第六話 兎と砂時計その5

「椰重ちゃんの病室はここみたい」


 縁とスファーリアは目の前の扉を叩いた。


「椰重ちゃん?」


「ああ、先生かどうぞ」


 病室の中から女性の声がした、スファーリアは扉を開けて中に入り縁もそれに続く。


「椰重ちゃん、大丈夫?」


 病室に既に色鳥は居た、そしてベットには女性が身体を起こしている。

 色鳥は椅子に座っていた。


「不覚だ、まさか自爆するとは思わなかった」


 黒く綺麗な長い髪と整った顔立ち、だが所々包帯が巻いており、痛々しい。

 この女性が桜野椰重なのだろう。


「ん?」


 女性は縁に気付いた。


「おお、貴方が色鳥が言っていた兎殿か」


「どんな紹介したんだか」


 縁はジト目で色鳥を見た、そしてスファーリアはボソッとこう言った。


「私より速いとは……」


 スファーリアはハッとして椰重を見た。


「それよりも椰重ちゃん、怪我は?」


「大丈夫だ、今は少々痛む程度だ」


 どう見ても重傷なのだが、椰重は笑って右手を動かしている。


「本当に良かった、搬送だなんてただ事じゃねーだろ」


 色鳥はうなだれている、その顔には安心と不安が入り混じっていた。


「この位では死なんぞ? 私は生きねばならない、お前に『死ぬ覚悟は何も生まない』と言ったからな」


 椰重は強い目をして色鳥を見ている。


「椰重ちゃん、目標あるものね」


 スファーリアは口元は笑い優しい目で椰重にそう言った。


「ああ、私は色鳥と結婚する、その先も私は生きねばならない」


「友人だからこそ言えるが、色鳥の何処がいいんだろう」


 ジト目で縁は色鳥を見ている。


「普段の言動や態度はふざけているが、剣は嘘はつかない、真面目な男だ」


「なるほどなるほど、今度祝福してやろう色鳥」


 縁は色鳥に対して手を合わせた。


「病室で手を合わせるな、それにお前の祝福はいらねーよ」


「まあまあそう言わず」


 縁は色鳥に近寄る。


「宗教勧誘やめーや」


 色鳥はうざそうしているが、縁とわちゃわちゃしている。


「ふむ、色鳥から神様と聞いていたが……イメージが違うな」


 椰重は興味深そうに縁を見た。


「神様にどんなイメージが?」


「ふんぞり返って、偉そうにしていて、何かしら人間に害を及ぼし、身勝手だ」


 椰重はジッと縁を見ている。


「おいおい、縁も一応は神様なんだがな?」


 色鳥は縁の背中をポンポンと叩いた。


「あくまでもイメージだ、私は兎殿を人柄を周りから聞いたくらいだが、色鳥の親友がつまらん神様であるはずがない」


 椰重は縁の目を見てそう言う。


「そう言えば自己紹介がまだだったな、俺は縁だ」


「こちらこそ失礼した、私は桜野椰重だ」


 椰重と縁はお互いに軽く頭を下げた。


「ふと思ったのだが……縁は本名なのか?」


「そうだけど?」


「神様は長い名前のイメージが有るのだが……本来は長いのか?」


「ああ」


 縁は頷いた。


「そうなのか、にわか知識だが知ってるぞ、高位の神様は本名を名乗ると世界に影響を及ぼすとか」


 椰重は表情一つ変えていなく無表情に近い。


「俺は高位じゃないから大丈夫だ」


「ほう、ならば名乗らぬのには何か理由が?」


「妹と守る為に世間と戦ったんだが、人様に見せられる姿じゃなくなってね」


 縁は自分の右手を見た。


「と言うと?」


 椰重は首を傾げた。


「人の怨念で血だらけみたいな姿になったのさ」


 縁のその言葉にスファーリアが眉をひそめる。


「ふむ、今は普通のように見えるが」


 椰重は縁の全身を見る。


「それはこのウサミミのおかげだな」


 縁はウサミミカチューシャを右手で指差した。


「そうなのか、正直ジャージにウサミミカチューシャはどうかと思ったのだが、理由があったか」


 椰重はズバッと自分の意見を言った、縁は苦笑いをし、スファーリアは何故かしかめっ面をしていた。


「椰重、お前は正直過ぎる」


 色鳥は溜め息をした。


「性分だ色鳥、して人の怨念と言ったが、何をしたのだ?」


「人を幸せにした結果だよ」


「む? 幸せにしたらなば喜ばれるのでは?」


「コイツの幸せはな『不幸を呼ぶ幸せ』だったのさ、誤解の無いように言っとくが、幸せの神様なのは間違いない」


 色鳥は縁を指差しながら言った。


「ふーむ、難しいな」


 椰重は自分なりに考えているようだ。


「んだな、一言では説明出来な……」


「出来るよ」


 スファーリアが割って入った。


「縁君は大切な人を守る為に理不尽な人間と戦って、人間に理不尽に恨まれただけ」


 スファーリアの顔は珍しく怒っていた。


「自業自得と言われたけどな」


 縁は鼻で笑いながらそう言う。


「それを言ったのは、頭にお花が咲いてそうだから無視していい」


「怒ってる?」


「当たり前、その話は初めて聞いたから」


「あれ……言ってなかったっけ?」


 スファーリアから放たれているオーラに圧倒される縁。


「縁君が絆ちゃんを守る話は聞いた事あるけど、怨念は知らない」


 スファーリアは縁を睨んでいる。


「人様に話したら不幸自慢に聞こえるらしくてな、俺の話しもそうだったな」


 色鳥は溜め息をして首を振りながらそう言った。


「その話を自慢と捉える人は人間じゃない」


 スファーリアの言い方はトゲだらけである。


「先生は理不尽は大嫌いだからな、私も嫌いだが」


 椰重はスファーリアを見ていた。


「縁殿が好き勝手暴れて、恨まれたならば自業自得だが違うのだろう?」


 縁に問いかける椰重。


「多少なりと好き勝手してしまった部分は有るけどね」


 昔を思い出すように縁は溜め息をした。


「縁良かったじゃないか、お前ら兄妹を理解してくれる人が居てさ、だからスファーリア先生は怒ってるんだろ?」


 縁を軽く背中を叩いた後にスファーリアに確認をするように見る色鳥。


「絆ちゃんは好きだからね」


 スファーリアは少し優しい笑う。


「お、縁は?」


 色鳥はニヤニヤしながらそう言った。


「色鳥、お前も失礼な奴だな」

 

 縁はジト目で色鳥を見る。


「そうね、トライアングルビーダーを使って、トライアングルを奏でる音色による」


 スファーリアは『君に出来るかな?』と目で訴えていた。

 それを見た縁は……


「宝石箱の鍵の束は渡せるが……開けられるかな?」


 と、同じような目をしながらスファーリアに言った。


「もうお前ら付き……」


 そんなやりとりを見た色鳥は呆れてたが。


「色鳥君、私は縁君をちゃんと知らないの」


「色鳥、いい加減な気持ちで付き合える訳ないだろ、馬鹿かお前は」


 ほぼ同時に色鳥に対してそう言ったスファーリアと縁、息がぴったりだ。


「縁、馬鹿まで言わんでもいいだろ?」


 2人の地雷を踏んでしまった事を感じた色鳥は、少し落ち込んでいた。


「ふふふ……面白い夫婦漫才だ」


 椰重は息ぴったりな2人を見て笑ったいる。

 そんな和気あいあいな雰囲気をよそに、病室の扉をノックする音が。


「失礼するよ」


 アフロ白衣の男性が入ったきた。


「縁、スファーリア先生、ちょっといいか?」


 手招きをしているアフロ白衣の男性。


「アフロ先生?」


「なんだろうか」


 スファーリアと縁は病室を出た。


「縁、悪いが追加注文だ」


 また封筒を縁に渡すアフロ白衣の男性。


「わかりました」


 縁は封筒を鞄に入れた。


「スファーリア先生、桜野学園に向かってくれ」


「何かあったのね」


 スファーリアはトライアングルを自分の周りに出した。

 トライアングルの大きさは何時もスファーリアが乗っているくらいの大きさである。


「ああ、ついさっきまたジャスティスジャッジメントが攻めてきた」


 アフロ白衣の男性の言葉にスファーリアの顔は無表情になった。


「そう……死にたいらしいね」


 スファーリアはトライアングルビーダーを召喚する、棒術で使いそうな大きさのそれを肩で担いだ。

 

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