第19話 とっても暖かい魔法だ

 オルフのおっさんが旅立って三日、私は街に降りて、使えそうな日用品や食料を探していた。当然、町はどこも氷漬けにされていて、建物に入るのさえ困難だったのだが、探してみると幸いにも、いくつかの家屋で、缶詰や完全に氷漬けになっていない食料を見つけることができた。

 

 しかもそれらがあった場所が、家の地下倉庫や、外部が何かに覆われていた場所であったため、氷の女王の魔法は、対象物の内部までは、完全に凍らせることはできないことも判明した。


 街を見回っている時、何よりもキツかったのが、生きたまま凍らされた人々の姿であったが、彼らがまだ、氷の中で生きて居る可能性も見えてきて、私はより魔女を倒すことに前向きになった。






「ふ~、ここはこれぐらいかな」






 私は建物内で見つけた物を、持ってきた荷車に積み込む。これらの道具は自分が旅立つときに必要な物でもあるのだが、何より自分が旅立った後、この国に残るマザー達のために必要な物でもある。

 氷の女王がこの国に魔法をかけて以来、空は厚い雲に覆われて、晴れることがなく、気温も息が白くなるくらいに下がってしまった。そのせいで畑仕事はおろか、満足な日常生活も送れない。教会には予め備蓄していた食料があったのだが、それが尽きるのも時間の問題だ。






「エラ~!」






 振り向くと、城の探索に出ていたマイアが戻ってきた。その手には何やら大きな袋を持っている。彼女は私の前まで来ると嬉しそうにその袋を開けた。すると中には大量の金貨がジャラジャラと入っている。おいマイア、これってまさか……。






「うん! フロッグ王のお金だよ」






 彼女は屈託のない笑顔でそう言った。笑ってるけどそれ、窃盗だよな? まぁ他人の家から食料をとっている私が言えたことではないが、マイアのあまりの悪びれなさに、私は少し驚いた。






「だって~私まだ慰謝料もらってないも~ん それに、エラはこれから旅に出るんでしょ? お金ないとやっていけないよ!」






 私はそんなマイアの様子に思わず笑ってしまった。国がこんな状況になっているというのに、至ってマイペースに振る舞うマイアは、見ていて元気が出る。お姫さまって本当はこんな奴の事を言うんだろうな、私は彼女を見てそう思った。






「よし、荷車もいっぱいになったし戻るか!」






 私達は荷車を引っ張って、マザーの待つ教会へと戻った。








「よし、じゃあこれと、これとこれ! あとは武器とか色々あるし、荷物もかさばるから私はこれだけでいいよ」








 私は運んできた食料の中から手取りでいくつかの缶詰を掴み、バックに入れる。するとマザーはさらにいくつかの食料を掴み、これも持って行けと言ってきた。いやマザー、これ以上は要らないって言ってるだろ。










「何言ってんだい、これはマイアの分だよ!」












「えええええ!?」












 その言葉を聞いたマイアが分かりやすく驚く。彼女は自分は行くつもりはない、私はマザーの面倒をここで見るんだと訴えたが、マザーは断固としてそれを拒否した。






「アンタまでここに残ってどうするんだい? せっかく若いんだから、色々と世界を見てきな、いいチャンスだ。心配するな、わしは一人でもやっていける。それに、このじゃじゃ馬を一人で行かせる方が、私はよっぽど心配だよ」






 じゃじゃ馬って……。まぁ、確かにマイアに付いてきてもらった方が、私としては助かるのだが、それは私ではなくてマイア自身が決めることだ。私は彼女に、付いて来たいという気持ちはあるのかと尋ねた。すると彼女は考えながらゆっくりと首を縦に振った。






「でも、本当にいいのかな? 皆をここに置いたまま、私だけこの国を出るなんて、それにマザーのことだって一人で置いていけないし……」






 マイアは心配そうな声でそう言った。






「責任を感じているならなおさらじゃ、行って少しでも何か見つけてきなさい。体が動かない私の代わりに、皆が助かる方法を探し出してきておくれ。大丈夫、ツバメ達の事はわしがしっかりと見ておくから」






 マザーは、弱気になる彼女の両手を持って、強くその背中を押した。するとマイアは、わかった、私も行ってくるよと、その顔を上げ、私に笑顔を見せてきた。






「マザー、エラの事は私に任せて! 私がしっかりと面倒見とくから!」






「そんなに私って、心配かけるような奴かなぁ?」












「「うん、何しでかすか分からない」」












 私の質問に二人は即答だった。これにはぐうの音も出ない。あ、そうですか。私はそんな風に思われていたのですね。私が軽くショックを受けていると、何やらマザーが部屋の奥から折りたたまれた布を持って来た。






「ほら二人とも、少しこっちに来なさい。」






 マザーがそれを私達に着せてくる。布を広げてみるとそれは頭巾の付いたローブだった。私のは赤く、マイアのは薄い黄色をしている。赤いローブを着た私を見て、マイアは赤ずきんちゃんだ~と喜んでいた。






「わしも昔はそれを着て、町でブイブイいわせてたんじゃぞ! すれ違う男は皆わしの方を振り向いておった。それはモテたこと、モテたこと」






「へ~、今となっちゃ信じられないけどな~」






 私は鼻高に自慢するマザーを見て苦笑いした。マザーにもそんな時代があったんだな~。






「わしは付いて行くことができないが、そのローブが必ずお前達の事を守ってくれる。これが私からの魔法プレゼントじゃよ」








「ありがとう、氷の魔法と違って、とっても暖かい魔法だ」








 いよいよ明日、私達はこの国を出る。この先に待ち受けているものは一体何なのか、本当に氷の女王を倒せるのか、皆は元に戻るのか、何一つ分からないことだらけだが、それでも一歩を踏み出さなければ始まらない。私は貰ったローブを抱きしめ、そう強く決心したのであった。

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