第58話
もうアヤセの蘇生はしない。
それは無言のうちに決まっていた。
切り捨てる。そうしないと勝利はないと誰もが理解していた。蘇生魔法をかける時間もない。
攻め勝つしか術はなかった。
爆発をもろに喰らい、地面に落とされるラムダゼート。守っていた宝玉の欠片を砕かれ、翼にも傷を負い、飛んで逃げる事が出来なくなった。
目は更に赤色を深め、感情を周囲に分からせる。もう可愛らしさは感じない。巨大で凶暴なエネルギーの塊が白い鱗を纏っているだけだ。
「アヤセ。お前の死は無駄にしないぞ」
リュウが赤いマントをはためかせ槍を構えた。
「人を勝手に殺すな」とアヤセは言うが聞いてない。
リュウが素早く走り出し、攻撃が当たる間合いに近づいた。
そこでスキル、ハルバードを発動させる。
十字槍の右の刃が変形し、斧の様な形に変わった。リュウはそれを使って攻撃する。
多分、三回突いた。それほど早い突きをラムダゼートは鋭い尾を使い防いだ。火花が散る中、リュウは反撃に遭う。
ラムダゼートは尾を剣のように素早く振ったり、槍のように突いたりした。どれが当たっても致命傷になる多彩なそれをリュウは避けず、全て槍での攻撃で相殺した。
「俺にも出来んだよっ!」
誇らしげなリュウに苛立ったのか、ラムダゼートは大きく尾を振り上げ、押し潰すように振り下ろした。
「それだ!」
リュウはその攻撃を待っていた。振り下ろされた尾を横に躱すと同時、リュウは斧の様に変形させた槍を振るった。
刃は無防備な尾を見事に切り取った。
「キュウウゥンッ!」と痛そうに声を上げるラムダゼート。
「よっしゃあぁっ!」と喜んだリュウだったけど、怒ったラムダゼートに残った尾で振り払われた。
体力がごっそりと減るが、すぐにそれをヒラリが回復する。
それとほとんど同時に既に走って近寄っていた僕が斬り付ける。
ラムダゼートはそれを後ろにジャンプして避けるけど、先程と違い焼かれた翼はまともに使えない為、距離はそれほど稼がれなかった。
それを見て僕とリュウが畳み掛ける。
ここで決める。いや、ここで決めるしかない。距離を取られたら何をされるか分からないからだ。
まず僕が剣を振り上げる。けどそれはラムダゼートの口に含まれた火球を見て止めた。
急いで盾を構えると、すぐに炎を纏った大きな岩が放たれ、盾を弾かれた。なんとか防いだけど、体勢を大きく崩される。
攻撃どころじゃない僕の横をリュウが駆ける。
そのリュウに再びの火球が放たれる。
「もう見たよ」とそれをリュウはスライディングで下をくぐって避けた。
それと同時に接近。攻撃終わりのラムダゼートを一突きする。
翼で防がれるけど、いくらかのダメージは稼いだ。
接近戦。ラムダゼートは再び尾を使い攻撃してくるので僕は近づきようがなかった。
先程リュウが切ったのは尾先の三分の一程だけ。リーチはほぼ互角だ。けどリュウにはこの素早い攻撃が全て見えていた。
次々に発射される攻撃をボクサーみたいにかいくぐり、時に槍で弾いていくリュウ。
そして遂にラムダゼートのほとんど目前にまでやってきた。そこでリュウはスキルを発動。
「必殺必中!」
グングニル。
切っ先に集められた魔力が一瞬にして伸びた。
近距離での高速攻撃。発動とほぼ同時の攻撃は見事にラムダゼートの腹にヒット。またダメージを与える。
ここでラムダゼートは意外にも前に出てきた。グングニルは素早く攻撃力は大してないにしてもこれにはリュウも虚を突かれた。
槍の間合いより更に接近された時には、ラムダゼートの口に先程の火球が見えた。
それを見て、リュウは覚悟を決めた様に小さく笑った。
「ここまで、か・・・・・・」
そう呟いて、リュウは槍を投げる。
しかし近すぎたせいか、槍はラムダゼートの肩口を通って背後に飛んでいった。
それをあざ笑うかの様に放たれた火球はリュウに直撃。炎に体を包まれたリュウの体力は一瞬にして0へと向った。
それでも、0になる僅かの時間はスキルが発動し続ける。
「戻ってこいっ!」
「キュウウゥゥッ!」
圧倒したはずのラムダゼートがまた苦痛の声を上げた。
スキル、ゲイボルグ。
投擲した槍は宙を飛び、持ち主に帰ってくる。金色の槍はラムダゼートを背後から突いた。
死角からの零距離攻撃が当たると同時にリュウは力尽き、倒れた。
「ヒロト。おいしいとこはやるよ」
ラムダゼートの体力は残り二割ほど。ぼろぼろになりながらもみんなでここまで削ってきた。
ここでやらなきゃいつやるんだ!
「倒れろおおおぉぉぉぉッッ!」
崩れ落ちるリュウの背後から接近していた僕はラムダゼートに斬りかかった。
それが僕の頭に浮ぶ色々な考えに対する答えだった。
リュウが壁となり、僕への反応が遅れたのかラムダゼートへの一撃はすんなりと決まった。
体力は減り、残り一割。
「畳み掛けろ!」
「あとちょっと!」
リュウとアヤセの声が大きくなる。
僕はその声に後押しされ、がむしゃらに剣を振った。
しかし、剣を振り上げた時、既にラムダゼートの攻撃モーションが始まっていた。
接近戦様のドラゴンクロー。鋭い爪がきらりと光った。反撃を受ける。防ぎきれない。
耐えられる?
だけどそんな甘い考えが通用する相手じゃない事は分かっていた。
僕のミスだ。もう少し敵を見て動けば盾で防いで反撃出来たのに。
そしたら、そしたら、いや、その前に――。
一瞬の間に僕の脳はフル回転した。それでも何も答えは出なかった。
ただ、その僅か0.5秒後に起きたのは、ヒロトの体を尖った爪が貫く、というイメージとは僅かに違った事だった。
グサリ。
SE。
貫通した音。
だけど穴を開けられたのはヒロトの筋肉質な体ではなく、ヒラリの柔肌だった。
目の前の光景が一時、止まった。
ヒラリが僕を守る盾となったんだ。
その事がはっきり分かったと同時に、ヒラリの声が聞こえた。
「ヒロト君!」
その声に動かされ、僕は僅かに見えたスペースへ踏み込み、目の前に見えた白い鱗へ剣を振り下ろした。
ラムダゼートの攻撃の隙に、僕の斬撃は見事、ヒットした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます