第15話 エラ! ダメ!

ひとしきり泣いた事で私の心は落ち着いた。もう起こってしまったことを変える事は出来ない。大事なのはこれからをどうするかということだ。とりあえず私達を助けたあの男が、一体何者なのか話を聞いてみよう。それに、氷の女王ってやつの話も。私はマザーと共に再び部屋へと戻った。



「さっきは取り乱して悪かった、私の名前はエラ、多分人間だ。さっきも言った通り、どうやって氷を抜け出したのかは自分でもわからない。ただ他人よりちょっと、体が丈夫だったりはする、助けてくれたことは感謝してる。それが私の全てだ。」



 私は礼儀として、自分から自己紹介をした。すると男も落ち着いた様子で、自らの事を語りだす。



「こちらこそいきなり詰め寄って悪かった。なんせ、氷の女王の魔法を解いた人間なんて初めて見たものでな、つい熱くなってしまった。俺の名前はオルフ、とある事情で魔女を追っている、世間では魔女狩り(ウィッチハンター)と言われる者だ。俺は氷の女王の痕跡を追ってここにきた。本来は君達を奴から守るはずだったが、どうやら一足遅かったようだ。本当にすまないと思っている。」



 そう言って男は深々と頭を下げた。そうか、このおっさんは元々私達を助けるべくこの国に来たのか。混乱してたとはいえ、私は自分の言動を反省した。



「それで、オラフのおっさん、氷の女王って一体何なんだ? それに魔女って……アイツ何もないところから氷を生み出しやがったんだ。リチャードはそれを、“魔法”とかって言ってたけど」



「魔女とは自然の加護を受け、超常的な能力を持った人間の事だ。本来魔女とは、教会が、いわゆる異端である者を指し示す時に使われる言葉であったが、近年、伝説や伝承に残るような、驚異的な能力を持った人間達が現れた。奴らが使うその力を、我々は魔法と呼び、魔女はその魔法の力で、各地で災害のような傷跡を残し、今では氷の女王と呼ばれる少女を筆頭に、その勢力をどんどん拡大している。俺は奴らから人々を守るために、教会から雇われて、魔女狩りとして活動をしているというわけだ」



 なるほど、そんなバケモノみたいな力を持った人間がいるのか。リチャードはそれを知っていて、だからアイツを見た時、あんなに緊張していたんだ。



「でも、なんだってそんな魔女が、この国に来たんだろう。」



 マイアがそう疑問を呟く。



「恐らく、ロシオズ帝国のリチャード王を狙ったんだろう。ロシオズ帝国はこの地域で有数の軍事国家だからな、現にその領地と勢力も大きい。奴らはそれを手に入れようとしているんだ」



「なぁ、オルフのおっさん! 私がアイツの氷から抜け出したように、他の皆を元に戻す方法はないのか? 皆を助け出したいんだ!」



 私はおっさんに尋ねた。



「残念だが魔女の掛けた魔法は、普通の人間には解くことはできない。今まで氷の女王にやられた国をいくつも見てきたが、誰一人として助かった者は居なかった。奴が生み出す氷は永遠に溶けることがないんだ。今日お前達が生きているのだって、本当は奇跡みたいなもんだ。」



 それを聞いて私達は落胆した。そんな……、それじゃもう皆は助からないって言うのか?



「だが、方法がないことはない。かつて氷の女王は、世界を氷河期にして滅ぼそうとしたことがあった。しかしそれに立ち向かった何者かが、氷の女王を倒し、それを防いだことがある。その際に今まで凍らされていた人々が、元に戻ったという事例が過去に存在しているんだ」



 何だって!? 私はそれを聞いて驚いた。それじゃあ、アイツを倒すことが出来れば、皆は助かるってことなのか。



「しかし奴を倒すには一筋縄ではいかない、まず普通の人間では歯が立たないし、魔女狩りの俺ですら、今まで奴に致命傷を与えた事がない。それに魔女の力は、その血縁者に受け継がれるとまで聞く。現に今の氷の女王は、かつて倒された魔女の娘だ。ゆえに魔女をこの世からなくすには、魔女の力そのものをこの世から消し去らなければならない。しかしそんな方法は未だに見つかってはいない」



「だとしてもだ! アイツを倒せれば、一時的にでも皆は元に戻る、私はそれで十分だ! なぁおっさん! 私も魔女狩りになるよ、アイツを、氷の女王をブッ飛ばしたいんだ! 私に魔女と戦う方法を教えてくれ!」



 私はオルフのおっさんにそう訴えた。するとおっさんは私の腕をとり、その手首を強く握り絞めた。痛っ! あまりの力に私は思わずそう叫んだ。



「その細い体で何ができる? 魔女は普通の人間では歯が立たないと言ったはずだ。ましてやお前は、まだ大人にも成り切れていない少女じゃないか。せっかく助かった命を、無駄にするんじゃない!」



 オルフのおっさんは私に強くそう訴えた。しかし私はそれに納得が出来ず、再び自分の主張を叫んだ。



「氷の女王(アイツ)だってまだ大人じゃなかった! それにやられっぱなしのままでなんかいられない! 頼むよ! 私も魔女と戦いたいんだ!」



「ダメだ! そんなことを許すことはできない。お前達はここで、魔女に見つからないようにおとなしくしているんだ、そうすれば生きてはいける。」



 オルフのおっさんは、一歩たりとも譲るつもりはないという態度だった。そっちがその気なら、こっちだって強硬手段に出る。 私はいきなり、オルフのおっさんに詰め寄って、腰に差していたナイフを奪い取った。そしてその剣先をすかさずおっさんへと向ける。



「おいヤメロ! 何を馬鹿なことをしている! ナイフを返せ! そんなことをしても何にもならないぞ!」



「エラ! ダメ!」



 マイアが私を制止させようと促す。ヤメロと言われて辞めたらそこまでだろうが、私は奪い取った剣を振りかざしてその剣先を―――。





ドスッ!





自分の腹に刺したのであった。

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