第30話 とうの昔に捨てたさ



 「うわああああ!」 ――バキュン‼



 逃げ惑う人々に向かって、無慈悲に銃弾が放たれる。それは突然の侵略であり、完全なる不意打ちであった。傷だらけの鎧をまとった数百人の兵士が、突如として国に攻め込んできたのである。

 

 場所はロシオズ帝国から遥か東、鉱業が盛んな小国ブリキッド。ここは鉱山資源の豊かな国で、国王ノハートの統治の元、それらを加工する職人達の技術で繁栄してきた。もちろん国の守りにも力を入れており、国境には防衛用の巨大な鉄壁が敷かれていたのだが、敵軍はそれを易々と超えて、突如壁内に現れた。

 

 そして驚くべきは侵略国軍隊の強さである。一人一人がバケモノじみた力を持ち、並の兵士じゃ十人がかりでも一人の兵士を倒せない。またその陣形戦術や統率力も高く、数も暴力的に多い。


 奴らはどうやって壁を越えたのか、それを考える暇もなく、小国ブリキッドの主要施設は、たちまちのうちに屈強な肉体を持つ兵士達に破壊され、ものの数時間で都市の半分以上を征服されてしまった。

 



「ハァ……ハァ……」



 生き残った兵士達が玉座を取り囲み、王に手出しさせまいと最後の陣形を組む。ブリキッドの国王ノハートはすでに多くの兵士を失い、侵略軍に城への侵入を許した。彼は今、王座の間で数十人の敵兵士に囲まれている。しかしノハートは既に六十を超える還暦で、後継ぎもおらず、病気持ちの体では逃げることもできなかった。



「もはやこれまでか……」



 ノハートは敵に降伏することを選んだ。残りの兵士達に武器を下させ、敵が差し出した拘束具に自らその手をはめる。悔しさに満ちた彼の眼差しは、敵軍の大将へと向けられた。



「しかしなぜだ? なぜそなたのような英雄が、魔女の手になど堕ちたのだ!?」



 ノハートは一際金の装飾が目立つ、鎧騎士に向かって叫んだ。



「お前の父とはかつて、共に平和を求め戦ったというのに……。もはや王としての誇りも失ったか‼」



 鎧騎士は黙り続けている。






「答えろ‼ “リチャード王‼”」






――ザシュッ!




 そう叫んだノハートの首は、鎧騎士の剣によって切り落とされた。残った兵士達がそれに発狂し、騎士へと飛び掛かろうとしたが、彼らも一瞬で周りの兵士に殺されてしまった。騎士は血の付いた剣を鞘に戻し、被っていた兜を外した。



「……誇り? そんなものとうの昔に捨てたさ」



 爽やかで凛々しいリチャード王の姿は、もうそこにはなかった。前髪をたくし上げ、まるで獅子のように長く伸びた金色の髪、強く真っすぐな眼差しは曇り、片目には一本の切り傷が入っている。





「今は私が王だ! この新生ロシオズ帝国皇帝、リチャード三世がなぁ」





 彼は最悪の皇帝へと変わり果てていた。

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