第31話 男が落ちてくるなんて






「いたぞー!」






 鎧に身を包んだゴリゴリのマッチョ兵士が私を追いかけてくる。男達の数は五、六人、何も知らない第三者から見たら、私は今さぞかしモテモテの女であろう。しかし実情は全く異なり、私は現在、国への不法侵入者として追われている。私は彼らが通りにくそうな狭い路地裏へと逃げ込み、家の外壁を上り屋根の上へと逃げた。






「どこに行った!? 探せ! まだ近くにいるはずだ!」






 煙突の裏に身を潜め、下に居る兵士達をやり過ごす。しかしまぁ危機的な状況だ。私は三人の仲間達とはぐれ、一人だだっ広い街を逃げ回っている。私は基本一人に慣れているのだが、はぐれた三人の事が心配でならない。アイツら捕まったりしてないだろうな? 私は気が気ではなかった。








「今は信じるしかねぇか……」








「居たぞ! 屋根の上だ!」






「ゲッ!?」






 私は再び兵士達に見つかった。畜生! 休む暇すら無い! 私は隣の家の屋根へと移る。私は外壁から伸びていた旗にしがみついて、その旗をビリビリと破きながら地面に降りた。






「貴様ぁ! よくも我々の大事な国旗を!」






 私が破ったせいで旗に描かれていた獅子の文章がまっ二つになっている。うるせぇ! 旗の一つや二つで文句言うな! お前ら帝国民にしたら旗なんて安いもんだろ! 






 そう、ここはロシオズ帝国。なぜ私がこんな所に居るのか、事件の発端は数時間前まで遡る――。















 ラインハルトの森での出来事から数日、私達はウェザバリ―を離れ、そこからほど近いチューチラという国に来ていた。ここはウェザバリ―と同じ広大な森林地帯にある国なのだが、新しく領主になったケアクロウ伯爵の手によって、数年前から大規模な産業改革が行われた。かつては農村のように寂れていた国は、今では蒸気機関や様々な物流が発展する有数の新興国となっている。






「すっご~い! 本物の蒸気機関車だ~! 初めて見たよ~!」






 マイアが駅に止まる機関車を見て子供のようにはしゃいでいる。






「マイア、今はまだそれには乗らないぞ。次の行き先はこれから決めるんだ」






「わかってるよ~でもこういうのワクワクしない? 時代はどんどん進歩してるんだな~ってさ! ねぇマリナ!」






「え? あ、はい! とっても興奮します!」






 ボケ~っとしていたマリナがマイアの質問に答える。お前絶対話聞いてなかっただろう。その隣では角を見せないよう帽子を被ったリアが、ブツブツ言いながらマイアの服を引っ張っている。ウェザバリーでボロボロのドレスしか着ていなかった彼女には、道中で新しい服を買い、長く伸びすぎた髪をバッサリとカット、リアはマイア達のセンスでまるで幼い少年のような格好になっていた。彼女たち曰く、これが可愛いのだそう。






「マイア~腹減った~何か食わせろ~!」






 もうほんとに家族みたいになってきたな。私は彼女達を見てそう思った。








「なぁ知ってるか? 最近ブリキッドも帝国にやられたらしいぜ」






「ほんとかよ! あの国防の強さで有名なブリキッドが?」






ふと駅に居た旅行者達の話が聞こえる。






「あぁ、何でも帝国は技術や成長率の高い国を次々に侵略してるらしいぜ」






「マジかよ!? じゃあここも危ないんじゃなねぇのか?」






 またその話か……。私達は次の目的地を決めるため、様々な国にアクセスできるこのチューチラに来ていたのだが、街の様子はイケイケどんどんの経済成長とは裏腹に、国民全員が何かに怯えるようにソワソワとしていた。なんでも帝国って言うのが各地で猛威を振るっているらしい。




 そういえば、リチャードの奴もロシオズとかいう帝国出身だっけ。アイツ今頃どうしてるのかな? 私は氷の女王に連れ去られた彼の事を思い出していた。






「それでよぉ、ここからが恐ろしい話なんだけどな、何でも帝国の兵士達は、突然空から襲ってくる話だぜ。 ブリキッドで生き残った知り合いがそう言ってたんだ」






「それはありえないだろう! 機関車だってここが初めてだって言うのに人間が空を飛べるわけがない、ましてや空から何百人もの男が落ちてくるなんて……」






 旅行者の男はそう言ってもう一人の話を馬鹿にした。空を飛ぶ人間……たしか氷の女王も空中を飛んでたような。もしかして魔女が関係してるのか?












「おい……何だあれ!?」












 突然一人の男性が空を指さして叫ぶ。それと同時に私達の頭上には大きな影が出来た。何事かと他の人達も空の方を見上げて、驚きの表情に変わる。一体なんだ? 私も男性が指をさした方向へ目を向ける。するとそこには、巨大な黒い獅子の顔があった。








「あれは……!」








 私はその形に見覚えがあった。たしかロシオズの旗に描かれていた獅子の紋章だ。よく見ると空にあるのは巨大なロシオズの国旗である。何でバカデカい国旗が空に浮いてんだ?私がその光景に唖然としていると、マイア達も空を見て私の方に駆け寄ってきた。私はマイアと顔を見合わせ、それが以前見たものだと再確認する。






「ねぇエラ、何でリチャードさんの旗が空にあるの?」






「わかんねぇ……だけどこんなの、人間業じゃねぇ事は確かだ!」






 私は頭上の獅子を睨みつけた。すると次の瞬間、獅子から黒い物体が落ちてくるのが見えた。マズい! 何か落ちて来るぞ、皆逃げろー! 私は近場に居た人たちに向かって叫んだ。












――ズッシン‼












 駅の中央に落ちてきたのは、全身を鎧に包んだ巨大な兵士であった。再び空を見上げると、頭上の旗から次々と鎧兵が落ちてくる。兵士達は降りてきたと同時に、駅の施設を次々と破壊し始めた。








「汽車を破壊しろー‼ 重要だと思われる施設は一つ残らず破壊するんだー!」








 降りてきた兵士がそう叫ぶ。兵士は武器を振りかざし、逃げ遅れた人たちにも容赦なく牙を向けた。何してんだ! 私は一人の兵士に飛び掛かる。しかし兵士のとてつもない力で私は投げ飛ばされてしまった。投げ飛ばされた私を、ネットのように編み込まれた植物のツルがキャッチする。これは……リアの魔法!






「大丈夫か、エラ!」






 リアが私に駆け寄ってくる。丁度いい! 私はリアに魔法で兵士達を拘束するように指示をした。すると彼女は持っていた小さな袋から植物の種をいくつか取り出し、その種を手で握り締める。すると種から芽が出てリアはその手を地面に付けた。次の瞬間、太い植物のツルが兵士達の足元から生え、兵士達の身動きを封じた。






「な、何だこれは!?」






 良し! これでこいつらは無力化した! 私がそう思った瞬間、一人の鎧騎士が空から降りてくる。










 ――ザッシュ! スパンッ!










 騎士は持っていた剣で次々とツルを切り裂き、兵士達を救い出した。クッソ! まだ居やがったのか! 私は降りてきた騎士の方へと顔を向ける。背中には赤いマントを付け、鎧には一際目立つ金の装飾を施してある。コイツが大将か! 私は一目でそれが指揮官だとわかった。




 私はナイフを構え、騎士の攻撃に備える。しかし騎士は私の方を見ると動きを止め、突然その兜を脱ぎだした。何だ? 何をしている?















「――君は……エラか?」














 私は騎士の素顔に驚愕した。それは氷の女王に連れ去られたはずのリチャードであった。髪型や人相が随分変わっているが、目の前にいるのは紛れもなくリチャード本人である。










「リチャード……何でお前が!?」










 私達は最悪の形で再会した。


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