第26話 生きててすいませーん!





 ポセイディアの事件から数日、私達はポセイディアから北西部にあるウェザバリ―という小さな町に来ていた。この地域は自然豊かで、郊外には広い森が広がっている。そのためこの町ではそれを生かした林業や農業、畜産などが盛んで、畑や牧場も多く、ポセイディアとはまた違うのどかさが漂っていた。私はオルフのおっさんのメモを頼りに、とある城を探しにこの町に来たのだが……。










「ビエェーン! 生きててすいませーん!」










「はいはい、よしよし、辛かったね~もう大丈夫だから~」






 私の目の前では、ポセイディアのお姫様であるマリナが号泣していた。






「仕方なかったんですぅ~! 私もどうしていいかパニックで、エラさんは怖いし、お兄ちゃんも助けなきゃいけなかったから~!」






「はいはい、怖かったね~よしよし~」






 マリナの涙でバーのテーブルが湿ってゆく。泣き続ける彼女の頭をマイアは母親のようにそっと撫でていた。何だこの光景、親子か。




 事の経緯を説明すると、ポセイディアでマリナは、魔女の力で巨大な津波を起こし、自分の城を全壊させた。彼女の魔法でアイスゴーレムは破壊され、町への被害は最小限に抑えられたのだが、そのせいで氷の女王と繋がったあの青年の行方は分からなくなってしまった。まぁ奴に好き勝手されるよりは十分マシだったので良しとするが、予想外だったのは、あのシスコン兄貴がマリナを私に託してきたことであった。




 彼は私の強さを見込んで妹の事守ってほしいと言い、私の意見全無視でマリナのことを押し付けてきた。私はもちろん断ろうとしたのだが、今回の事件や城が全壊したこと、自分の力ではマリナの事を守れないと言う彼の意見を聞き、氷の女王に奪われて敵になるよりマシかという、半ば妥協の思いで、私は彼女を受け入れた。しかし彼女のメンヘラ度は日に日に酷くなり、私は受け入れたことを強く後悔している。






「すいませ~ん、生きててすいませ~ん!」






「ダー! もううるせぇ! 泣き止まねぇと殺すぞコラ!」






 私はイライラのあまり彼女に銃を向けた。するとマイアが怒って私を制止する。






「エラ! ダメだよマリナを虐めちゃ! マリナはエラを二回も助けてくれたんでしょ! それにマリナは誰も傷つけてなんかないんだよね~よしよし」






 マイアは彼女の頭を撫でる。するとマリナは泣きべそを垂れながらコクコクと頷いた。もはや親子を通り越して飼い主とペットの関係だろそれ! 私は二人を見て叫びたくなる。




 確かに彼女の魔法は城こそ破壊したのだが、自分の兄や城の兵士などの人間を、誰一人傷付けはしなかった。あれだけの大惨事で、死人の一人や二人出てもおかしくはなかったのだが、彼女に携わる人間は全員無事だったのである。


 コイツ、魔法を制御できないと言いながら実は凄い奴なんじゃないかと一瞬は思ったが、自分はしっかりと流されそうになっていたことを思い出して、私は再び彼女に銃を向けた。やっぱコイツ殺す。






「ヒイィ!」






「エラ!」






――ドドド、バタン!






 マイアが叫ぶと同時に、バーのドアが勢いよく開き、ボロボロの服を着た中年男性二人が、慌てた様子で入ってきた。






「大変だ! 坊ちゃんが! フィリップ坊ちゃんが!」






 男達は店の店主にパニック状態のまましがみつく。店主はいきなり何事かと、二人の男達を前に戸惑っていた。






「俺達にも分からない、茨の城を探しに、森の奥に向かってたら突然植物が動き出して、それで、坊ちゃんが足を掴まれてそれで……!」






「呪いだよ! あれは魔女の呪いだあああ!」






 男達は完全に気が動転していた。茨の城? 魔女の呪い? 私は急いでオルフのおっさんのメモを開いた。“ラインハルトの森 ウェザバリ―北部 森の奥深くにある城にかつて魔女が使えていた記録あり 現在でも様々な怪奇現象の目撃情報が報告されている” これだ! 私は座っていた席を立ち、男達の元へと駆け寄った。






「だからマスター! この辺の腕が立つ奴、全員集めてくれよ! このまま帰ったら俺達ボスに殺されちまう!」










「おいおっさん!」










 私は男の一人の肩を叩き、銃口を顔に向けた。






「その話、詳しく聞かせてくれよ」






 男達は驚いた顔をして私の方を見た。















「ねぇエラ~、その城ってもう百年も前の物なんでしょ、本当に魔女の手がかりがあるのかな~?」






 マイアが拾った木の枝を振り回しながら、私に聞いてくる。私達はバーに来た男達の話を聞き、町郊外のラインハルトの森へと来ていた。






「私も最初は半信半疑だったさ、この森にある城は、オルフのおっさんのメモの中で一番内容が薄かったし、近かったからって理由で来てみたはいいけど、町で有力な情報は得られなかった。でもあの二人の話を聞いてからは、何かあるって思ったんだ」






 私は男達の話を思い出す。彼らは植物が突然動き出したと言っていた。魔女は特定の自然物を操ることができる。ならばその城に草木を操る魔女がいるのではないか? 私はそう睨んでいた。






「そ、それにしてもこの森不気味ですよね~。それに魔女なんて、私何だか怖くなってきましたよ」






 マリナが怯えた様子で森見渡す。お前だって魔女だろうが。そんなことを思いながら歩みを進めていると次第に茨のツルが巻き付いた木々が目立ち始める。城はもう近い、そう思って辺りを見渡すと、地面にカウボーイハットが落ちているのを見つけた。私はそれを拾い上げて土汚れを払う。ツバの内側には“アルバード・フィリップ”と名前が刺繍されていた。






「それ、居なくなった人の奴かな?」






マイアがそう呟く。私は辺りの茂みを見渡した。






「おーい! 誰かいるかー! いたら返事をしてくれー!」






 私は薄暗い森に向かってそう叫んだが返事はなく、遠くで鳥が飛び立つ音だけが聞こえるだけだった。近くにはもう居ない、城の方へと行って見るか……私達がそう思った瞬間、近くで何かが動き始める。何だ!? 私は銃を構えた。ズルズルと地面を這うような音がそこら中から聞こえ始める。これが男達が言ってたやつか! 私達は背中合わせになり、背後を取られないように注意した。










シュルルルル、ジュバッ!










 ふいに細長い何かが私達に向かって飛んでくる。見るとそれは茨のツルだった。地面から襲ってきたツルは私達の足に絡みつき、体を引き吊り込もうとする。私はすぐにナイフで足に絡みついたツルを切り、難を逃れたが、マイアとマリナの二人は成す術なくツルによって森の奥へと引き吊り込まれてしまった。






「「キャー‼」」






「マイヤ! マリナ! チッ!」






 二人を追おうとするも、今度は近くの木々が動き始め行く手を遮られる。茨が巻き付いた大木の姿は、触手が何本も生えたバケモノのようだ。上等だ! かかって来いよ! 私は襲い掛かってくる植物達に、果敢に立ち向かっていった。

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