第11話 幸せになりてぇんだよ……。

「ウギャアアアアア!!!」




 リチャードの悲痛な叫び声が城中にこだまする。私は必死でリチャードのアソコに噛みつき、何とかしてコイツを戦闘不能にするんだと頭を振り続けた。ギャラリーからはヤメロ! なんてことをするだ! と言う男兵士達の声や、エラ! それは女の子として一番やっちゃダメな奴だ! などと王妃達の声も聞こえる。だが私も私で極限状態だったので、そんな声には一切構っていられなかった。私はチ〇コ噛みちぎってでも勝たなきゃいけないんだあああああ‼




「こぉの! 腐れ外道がああああああああ‼」




 しかし、リチャードの何とか繰り出した蹴りによって、ついに私はその口を離した。噛みついているときは必死で気が付かなかったが、いざ離してみると、口の中に気持ち悪い感触が残っている。うげぇ! 最悪だ! 私はペェッと唾を吐き、一刻も早くその感触を払拭したかった。




「ハァ!……ハァア!……危うく性別を失うところだったぁあ!……」




 リチャードは声を裏返しながら自分のイチモツを抑えている。全身に冷や汗をかき、足も内股でガクガクと震えている様子から、私の攻撃はかなり効いたようだ。無論、噛みついた私の体力も残っておらず、地に伏せたまま指一本動かせなかった。




「貴様ぁあ! 恥というものを知らんのかぁああ! こんな無様な決闘がどこにあるぅうう! そこまでして私に勝ちたいかああああ!」




「当たりめぇだバカ野郎! こちとら幸せになるまで死ねないんだよぉお! 負けたら全員殺されるってのに、なりふりなんか構っていられるか!」




 リチャードの涙目になりながらの訴えに、私も全力で反抗する。




「幸せになりてぇんだよ……、ほんのささやかな幸せでもいいから……、今まで苦しんだ分、少しでもマシになりてぇんだよ……。」




 気づいたら私も涙声になっていた。どうやら私の感情も溢れてきたらしい。次第に視界も曇ってゆく。




「頼むよ……。勝たせてくれよ! 私達はやっと始まったんだ! 最悪な王を倒して、やっとこれから幸せになれるって思ってたんだよ!」




 残り僅かの体力で私は、ありったけの感情を言葉にして叫んだ。もうどうなってもいい、これが最後なら言いたいこと全部言って死んでやる!




「……殺して悪かった、悪かったよ! 知らなかったんだ! あのデカい兵士が、お前の友達だったなんて……私も自分の友達守るために必死だったんだよ……! 仕方ねぇだろうが!」




 もう景色が涙で見えなかった。あぁ、何言ってんだろう私。ヤケクソで敵にすら謝ってやがる……。まぁいいか、どうせもう死ぬんだし。すると誰かが私の体を起こした。ぼやけた視界を凝らしてみるとそれはリチャードだった。




「もういい……、お前の言い分は分かった。私が悪かった。いくらお前達を痛めつけても、オルヴルフは戻ってこない。お前の叫びは、しっかりと私の心に届いた。安心しろ、誰も殺さずにこの国を支援をしてやる」




「……いいのか?」




「私とて人間だ。友の幸せを願う気持ちは理解できる。お前の執念に、私は負けた。」




 リチャードはそう言って私を担ぎ上げ、皆の元へと運んだ。体はボロボロだったが、私は泣きじゃくる皆に抱えられ、生きてて良かったと、そう思った。




「急いで彼女に医療具の準備を! ウグッ……!? すまん、私の分も至急頼む……。」




 リチャードはそう兵士に指示をすると、青ざめた表情で再び局部を抑えた。最初は鬼畜な変態野郎だと思ったが、案外コイツは悪い奴じゃないのかもしれない。




「すいません王よ‼」




 するといきなり兵士の一人が慌てた様子で戻って来る。




「どうした? 早く医療具を持ってこないか!」




「それが、部屋の扉が開かないのです!」




「なんだと!?」




 リチャードは急いでそれを確認しに向かった、しかしリチャードがいくら体当たりをしても扉は開かない。リチャードは困惑した表情を浮かべる。どうした? 何があったんだ。




「クシュン! うぅ、この部屋こんなに寒かったっけ?」




 ふとマイアがそう呟いた。確かに今まで戦闘が白熱してて気が付かなかったが、部屋の温度が最初に来た時よりだいぶ下がっている。もうすでに肌寒いぐらいだ。




「リチャード様! 大変です! 城外が一面凍り付いています!」




「何ぃ!?」




 私達はその声を聴いて、急いで窓の方へと向かった。すると外はまるで冬になったかのように雪が吹雪いて、あたり一面が氷で覆われている。何だこれ! 一体いつからこんなに風になっちまってたんだ!




「まさかこれは……」




 ガッシャーン!




 すると天井から巨大な氷が落ちてきた。よく見るとそれは氷漬けになったフロッグ王の姿である。よく見ると私達が居るこの部屋の床も、じわじわと凍り始めている。ここに居たらマズい、誰もがそう思った矢先、天井が崩れ落ち、空から何者かが入ってきた。








「ここに居たか、リチャード王」








 それはガラスのような透明な大気を纏って、そして氷のように冷たい目をした、華奢な一人の少女であった。

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