配してあげな?」

「貴方にとっても愛する人でしょ?」

「へーんだ、私はまだ言ってもらってないもんねー」

「まだ言うか?」

「おーこわ、じゃあね」


 風月はそう言うとそよ風と共に消えた。


「はぁ……」


 スファーリアは溜め息をしながら縁に近寄る。


「どうしましたお兄様!? あの筋肉クソ達磨の馬鹿がまだ何か!?」


 絆は半狂乱になりながら兄の身体を見ている。


「違うよ絆ちゃん、界牙流の反動」

「反動!?」


 バッとスファーリアを見る絆。


「界牙流は技のほとんどが身体に負荷を与えるの、技の反動に耐えられる身体が必要」

「……ここまでとはね」

「神様じゃなかったら死んでる」

「すまない」


 縁は自分の身体を落ち着かせようと仰向けになり、リズムがある呼吸をしている。


「縁君ありがとう、あの斬銀君は今の縁君じゃないと対処出来なかったと思う、私もまだまだ」

「わりぃな、トライアングルビーダーを折っちまった」


 呼吸が落ち着いてきた縁はスファーリアと目を合わせた。


「それはいい」

「直して返すよ」

「ごめんなさいお兄様! 私の神器があればあんな筋肉クソ達磨なんて簡単に葬れましたのに!」

「落ち着け、お互いに自分のする事をしただけだ」

「落ち着いていられませんわ! 今度会ったらちょっとイラッとする不幸を振りまきます!」

「え? あれくらって生きてるの?」

「ええおそらくは! お兄様とお姉様の間を引き裂こうとする輩は私が不幸にしてやりますわ!」

「まあぼちぼち帰ろうぜ、しばらく俺は安静だな」

「私もこの傷だと戦えない」


 縁はゆっくりと身体をおこして時間をかけて立ち上がった。

 スファーリアは自分の怪我した部分を触る。


「では帰りましょう、皇帝よりもお二人の怪我が心配ですわ」


 絆は何時もの調子を取り戻したのか優雅にお辞儀をした。


「神になるんだったっけ? 対処しなくても大丈夫なの?」


 スファーリアは首を傾げたその時、城が揺れ始めた!

 城が崩壊するような激しい揺れだ!


「そんなの何時でもできますわ、この場は撤退します、私にお任せを」


 絆は指を鳴らすと絆達は黒い光に包まれてその場から消える。

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