第29話 あるよ……腐るほどなぁ!

「アアアアア!」






 リアは無数の茨のツルを操り、エラに攻撃を仕掛ける。しかしエラは慣れた手つきで、自分に向かってくるツルを次々とナイフで切り裂いてゆく。それは何度も見た攻撃だ! エラは得意げな表情でリアの攻撃を全て受け流した。するとリアは茨のツルを自分の腕に纏わせ、巨大なツルの塊を作り、グローブのようにしてエラに直接殴りかかる。






「ヴアアア!」






 流石のエラもこの攻撃はナイフでは受け止めきれず、反対側の壁へと吹っ飛ばされた。






「チッ……! ちびっこのくせに中々やるじゃねぇか!」






 エラは壁にぶつかる前に何とか踏みとどまったが、パンチの衝撃で彼女の口からは血が垂れていた。エラはそれを左手で拭い、今度はライフルでリアに攻撃を仕掛ける。リアは再びツルを使い、飛んできた弾丸を全て弾いた。


 しかし、その僅かな時間で距離を詰めてきたエラにナイフを向けられ、間一髪で茨のグローブでガードする。二人の体勢は、部屋の中央でいがみ合う形となった。






「あわわわわ、どうしよう! 二人とも聞く耳持たないよ!」






 マイアは互いに攻撃を辞めない二人を見て、困り果てていた。






「そうだ、マリナ! 魔法であの二人を止めて! フィリップさんの時みたくドカンと!」






 マイアはマリナの方を見てそう頼んだ。しかしマリナは首を横に振り、自分には出来ないとそれを拒否する。




「無理ですよ! それに、私がむやみに魔法を使うとどうなるかわかりませんよ!」






「でもフィリップさんの時は普通に使ってたじゃん!」






「あの時は、こんな変態どうなってもいいと思ったから!」






 変態!? マリナの言葉を聞いてフィリップが彼女を二度見する。マイアは、今は緊急事態だからいいの! と彼女に告げ、マリナはそれを渋々承諾した。マリナは両手を上にかざし、空気中の水分を集め出す。すると彼女の頭上に、巨大な水の球体ができ始めた。マリナはマイアの指示で、その玉を二人の方向へと投げる。










「二人とも! 少し頭を冷やしなさーい‼」










 水の球体は二人に当たると、内側から水風船のように弾け飛び、いがみ合っていた二人を部屋の両端へと吹き飛ばした。すかさずマイアとフィリップの二人が、倒れた二人を羽交い絞めにし、攻撃できないように抑え込む。






「離せマイア! 私は魔女を倒すんだ!」






「うるさい! おとなしくしなきゃ今度はマリナに城ごと吹き飛ばしてもらうよ!」






 それを聞いたエラは、ポセイディアの一件を思い出して渋々抵抗を辞めた。フィリップに両腕を掴まれているリアも、非常に不満げな表情ではあるが、エラに食って掛かるのを辞めた。二人はマイアの指示で、ビショビショになりながら話し合いに応じることとなった。











「いい? だから何度も言うようにこの子は魔女じゃないの! だから私達は敵じゃない、同じ魔女の被害者なんだよ! わかった!?」






「ハイハイ分かったよ! つまりこのちびっ子は、魔女に魔法を掛けられて、自分も魔女みたくなっちまったって事だろ? わかったよ!」






「ちびっ子って言うなー‼」






 リアが再びエラに飛び掛かろうとするのを、フィリップが後ろから抑え込んだ。エラもそれを見て彼女を煽るような表情をする。ケンカしない! マイアはエラに拳骨を一発入れた。






「しかしよー! コイツ私の事見ていきなり襲い掛かってきたんだぜ! それに私の事も知っているような口ぶりだった。ほんとは植物使って、外の様子ずっと見てたんじゃねぇの? この三人を引き込んだのだって、こいつ等には害がないと分かったから引き込んだんだろ」






 確かに……。それなら今まで誰も近づけなかった城に、自分達が入れたことに納得がいく。でもだとしたらどうしてそんなことを。マイアは不貞腐れているリアの方を見た。






「それに、コイツが外に出られないって言うのも私は疑ってる。仮にフィリップが城に入ったのと同時に、コイツが見覚めたんだとしたら、いきなりあんな器用に魔法を使えるもんなのか? うちには生まれつき魔女のくせに上手く魔法を使えない奴だっているのに」






 マリナがそれを聞いて恥ずかしそうに頭を掻く。






「本当はお前、ずっと前から目覚めてたんだろ。それに、外に出たことだってあるはずだ!」






 エラはリアに真実を迫った。するとリアはバツの悪そうな表情になる。本当なのリア? エラ以外の三人も彼女の方を見た。彼女は奥歯を食いしばり、エラの方を睨みつけた。












「――お前等に何が分かる! ずっと……ずっと眠らされていた私の気持ちが‼」










 リアは突如大声を上げ、その気迫で近くに居たエラ達を吹き飛ばした。すると彼女の角が伸び始め、八重歯が鋭い牙になってゆく。筋肉が発達し、血管が浮かび上がり、皮膚からは無数の大きな棘が生えてくる。雄叫びを上げるその姿は、まるで“悪魔”のようであった。






「嘘でしょ……!?」






 誰もが信じられない光景に言葉を失う。リアはエラを睨みつけ、いきなり彼女に飛び掛かる。エラはリアに押し倒される形で地面へと転がった。






「っ! それがお前の本当の姿かよ!」






「違う! こんな姿、成りたくてなったんじゃない!」






 リアはエラの首を掴み、城の壁にたたきつける。エラは苦しそうな表情で、リアの手を掴むが、あまりの怪力に歯が立たない。マリナ達がエラを助けに入ろうとしたが、部屋に生えたツルがマリナ達の体を縛り、身動きが取れなくなってしまう。








「目が覚めたらパパもママも居なくなって、城は茨だらけで外はまるっきり変わってた!」








 リアは低くなった声でそうエラに告げる。リアは自分が初めて目を覚ました時の事を思い出していた。




 気が付くとそこにいつも居たはずの家族はおらず。家だった城は寂れて、植物が生え放題になっていた。




 割れた鏡を見ると、頭には獣のような角が生え、歯も牙のように尖っている。城の外に出てもいつの間にか森になっていて、もう何処か分からない。




 リアは勇気を振り絞って町の方に行って見ようとしたが、偶然出くわした狩人に、獣と勘違いされ銃を撃たれる。リアは外に出るのも怖くなって、一人城に閉じこもった。








「訳も分からず眠らされて! 訳が分からないまま目覚めてしまった! 何もかも訳が分からなくなって、自分でもどうしていいか分からないんだよ‼」








 リアは悲痛な叫びで、思いの丈を口にした。その言葉を聞いてマイア達は悲しそうな表情になる。気が付いたら百年後の世界。家族もおらず、自分に何があったのかも分からないまま彼女は一人ぼっちにされた。それがどれだけ残酷な出来事であったか、マイア達は初めて理解した。










「……こんな理不尽なことがあるか? ないだろ‼」










 リアは涙目になりながら、エラに自身の思いをぶつけた。するとエラは彼女の方を睨みつけ、その顔面に蹴りを入れる。不意を突かれたためにリアはエラを掴んでいた手を放した。












「――あるよ……、理不尽なことくらい。腐るほどなぁ!」












 エラは立ち上がって、今度は自らリアの方へと歩き出した。そして獣のように大きくなった彼女の頭を掴んで、自分の頭にぶつけた。ゴツン! 大きな音がして、二人は至近距離でお互いを見つめ合う。










「いいか、世の中理不尽なことだらけなんだよ‼ お前だけが、不幸なわけじゃないんだ‼」










 そう言われてリアは、うるさい! とエラの顔面を殴った。その衝撃でエラは地面へと倒された。すると今度は縛られていたマイア達が口を開く。






「そうだよリア‼ 私達皆、理不尽なものと戦ってるんだ‼ 大きさは違っても、皆何かに苦しんでるんだよ‼」






「そうですリアさん‼ 私も魔女に生まれて、訳わからない人達に狙われて大変だったんです‼」






「僕だってそうだ‼ ほんとは農業がしたいのに、怖い父親に無理矢理領主を継げって、聞いてもらえない‼」






 三人は思い思いの不満を口にした。するとリアは彼らの言葉に少し動揺し始める。エラはその隙に、もう一度立ち上がって彼女の方へと歩み寄った。












「いいかちびっ子、理不尽なことを受け入れるな‼ このまま引きこもっていても、何も解決なんかしねぇ‼ 理不尽なものは、ずっと理不尽なままだ‼」












 エラはもう一度リアと頭を突き合わせ、彼女の肩を掴み、自身の叫びをぶつける。












「だから外に出ろ‼ 自分自身で環境を変えて、お前を不幸にしたやつをぶん殴れ‼ それができるのはお前だけなんだよ‼ お前を変えられるのは、お前だけなんだよ‼」












 エラに言われた言葉に、リアは静かに涙を流した。彼女の姿はゆっくりと元の少女に戻り、マイア達を縛っていたツルも解け、三人もリアの元へ駆け寄った。そしてマイアとマリナがリアの事を優しく抱きしめる。






「それにリアは一人じゃないよ。私達皆同じ、理不尽な事と戦う仲間なんだよ」






 そう言われたリアは、抑え込んでいたものが溢れだしたように泣きだした。エラとフィリップはその様子を見て、安心したように微笑む。






「僕も理不尽なものと戦ってみるよ。君が受け入れるなって言ったから、頑張って父親を説得して見せる」






「あぁ、なんだかよく分かんねぇけど頑張れよ」






 エラは清々しそうな表情のフィリップに、そう笑いかけた。すると外では無数の男達の声が聞こえる。フィリップ坊ちゃまー! どうやら彼を探す迎えが来たようだ。






「いけない! 僕もう戻らなくちゃ! あ、リアの事よろしくお願いします。まぁ僕、保護者でも何でもないんだけど」






「仕方ねぇ、おいちびっ子! 私達と一緒に来るか? 私達魔女倒すために旅してんだ。私達に付いてこれば、お前をそんな風にした魔女だって見つかるかもしれない。どうだ? 悪い話じゃねぇだろ」






 マイアとマリナがそれはいいぞ! とリアに期待の眼差しを向ける。リアはそんな二人を見て静かに頷いた。それを見た二人は再びリアに抱き着いた。






「リア、色々解決したら、またウェザバリ―に戻っておいで。君の家も、僕が責任をもって綺麗にしておく」






 そう言ってフィリップは、別れ際にリアの頭を撫でた。お願いします。彼女は小さな声で返事をする。こうしてエラの旅路に、新たな仲間が加わったのであった。


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