第34話 いつかテメーもぶっ飛ばしてやる!






「変質者だー! この覗きめー!」






 誰が変質者だ! 女の裸ならともかく、好きで男の裸なんか覗く奴があるか! 私は男湯に落ちた事で完全に変質者扱いされてしまった。しかもその場所はこの国の警備兵達が駐留する兵舎であったため、私は犯罪者として追われることとなる。この国の兵士の強さは尋常ではないため、まともに相手するわけにもいかず私は逃げることしかできなかった。






「居たぞー! こっちだ!」






 何度も路地裏や屋根の上を逃げるも、逃げた先にまた別の部隊が待ち受けている。何だかその数も次第に増えているような気がした。どうする? これじゃあジリ貧一方だ、リチャードに会うため城に近づこうにも敵の数が多すぎるし、行方知れずの仲間たちの事も気になる。敵攪乱用の武器も魔女との戦闘まで温存しておきたい。私は考え中や行けないことが多すぎてパニックになりそうだった。






「もう逃げられないぞ!」






 気が付くと前からも後ろからも敵が来ていた。追い詰められた場所も狭めの裏通りであったため完全に行く手を塞がれる。屋根の上に逃げようにも壁にはよじ登れそうな場所はなかった。しまった! 万事休すか……!








「あ、こんなところに居た~♪」








 突如頭上から声がする。上を見上げると何者かが屋根の上に立っていた。アイツは!? 私はその姿に見覚えがあった。男にも女にも見える中性的な顔立ち、薄紫色をした髪にヘラヘラと薄ら笑いを浮かべた青年。間違いない、以前ポセイディアでマリナを攫おうとしていた氷の女王の手下! 


 アイツ生きてやがったのか! 私は更なる敵の増援に、もはや躊躇はしていられないと銃を構えた。しかし青年は次の瞬間、武器である細長い笛を構えそこから吐き出した白い煙で私達全員の視界を奪う。一体何だ! 私が煙の中で右往左往していると突然首元に鋭い痛みが走り全身が痺れ始める。これはアイツが使う神経毒! しかし気付いた時にはもう遅く、私は煙の中で誰かに抱きかかえられた。






「少し場所を変えるよ~ん」






 青年は動けなくなった私の体を担いでどこかへと移動し始めた。








――チョロチョロチョロ








 気が付くと私は薄暗い場所に連れてこられていた。ジメジメした空気、少しカビ臭い匂いに、すぐそばで流れる水の音がする。どうやらここは地下道らしい。青年はランプのようなものを取り出し、動けない私を地面に降ろす。ランプに明かりをつけると、青年はニヤニヤした表情で私を見つめた。






「いや~久しぶりだね~不死身のお嬢さん♪」






「テメー生きてやがったのか!」






 青年はなぜか嬉しそうに話す。私はその様子にムカついて、青年を殴ろうとしたが体に上手く力が入らなかった。






「動こうとしても無駄だよ、今回の毒は前回の十倍は効力がある。君、毒ですらすぐ治しちゃうからね~まぁバケモノじみた君の体なら、あと数分で動けるようになるとは思うけど」






「一体何が目的だ! お前は氷の女王の手先だろ! 何で私を逃がしたりした!」






 すると青年はその質問を待ってましたと言わんばかりの表情になる。






「今回は君に協力してもらいたいことがあってさ~」






「はぁ、協力だと? ふざけんな! 前は私を騙したくせに!」






「いや悪かったって~、僕も仕事だからさ~仕方ないだろう? 今回は騙したりはしないから少し話を聞いておくれよ~」






「断る‼ 敵の頼みなんて聞く奴があるか!」






 私は断固拒否の態度をとった。しかし青年はそれを無視して話を進める。








「君のお仲間さん達を城で捕えている」








 !? 私はその言葉に動揺する。しかしまだコイツが嘘をついている可能性もあるので私は返答をせず黙り込んだ。






「幸いドロシーは彼女達には興味がなく、リチャードの配慮でまだ生かされている。でも彼女達の中に、魔女がいるってことが知られたらどうなるだろうね?」






「っテメー! 私を脅してんのか!」






「脅してるんじゃない、取引しようとしてるのさ」






「取引だと!?」






「あぁそうさ、君が僕の言うことを聞いてくれるんなら、僕が彼女達を解放してあげよう。代わりに君は城に入って、僕の上司であるドロシーを倒してほしいんだ」






 はぁ? コイツは何を言っているんだ。私はそう思った。自分の仲間を倒してほしいだと? 私はそんなことを言う神経が理解できなかった。






「ふざけてんのか? そんな話、私が信用すると思うか!」






「まぁ無理もない話だよね~僕は敵だし、信用ないし、でも君に選択肢があるの? このまま逃げ続けてもらちが明かないでしょう」






 クッ! 確かに今の私に選択肢はない、このまま逃げ続けてもリチャードに会う事はおろか、全員捕まって終わるだけだ。






「君は捕まっているお仲間を助けたい。僕はムカつく上司に消えてもらいたい。まさにWIN、WINの関係だろ?」






 青年は私にそう言った。私は青年の言葉にしばらくの間考えて、ずっと疑問だった事を彼に質問してみた。








「なぁ、その話聞く前に、リチャードは何でお前らなんかに協力してる?」








「え? そんなこと知りたいの? もしかして知り合い?」






 君って意外と人脈広いんだね~。青年は笑いながら答えた。






「まぁ詳しいことは知らないけど、氷の女王がこの国に何か仕掛けをしたらしい。王である彼が逆らったり、ドロシーの身に何かあればその仕掛けが作動する。具体的に何が起こるかは僕にも分からないけど、だいたい察しはつくだろう?」






 その話を聞いて私は氷漬けにされた故郷を思い出した。やっぱりリチャードは脅されてたんだ! 私は悔しさで拳を握り締める。






「で、協力するの? しないの? しないなら僕は君を捕まえるしかないんだけど」






 私はため息を一つつき、ようやく動けるようになった体を起こす。リチャードもこんな気持ちだったのかな? 私は今の自分の状況をみてそう思う。






「……わかった。その話引き受けてやるよ!」






 私は青年にそう言った。もしこれが罠だったとして、私に選択肢はない。覚悟を持って進むだけだ。青年はそんな私を見てニヤリと笑い、右手を差し伸べてきた。






「取引成立♪ そういえば君の名前を聞いてなかったね、僕の名前はハーメル」






「エラだ、いつかテメーもぶっ飛ばしてやる!」






 私達はお互いの手を強く握りながら、一時協力することとなった。


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