第二話 演目 通り過ぎる絶滅の音

 帝国を目視出来る場所まで戻ってきた縁、絆、スファーリアの3人。


「突撃する前に……各々やりたい事を確認しましょ」

「俺はあの隊長さんの思い出を交渉材料にした奴を幸せにする」

「恐らくは皇帝でしょ? 私は皇帝に忠告が出来ればいいですわ」

「なら、道中の降りかかる火の粉は私が払う」


 スファーリアは先頭を歩き出し、縁と絆はついて行く。

 帝国の入り口までやってきたが、3人は案の定門番に止められる。


「なんだお前らは? ここがイズールと知ってるのか?」

「通りたかったら袖の下か、少し俺達の相手をしてくれれば通っていいぜ?」


 スファーリアはその言葉を聞いてニヤリとした。


「『相手をすればいい』のね?」

「ああ、そうさ……へへへ……」

「おうお前ら! この人が相手をしてくれるとよ!」


 近くの扉からぞろぞろと帝国の兵士が現れた。


「なかなかの上玉じゃねーか」

「楽しくなりそうだぜ」


 完全に油断しながらスファーリアに近寄る兵士達。


「対人拡散演奏術『病』」


 スファーリアはボソッとそう言った。


「は? 何か言って――」


 近寄ってきた門番は品定めをするようにスファーリアの顔を覗き見る。

 無表情なスファーリアだったがニヤリと笑う。

 その笑い方は覗き込んだ兵士は声を上げずに恐怖なのまれている顔をした。

 スファーリアはトライアングルビーダーで素早く持ち兵士の心臓付近を突く!


「ぐっ!」


 兵士は白眼を向いて倒れた、周りの兵士達は驚く時間も無く同じように倒れ始める。


「何? ここの帝国は兵士の実力が低すぎ」


 トライアングルビーダーで兵士をつつくスファーリア。


「お姉様の言い方だと他の帝国と名の付く国の兵士と戦った事があるような言い方ですわね」

「昔、お母さんと悪党殺し続けてたら、結果的に色々人達と殺し合う事になってね? ほとんどが私の様々な経験になってみんな死んでいったわ」

「つまりお姉様の強さは実戦による死闘で鍛えられたのですね?」


 絆は動かない兵士を傘でツンツンとつついていた。


「そう、だから自分が強くないのに偉そうにしてる奴を見てると殺したくなるの」


 スファーリアはトライアングルビーダーで地面を思いっきり叩いた!


「痛い目みたはずなのに数揃えれば勝てると思ってるアホとか、武器ちらつかせれば怯えると思ってる馬鹿とか……ま、みんな死んでったけど」

「聞く限り死んで当然だな」

「まあね、あ、縁君これ預かっといて?」

「ほいよ」


 縁は帽子を受け取って鞄に入れる。


「久しぶりに本気で殺しまわるけど」

「どうした?」

「縁はこんな私を見て興味を持ってられるかな?」

「人を好きになるというのは生半可じゃないのさ」

「ふふ、縁君ならそう言うと思った」


 スファーリアはトライアングルビーダーを頭上に投げた!

 そして右手で自分のローブを掴み、マントを荒々しく外すように一瞬でローブとスカートを脱ぎ捨てた。

 ローブとスカートを脱ぎ捨てたスファーリアの服装は、風月のような動きやすい格闘服、色は真っ黒だが所々に音楽で使う記号などが描かれている。

 投げたトライアングルビーダーがスファーリアの背後の地面に刺さり、スファーリアはトライアングルビーダーに寄りかかった。


「あらあら、汚れてしまいますわ」


 絆はスファーリアが投げ捨てたローブとスカートを拾って縁の鞄に入れる。


「ん~久しぶりに先生の制服脱いだわ! じゃ……行きますか」


 スファーリアは身体の軽さを感じるかのように振る舞っていた。

 そしてトライアングルビーダーを引っこ抜いてそれを右手で持ち右肩に担ぎ歩き出す。

 帝国内を歩いて中央広場にやってきた、周りにはベンチやら時計等がある。


「ここまで人に出会わなかったけど、隠れてるのかしら?」

「お姉様、どうなさるつもりですか?」

「さっきからね、不幸の音が耳鳴りのように響いて鬱陶しいの」

「確かにこの国から感じる幸福は胸くそ悪い物しか感じない」

「ならやる事は一つ、お母さん直伝演奏術で全て殺すだけ、この場には救えない命と救わない命しかないから」


 スファーリアは楽しそうな顔をしながらトライアングルを召喚する。


「絶滅演奏会第一部、第一楽章『崩壊』」


 スファーリアはトライアングルビーダーを真上に投げる。

 トライアングルを右手で掴み、それを思いっきり地面に叩きつけた!

 辺りにトライアングルの高音が響く!


「あの皇帝が居そうな建物は防音をしているようね、直接聴かせに行きましょう」


 スファーリアは目線の先にある如何にもなお城を指差した。


「凄いですわ、悪しき不幸が無くなっています」

「行くよ」


 絆は演奏会でも聞いたかのように拍手をしている。

 真上に投げたトライアングルビーダーが落ちてきて、スファーリアはそれを右手で受け止めた。

 三人は城を目指して歩き始める、そしてなんの妨害もなく城の前までやってくると、城門の前には大量の兵士が居る。


「出てきたら? それで隠れたつもり」

「ふっふっふ、やるじゃないか」


 何も無い場所から如何にも偉そうな鎧と態度の男。

 そして周りには如何にもなビキニアーマーの姿の様々な容姿の女達が光に包まれてあらわれた。


「俺は帝国イズール親衛隊隊長のゴルマーキ・ステッセだ!」


 ナルシストポーズをしているゴルマーキ。


「俺と俺のワレキューレ達が此処を通さないよ?」

「お兄様、どうしましょう……ノリが古いタイプの転生者ですわ」

「異世界人ってのはほとんどが馬鹿だからしかたないよ」

「縁君、絆ちゃん、あんなの見ちゃいけません、さっさと城の中にはいりましょ」

「そうだな、記憶も引き継いでるのか知らんがあいつも隷属の神が絡んだ転生者だな」

「お兄様? 転生者とは聞いてもないのにベラベラと説明する事が大好きな人達の事といずみから聞きました」

「いずみがそれを言うか」

「無視しましょ」


 スファーリアが歩き出すとそれに続いて縁と絆も歩き出す。


「通さないって言ってるだろ? ワレキューレ達、慈悲を持って殺してあげるのだ!」


 ゴルマーキは高らかに右手を挙げた。


「「「「「はい!」」」」」


 弓矢を構えて一斉に矢を放とうとするが。


「馬鹿らしいから黙ってて?」


 スファーリアは歩きながらトライアングルビーダーで強くトライアングルを叩いた。

 するとバタバタと取り巻きの女達は人形の糸が切れたように倒れる。


「な、何だ!? 俺のワレキューレ達が!? どうしたんだ!?」


 状況が呑み込めないゴルマーキはうろたえる事しかできなかった。


「演奏術を使うまでもないから相手にしたくないけど、特別に相手をしてあげましょうか?」


 スファーリアは歩みを止めてゴルマーキを見ている。

 城門を守っていた兵士達も既に死んでいた。


「な、なんなんだお前達は!」

「答える必要は無いわ、雑魚は雑魚らしくしていなさい?」


 目の前の光景を信じきれないゴルマーキはヒステリーをおこしていた。

 そんな彼を見てスファーリアは冷たい目をして鼻で笑っている。


「ああ、私の言ってる雑魚とは努力もしないで威張りちらしてるクズの事を言ってるから間違わないように」

「お、俺が雑魚でクズだとぉ!?」


 ゴルマーキは腰に下げていた豪華な装飾の剣を抜く。


「じゃあ、私と殺し合いするって事でいいかな?」

「このままコケにされてたまるか!」

「じゃあ慈悲で現実を叩き込んで終わりにしてあげるわ」


 スファーリアはトライアングルビーダーを縁に投げ渡した。


「お兄様? 道具係が板についてきましたわね」


 楽しそうに笑う絆と、妹の言葉に縁は苦笑いをしながらトライアングルビーダーを見た。

 よく手入れをされているが小さい傷が所々にある。

 縁は鞄から柔らかそうな布を取り出してトライアングルビーダーを拭き始めた。

 するとピカピカの新品のように傷が無くなってく。

 スファーリアの周りで待機していたトライアングルが縁の傍へ移動してきた。


「お前も拭いてほしいのか?」


 縁の言葉にクルクルと楽しそうに回っているトライアングル。


「よしよし」


 トライアングルを布で拭いてやる縁。

 そんな微笑ましい状況とは裏腹にスファーリアは殺意をむき出しにしてゴルマーキをみていた。


「貴方を見習って私もベラベラ喋る事にするわね? 私は努力してきた中で色々な経験をしてきた、泣いたり、殺されかけたり、脅されたり、でもその中で私なりの線引きが出来たわ」


 軽く笑いながらゆっくりとゴルマーキに向かって歩き始める。


「恐怖で失禁した事があるって言うと、笑ったり、いやらしい事を考えたりするの……どうしてかしらね?」

「それはお前が弱いからだろうが!」

「そう……それが貴方の答えね」


 スファーリアは歩みを止めて無表情でゴルマーキを見た。

 二人の距離は2メートルも無い。


「もう一人の私ほど扱えないけど界牙流で相手をしてあげる」

「知らない流派だ!」


 ゴルマーキはスファーリアに対して剣で斬りかかってくる!

 スファーリアは目を閉じ深呼吸をする、右手を上に、左手を下へ。

 その両手を半回転させると徐々にスファーリアの身体から緑色のオーラが溢れてくる。

 ゴルマーキの剣がスファーリアに振り下ろされた!

 しかし、剣は音を立てて折れる。


「なっ!」


 隙だらけのゴルマーキを見逃すほどスファーリアは優しくない。


「界牙流、力量対価」


 緑のオーラを右手に集め、その右手でゴルマーキの胸の中心を殴った。

 吹き飛びはせず、少しよろける程度の衝撃を受けたゴルマーキは殴られた個所を確認している。


「さ、行きましょう」


 スファーリアは振り返ってトライアングルを手入れしていた縁は頷き、絆はゴルマーキに近寄り哀れみの目をして見る。


「こけおどっ!?」


 ゴルマーキは突然その場に倒れ苦しみ始めてうごめく事しか出来ない。


「貴方みたいに恐怖を知らない人間が簡単に人を殺せるの」

「ぐっ……ゴホッ! ガハッ!」


 ゴルマーキは血を吐き始めながら地面でもがいている。

 3人は城の門に向かって歩き始めた。


「スファーリアさん、あれはどういった技なんだ?」

「界牙流の技でも普段は使えないと言われる技」

「使えない?」

「努力している人には効果が無いから」

「うーん、まあ、言葉だけではよくわからんけども」

「艦隊言うと『自分の使う力が努力に見合ってるか、見合っていなかったら身体が崩壊する』技」

「わお」

「ちっ……く……しょ……」


 何時の間にか血だまりに溺れているゴルマーキは虚ろな目で生の最後を迎えようとしてしていた。。


「貴方は運が悪いわね……フフフ」


 ゴルマーキは動かなくなり、絆は優雅に振り返ってため息をする。


「それはさておき、やはり私が手を下さなくとも悪しき不幸が溜まってそれがあふれている」


 そう言うと傘を差して優雅に城門を見上げた。

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