第3話 暴力は人一倍得意だ!

ここはどこだろう、目を覚ますと私は知らない場所でベットに寝かされていた。口の中にはほのかな苦みがあり、鼻の奥をスゥーっと通り抜ける爽やかな香りが残っている。私は一体何をしていたんだっけ?そうだ、あの婆さんを引き留めようとして急にお腹が痛くなってそれから……。




「ババーン‼」




「ギャアアアアア‼」




 突然の叫び声と共に目の前にしわくちゃのバケモノが現れ、私は思わず飛び上がった。




「イッヒヒヒ、いいリアクションだねぇ」




 よく見るとそれは先ほど出会った老婆だった。私を上手く脅かせたことが嬉しかったのか満面の笑みを浮かべている。




「あ! やっと起きた!」




 老婆の傍らには知らない少女が立っていた。小柄で金髪のショートカット、パッチリとした茶色の瞳をしていて、年齢は私と同じ十八くらいに見える。彼女は起き上がった私のおでこや首元に手を当て、何かを確かめると安心したように笑みを浮かべた。




「良かった~薬が効いたんだね!」




「……誰?」




「感謝しなよ、マザーがあんたをここまで運んできてくたんだ」




 部屋の入り口にはまた別の女性が立っている。こっちは背が高く、褐色肌で長い黒髪、年齢は二十代後半といったところか。その後ろにも何人かの女性がこちらを覗いてる。




「マザーって……」




「わしじゃよ」




 脇に座っていた老婆がそう答える。


「婆さんが?」




「運ぶの大変だったんじゃぞ、アイタタ、腰イタ」




 老婆はそう言って、わざとらしい素振りで腰に手を当てた。




「ここは一体どこなんだ?」




「ここは街外れの教会だよ!」




「教会?」




「ここは行き場を無くした姫達が暮らす、共同の隠れ処さ」




 褐色の女性が答える。姫? 隠れ処? 一体どういうことだ?




「姫って、あんた達まさか……」




「そう、ここに居る者達は全員、この国の元王妃達じゃ」




「はぁ⁉」




 私は一瞬耳を疑った。王妃なら普通、城で裕福に暮らしているはずだろう。




「どういうことだよ⁉ 何で王妃様がこんなところで暮らしてんだ!」




「あたし達全員、王に捨てられてんだ、色んな理由でね」




「捨てられた⁉」




 突然のカミングアウトに、私は思わず声を荒らげた。王妃が捨てられるなんて話は今まで聞いたことがなかったからだ。




「私は王様から逃げてきたところを、マザーに助けてもらってね、今はここで匿ってもらってるんだ」




 金髪の少女も気恥ずかしそうに答える。




「ちなみにマザーはこの国の初代王妃だ」




「何ぃ⁉」




 驚いた私を見て老婆は得意げに笑って見せた。嘘だろ……。




「助けたついでじゃ、お前にこの国の真実を教えてやろう」




 そう言って老婆(マザー?)は杖を突き、おもむろに語りだす。




「この国の王、フロッグは無類の女好きでのう、毎年新しい王妃を城に迎える。選ばれた王妃はしばらくの間煌びやかな生活を手に入れるが、王はすぐに王妃に飽き、新しい王妃を迎え入れるための舞踏会を開く。そして飽きられた王妃は城から追いだされ、居場所を無くし、口封じのために国外へと追放されるのじゃ」




 語られた驚愕の事実に私は言葉を失った。




「この事実は一切公表されていない、わしらはこの国の闇そのものなのじゃよ」




「そんな、それじゃあ王妃になっても幸せになんかなれないじゃないか!」




「それがそもそも間違ってたんだ、王に肖って幸せになろうなんていう考え自体が」




 褐色肌の女性がそう答える。




「嫁いだ女達の中には、王の素行に深く傷つき、自害した者たちもいる。娘よ、悪いことは言わぬ、王妃になって成り上がろうなんて考えはすぐに改めることじゃ、わしらみたいになりたくなければな」




 老婆の話を聞き、私の中では何かが沸々とこみ上げてきた。これは主人を殴った時と同じ感情、そう怒りだ。




「……意味が分からねぇよ」




「そこまでされて、何であんたたちは何もしねぇんだ?」




「えっ?」




 しかしそれは王に対して向けられたものではなく、ここにいる王妃達に向けての感情だった。




「何で被害者のあんた達がこんなところでコソコソしてんだ! 勝手に飽きられて、勝手に捨てられて、ふざけんなって思わねぇのかよ! 私だったら王の顔面タコ殴りにして、全裸で逆さ吊りにしてやる! てか今すぐ殴りに行ってやる!」




 私がそう叫ぶと、王妃達はキョトンとした表情で私を見つめた。そして一斉に笑い出す。




「な、何が可笑しい!」




「いいや可笑しくはないよ、むしろ感心したのさ、タコ殴りにして逆さ吊り、いいじゃないか、気に入ったよあんた!」




 褐色の女性がそう答える。




「あたし達だってこのまま黙っているつもりなんてないさ、ついて来な!」




 すると私は教会の地下室へと案内された。床の隠し扉の下に階段があり、その先に重厚な扉がある。扉を開くと腐った卵のような匂いがしてきて気づく、これは……火薬だ。


見渡すと地下室には大量の火薬と銃火器、剣などの武器が所狭しと置かれている。




「これは⁉」




「私達は逃げながらも、着々と準備を進めてきた。王を引きずり下ろすためのクーデターをね、決行は次の舞踏会当日、城門が開かれる唯一の機会だ。あんたもやるかい?」




「ああ、もちろんだ!」




 即答すると褐色の女性は自分の拳を突き出してきた。出された拳に、私は自分の拳を突き合わせる。




「あたしの名はツバメ、ここのリーダーさ」




「私はエラ、暴力は人一倍得意だ!」


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