第8話 貴様が首謀者だな?

 急いで街の広場に向かうと、そこにはいつの間にか巨大なステージが設置されており、それを取り巻くように、何人もの屈強な体をした兵士達が大きな旗を掲げて立っていた。旗には獅子の顔のようなマークが描かれており、町の人々はその光景を見て慌てふためいている。せっかく平和になったってのに、今度は一体なんなんだ。しばらくすると太鼓の音が鳴り始め、何者かが壇上へと上がった。




「聞けー、民衆達よ! 我が名はロシオズ帝国、第三代目王子、リチャードである‼」




 壇上へと上がったのは金髪の凛々しい青年であった。頭には王冠を被り、体を赤いマントで覆っている。見た目は若く、十代後半か二十代前半といった感じで、顔もなかなかのイケメンだった。どっかのカエル野郎とは大違いだな。




「この国では先日、王への反逆が起こり、国王フロッグ三世が打ち取られたと聞く。我々は同盟国として、その情報を聞きつけこの地にやってきた!」




「なるほど、あいつらフロッグの敵討ちに来たってわけか!」




 隣でツバメがそう叫ぶ




「しかし! そんなことはどうでもいい、民に反旗を翻されるなど、王の器がその程度だったということだ! 決して咎めはしない!」




 じゃあ一体何が目的なんだ! と民衆の誰かが叫んだ。




「いい質問だ、我々の目的は主を無くし、現在混乱状況に陥っているこの国の救済である!フロッグ王が亡くなった今、元同盟国として、このロシオズ帝国のリチャードが、この国を治めることにしたのだ!」




 人々はそれを聞いてざわめき始めた。救済と言っておきながらそれはただの植民地支配なのではないのか? 至る所からそんな声が聞こえる。




「安心しろ皆の者、我々は名高い大帝国だ! この国のありとあらゆる環境を今よりもっとよくして見せよう!」




 そうリチャードが宣言すると、民衆から様々な質問が飛び交った。リチャードは丁寧にそれらの質問に答え、話を聞く限りでは労働環境や様々な面で向上が見込めた。それを聞いた民衆達の表情は次第に明るくなり、冷ややかだったリチャードへの眼差しは、期待の眼差しに変わっていた。これがカリスマってやつか、末恐ろしいな。




「だが一つ、それらを実現するには条件がある!」




 リチャードは突然声の色を変えた。そしてマントの中から血の付いた何かを取り出す。




「それは君たちの中にいる、王への反逆を企てた首謀者を差し出すことだ。いや、正確にはこのガラスの靴で、戦士オルヴルフの目を潰した張本人を差し出してもらおう!」




 その発言を聞いて私は凍り付いた。あれは紛れもなく私が巨大兵士に突き刺した靴の破片だった。そういえばあのデカブツはロシオズの国から雇ったとフロッグ王は言っていた。オルヴルフというのはあのデカブツのことか!




「オルヴルフは我々の国でも屈指の実力を誇る、勇敢な戦士であった。そんじゃそこらのテロリストなどに負けるはずがない! だがしかしそいつは、目潰しという卑怯な手段でオルヴルフを死に追いやった、私はそれだけが許せないのだ‼」




 リチャードの怒りが込められた演説を聞いて、再び民衆がざわめき始める。




「さぁ今すぐ出てこい卑怯者よ! このリチャードが直々に裁きを下してやる‼」




 私はツバメと目を合わせた。彼女は首を横に振り、出ていくなと訴える。だがこの状況は非常にまずい、民衆はあいつのムードに飲まれている。




「ふん、そう簡単には出てこないか、ならばこうしよう、お前が名乗り出ないというならば我々の全兵力を持って、今すぐにこの国を滅ぼす‼」




 リチャードがそう宣言すると広場に居た兵士全員が、民衆に武器を向けた。突然の出来事に誰もが驚き騒然とする。




「首謀者よ、おまえは民衆のために戦ったのだろう? ならば民のためにおとなしく出てきたらどうだ? お前ひとりの犠牲で、ここに居る全員が助かるのだ。どうした? ここにきて自分の命が惜しくなったのか?」





 野郎、それがお前の本性か! 人の良心を揺さぶるようなことしやがって、私は思わず声を上げそうになったが、ツバメとマイヤの二人がそれを制止した。しかしどうすればいい、私が名乗り出なければここに居る皆が殺されてしまう。覚悟を決めて、前に出るか?




「そりゃあたしじゃよ」




 !? 




突然何者かが名乗りを上げた。私達はその人物を見て驚愕する。なんとそれはマザーだった。マザーはそのままリチャードの前へと歩みより、にんまりと笑みを浮かべてみせた。




「あたしが殺してやったんだ、王もその兵士達もねぇ!」




 何言ってんだマザー! 殺されるぞ! 私の首筋に一筋の汗が流れる。




「おい老婆よ、一体何の冗談だ?」




「冗談なんかじゃないさ、私が呪い殺してやったんだよ! なんせあたしは怖い、怖い、魔女だからねぇ、目を潰すことぐらい造作もないさ」




(マザーは私達の身代わりになるつもりだ!)




 そうツバメは呟いたが、流石に騙せるわけがない。一体何考えてんだ!




「老婆よ、流石に悪ふざけが過ぎるぞ、私を侮辱しているのか? それともお前が身代わりにでもなるとでも言うのか?」




「ああ、そうじゃ、なんせ首謀者は私の可愛い娘だからねぇ、そう易々と差し出すわけにはいかないのじゃよ、お前さんも一国を守る王であるならば、この道理を汲み取る礼儀というものを、知っているじゃろう?」




 リチャードは、強気に出るマザーに覚悟はできているのかと問い、剣を一本取りだした。ダメだ、マザー! 私なんかのために! すぐにでも止めようと動き出した私の体を、ツバメとマイアの二人が必死に抑えてきた。二人とも険しい表情でそれはダメだと訴えてくる。でもこのままじゃマザーが! 私は必死に考えた。マザーの気持ちを汲み取るべきか、マザーを助けに行くべきか。




「首謀者よ、お前は幸せ者であったなぁ! こんなにも素晴らしい母親を持って、今回は母親に免じてお前の命は奪わないでやる、だが母親を見殺しにした事、一生後悔しながら生きてゆくがいい!」




 リチャードはマザーに向かって、ついにその剣を振り下ろす。






 ガァキィイン‼






 しかし次の瞬間、剣は音をたてながら宙を舞い、回転しながら地面へと突き刺さった。






「この婆さんを少しでも傷つけてみやがれ……お前もあのデカブツみたいに殺すぞ‼」






 私は蹴り上げた足を戻し、リチャードを睨みつけた。後ろではツバメとマイアがやってしまったと言わんばかりの表情でこちらを見ている。マザーは小さな声で、この馬鹿者め!と言ってきた。ごめんマザー、後悔してまで生きていたくはないんだ。




「貴様が首謀者だな?」




 リチャードは狂気の笑みを浮かべ、私の方を見た。


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