第10話 ただの変態じゃねぇか!

 午前十二時、真昼間だというのに空は雲でどんどん暗くなり、風も吹き始め、気温もだいぶ下がってきた。そのせいで城内は薄暗く、私達の決闘は何もかもが不穏な空気を漂わせていた。




「エラ、決して無理はするなよ」




 ツバメが心配そうな表情をして声を掛けてくる。




「バーカ、ここで無理しなくていつするんだよ。負けたら全員死ぬんだぞ」




「大丈夫さ、どうなろうと決して後悔はしない。私達は自分の意志でお前をかばったんだ。たとえ死んでも、お前を恨みはしないさ」




 周りにいる王妃達もツバメの言葉に頷き、各々が私に励ましの言葉をかけてくる。




「なにもうしみったれてんだよ、私達はこれからだろう! 私があいつに勝って、とことん支援させて、もっと幸せになるんだろうが!」




「当たり前だ、私達はお前が勝つと信じてる。なんせあんたはこの国最強の女だからな!」




「皆はそうやって、前だけ向いてりゃいいんだよ」




「準備はいいか! テロリスト共よ」




 リチャードはすでに部屋の中央で待っている。




「ああ! いつでもいいぜ」




 私は威勢よく答えた。私の手に皆の未来が掛かってる。絶対に負けられない!




「ルールは武器使用無しの近接格闘のみでの勝負、どちらかが戦闘不能になった時点で終了だ。異論はないな!」




「ああ!」




「では始めるぞ!」




 ジャーン!




 リチャードが合図し、兵士が叩いた巨大な銅鑼の音で、戦闘が開始された。先手必勝、私は勢いよく相手の懐に飛び込もうとした。するとリチャードはいきなり、羽織っていたマントを勢いよく投げ捨てた。




「!?」




 私は一瞬目を疑った。なんとリチャードはマントの下に、線の細いパンツ一枚しか履いていなかったのだ。これには周りにいた王妃達も驚き、思わずキャーと声が上がる。




「おい、なんだその恰好! ふざけてんのか!」




「ふざけてなどいない! これが私のれっきとした正装だ!」




「それのどこが正装だバカ野郎! ただの変態じゃねぇか!」




 私がそう叫ぶと、天井の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。




「馬鹿め! それがリチャード王の真の姿である! リチャード王の肉体は鋼よりも固く強靭、その拳はどんな武器をも凌駕する! 戦場で肉体をむき出しで戦うその姿から”剛拳裸王”の異名を持つ最強の王であるぞ! お前なんぞに勝てるわけがなーい!」




 見上げるとそれは私達に宙づりにされたフロッグ王だった。以前より随分痩せこけているがまだ生きてやがったのか、しぶとい奴め。




「説明ご苦労だフロッグ王、しかし負け犬は少し黙っていてもらえるかな?」




「ヒイィ!」




 イキがっていたフロッグだが、リチャードに睨まれるとすぐに黙り込む。




「まぁいい、剛拳裸王だか何だか知らねぇけど、行くぜ、裸の王様さんよぉ!」




 私は再びリチャードの懐へと飛び込んだ。しかしリチャードはそれを素早くかわし、すかさず膝蹴りをくらわしてくる。私はそれを防御したが、蹴りの勢いに体勢を崩され、リチャードの放った右ストレートをもろに受けた。




「グハァ!」




 とてつもない衝撃をくらい、壁際まで体が吹き飛ばされる。私は何とか壁にぶつかる前に両足で踏みとどまったが、口からは血反吐が出て、激しい痛みが腹部を襲った。




「ほう、私の右ストレートをもろに受け、立っているとはなかなかやるな」




「クッソ、いきなり手加減なしで殴って来やがって! レディには優しくしろってパパに教わんなかったのか!」




「生憎、家では獅子博兎のスパルタ教育をされていてね、どんな相手にも決して手加減はするなと教わった、たとえそれが女性であってもだ」




 ったく、王様ってのはどいつもこいつもろくな奴が居ねぇ! 私は心でそう思った。




「そちらから来ないのであれば今度はこちらから行くぞ!」




 するとリチャードはものすごい勢いで私に向かってきた。やっぱコイツ、スピードも半端ない! 私は蹴りで応戦しようとしたがリチャードはそれを軽々とかわし、膝関節目掛けてパンチを浴びせてきた。その瞬間、ボキィ! と膝の骨が砕けたような鈍い音がし、激しい痛みに私はバランスを崩す。




「まずは右膝関節! 右肘関節! 左肘関節! 左膝関節にトドメの、左眼球! 」




 リチャードは容赦なく私の四肢の関節部を破壊し、最後に平手突きで私の左目を潰した。もう体中が激痛で、私は何が何だか分からないままその場に倒れ込んだ。




「エラ⁉」




 ギャラリーから悲痛な叫び声が聞こえる。しかし私にはそっちを向く余力すら無かった。




「これがオルヴルフの受けた全ての傷だ。激しい痛みで立つことすらできまい。これがお前達のしたことだ、その身をもって味わえ!」




 私は痛みで息をすることすら困難になっていた。方目を潰され、景色の半分が真っ赤に染まってゆく。ダメだ、ここで死んでしまったら皆の命が!




「勝負あったようだな、もう少しは手ごたえがあると思っていたのだが、残念だ」




 リチャードは捨てたマントを拾い上げ、勝ち誇ったように私に背を向けた。待てよ! まだ勝負は終わってねぇ! 私は全身に力を籠め、筋力だけで体を持ち上げた。あまりの痛みに気絶しそうになったが、立ち上がることが出来れば敗北だけは免れる。頼む! 私の丈夫過ぎる体! 今こそ立ち上がってくれええええ!






「ヴアァアアアアアアア!!!」






 私が叫びながら立ち上がると、リチャードは驚いたように振り向いた。




「馬鹿な⁉ 全ての関節を破壊したのだぞ、なぜ立ち上がれる!」




「ハァ……ハァ……生憎私の体は普通じゃなくてねぇ……こんなもんじゃ倒れねぇよ!」




「バケモノめ! 引導を渡してくれる!」




 リチャードは再び私の元へ飛んでくる。もう腕も足もまともに動かねぇ、あいつの肉体を傷つけることは不可能だ、仕方ねぇ、やりたくはなかったが最後の手段を使う!




「死ねぇ!」




 私はギリギリまでリチャードを引き寄せ、パンチを身をかがめることで避けた。するとリチャードの股間がちょうど目線の高さに現れる。




「貴様、まさか⁉」




「どれだけ体鍛えても、ここだけは鍛えられねぇだろ‼」




 私は目の前に来たリチャードの股間に向かって頭を突き出し、そして―――。








「ギィヤアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」








 局部に思い切り噛みついたのだった。


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