第四話 桜と祝福の鐘その1

 長谷川は今日もレアスナタをプレイしようとしていた。

 受け付けを済ませ、個室に入り、シートベルトを付け、ゴーグルを装着。


「いざ! レアスナタの世界へ!」


 長谷川はスタートボタンを押した、縁になる瞬間である。

 特にゲーム内で約束は無かったので、面白そうなシナリオを探しに、ロールエリア受け付けロビーに居た。


「さてと、これからどうすっかな~」


 縁は身体を伸ばした後、ロビーを見回した。

 人が大勢居て活気がある。

 ロールとシナリオの確認、反省会をしている人達、待ち合わせをしている人と様々だ。


「お、縁じゃないか」


「む?」


 縁は声のした方を見た。


「久しぶりだな、ウイッス」


 縁に話しかけたのは、上半身が裸で下半身が鎧、ちょいワルオヤジを目指したような顔と髪。


「こんにちは、斬銀さん」


 縁は軽く頭を下げた。


「これから始めるのか?」


「はい」


 縁は頷いた。


「どうだ?一緒に」


 斬銀は受け付けカウンターを指差した。


「いいですよ」


「んじゃ、カウンターに行こうぜ」

 

 2人はカウンターへと移動しようとした。


「お、縁さんじゃないっすか」


「おお! 縁ちゃんじゃないか!」


「本格的に復帰した初日に縁ちゃんとは、運がいいですわ~」


 縁は3人に話しかけられた。


「ん?」


「おや?」


「あらま」


 一人は風月だった、中華風の衣装を身にまとっている。


「モテモテな縁さんであった」


 風月は笑って縁をペシペシと軽く叩いた。


「久しぶり、風月さん」


 縁は頭を下げた。


「お久しぶり~元気してた」


 風月は手を振った。


「はい」


「よし、風月さんの挨拶は終わったから、どうぞ」


 風月は斬銀と世間話を始めた。


「マジで久しぶりだな、縁ちゃん」


「フォルクさん、元気でしたか?」


「ああ、一番下の子供が高校生になったからね、子離れついでに本格的に復帰さ」


 フォルクという男性キャラクターは、白髪混じりの黒髪と長いヒゲ。

 世直しの隠居が着ていそうな和服と杖を突いていた。


「しかし、復帰初日に縁ちゃんと鉢合わせるとはね、運がいいですわ~」


「青桜さんお久しぶりです」


 縁は頭を下げた。

 青桜は薄い青色の髪に、青色の桜の模様がある着流しを着ていた、左腰に青色の刀をさしている。


「縁ちゃん、元気してた?彼女できた?」


 青桜はニヤリとした。


「昔『女なんざ桜の種類以上居るんだから、ときめきな!』と、思春期の俺に言いましたよね、懐かしい」


「いや縁ちゃん、貴方昔っから浮いた話の一つも無かったじゃん?」


 青桜はペシっ! とおばさん叩きで縁を叩いた。


「それは置いといて、縁ちゃん、良かったら一緒にどうだい?」


「公式イベントの前準備のシナリオを消化しようかとね、昔みんなで決めたシナリオがあったろ?」


 フォルクは笑った。


「懐かしいですね、加護持ちの皆で1人1つ決めましたよね」


 縁は頷いた。


「俺達も混ぜてくれよ~」


「そうだ~混ぜろ~」

 

 風月と斬銀は両手を上げ下げして抗議をしている。


「もちろんだとも」


 縁は頷く。


「シナリオは確認してくれよ?」


 フォルクは斬銀達を見た。


「んだね」


「まあ、パーティー組んでだな」


 縁達はパーティーを組んだ。


「これなんだがな」

 

 フォルクはパーティー全員にシナリオを提示した。



『シナリオ悪人の村』


村が悪質な強盗団に占拠された! 救え!




「いや、シンプル過ぎるだろ、参加させてもらうぜ」


 斬銀は笑った。


「あたしは構わないよ、悪人はせいぶぁいだ~」


 風月は両手を上げている。


「ああ、そいやちゃんと自己紹介してなかったね」


「んだな」


「軽く名前だけで、失礼させてもらうよ」


 青桜はクールに笑った。


衣通姫そとおりひめ青桜だ」


 青桜は左手を刀にかけた。


「ほう、その刀に名前は有るのか?」


 斬銀は興味有り気に聞いた。


「ああ、ま、それはロール中にな」


「質問」


 風月が手を上げた。


「その刀って『武器コントローラー』っすか?」


「ああ、そうだ」


「ほ~なるほど」


 風月は刀をまじまじと見た。



 武器コントローラーとは、プレイヤーが実際に剣や刀等の武器を振り、それがゲームに反映され。出た当初は人気が高いのだったが、実際に振るとなると色々問題がある。

 コントローラーの制作費もだが、使用出来る店舗や条件が限られ、プレイ料金の他にも、保険料等も払わなければならないため、一部の層にしか人気は出なかった。



 そしてなにより。



「姫さんの実力はどうなんすか?」


 風月は首を傾げた。


「見てみるか?」


 ほぼプレイヤーの実力がそのまま現れるのだ。


「お願いしますわ」


 風月は青桜に近寄った。


「ま、お遊び程度に」


 青桜はゆっくりと右手で刀を抜いた、矛先だけ、鞘に隠れていて完全には抜いていない。


「むむ?」


 風月は動こうとした。

 シャ! っと、何かが風を斬る音がした。


「満足したかな?」


 青桜は笑っている、刀を両手で持っていて、刀の矛先は風月の首を捕らえていて、ゲームでは味わえない『速さ』があった。


「死なないけども、怖いっすな」


 風月は苦笑いした。


「いやいや、失礼」


 青桜は刀を納めた。


「おお、納刀が綺麗だ、マジで何か武術やってる人だな」


 斬銀は感心した目で青桜を見た。


「まあな」


 青桜はドヤ顔をしている。


「お前のデモンストレーションは、なげーんだよ」


 フォルクは苦笑いした。


「俺はフォルク・スワーだ、あ、名前がフォルクで名字がスワーな」


 フォルクは親指を立てた。


「あたしは風月です、よろしく~」


「俺は斬銀だ」


 風月と斬銀は軽くお辞儀をした。


「よし、挨拶したし、そろそろロール開始しようぜ」


 フォルクはベルを取り出した。



 このベル、正式名称『開始宣言確認の鐘』は運営や手伝ってくれるプレイヤーに開始宣言を通知する鐘なのだが、名前が長いのでベルと呼ばれている。

 他にも開始方法はいくつかあり、ベルは方法の一つだ。

 ベルはパーティーにシナリオ開始の合図と共に、指定した秒数の後、パーティーをロール開始地点にワープさせる。



「フォルクさん、流石に出だしは考えないと」


 縁は苦笑いをした。


「ふむ、出だしは大丈夫だぞ?」


 フォルクは腕を組んで考え始めた。


「縁達は開始地点で待っててくれ」


「わかりました、雑談でもしてます」


 縁は頷いた。


「後は流れであたし達が話しかけるからさ」


 青桜はウィンクをした。


「オッケー!」


 風月は手を上げた。


「じゃ、始めるぜー」


 フォルクはベルを鳴らした、縁達は光に包まれる。

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