第47話

 迷宮をかなり進み、そろそろこの階も終わりかなと思っていたら、目の前が急に開けた。

 そこは大きな円になっており、壁には8つの扉がついている。僕らが出てきたのもその内の一つだ。

 少し、嫌な予感がした。更に大きな複数の音がその予感を現実に変えていく。

 ばっと一斉に大きな扉が開いた。

 驚く僕らの視界に次々と大型のドラゴンが現われていく。あっという間にこのエリアは人口過多ならぬドラゴン過多になった。

 尖った鱗を持つ四つ足の古龍。赤、青、緑、黄、白。そして最後に黒のドラゴンが飛び込んできた。

 その手前にはどこかで見た事のあるパーティーがいる。どうやら追われてここまで来たらしい。

 それはあの忍者がいる因縁のパーティーDDOだった。

「あいつら!」とリュウも気付く。ヒラリとアヤセもすぐに分かり、構える。

 僕らとそのパーティーは円の中心に追いやられ、ドラゴンがそれをぐるりと囲む。

 どれも大きく、まるで餌をつつく鶏のように僕らを見下ろしていた。流石に怖かった。

「・・・・・・どうする?」

 カズマの声に焦りが混じっていた。

 全滅の二文字が脳裏に過ぎる。それを回避する為には、

「・・・・・・逃げよう。バラバラになって出口を探すんだ。あのパーティーが来た扉と、僕達の来た扉以外の六つ。その内のどれかが本物だ。見付けたら報告。いい?」

 僕の指示にエデンの三人は頷いた。

「・・・・・・オッケー。おいアヤセ。遅れるなよ。俺に付いてこい」

「わ、分かったわよ・・・・・・」

「ヒラリは僕と行こう」

「う、うん・・・・・・」

 ルーラーもそれぞれペアを作った。その間にもドラゴンは近寄ってくる。

 どれが誰を襲おうか決めかねているようだ。一頭が飛び出そうとすると、他の龍が口を開けて吠え、牽制する。

「アヤセ。合図したら天井に雷光弾。それを撃ったら一斉に走ろう」

 アヤセは頷き、弾を込めリロードする。

 僕はドラゴンの接近をギリギリまで待った。最悪少し位ダメージを受けてもいい。接近すればするほど、目眩ましの後に奴らの混乱は大きくなる。

 大きな体をぶつけ合い、その隙に逃げる算段だ。

 そこに邪魔が入った。

>勝てるわけねえw 俺は逃げるぜw

 チャット欄が動いたと思ったら、忍者の手に爆弾が持たれていた。

 見た事ある。あれは――

 ボンっと音が鳴った。忍者が床に叩き付けた煙玉から辺りに白い煙を立ちこめる。

 それを見てドラゴンが一斉に怒りの咆哮を上げ、口に炎を蓄えた。やられた。

「走れ!」

 僕らは一斉に走り出した。それとほぼ同時に六方向から炎に襲われる。

 それを全て喰らえば僕らのヒットポイントは一瞬で0になる事だけは分かった。

「ヒラリィッ!」

「任せて!」

 僕がヒラリの名前を呼ぶ前から詠唱は始まっていた。

 それを見ると同時に僕は盾の底を地面にのめり込ませる様に叩き付けた。盾を固定し、スキルを発動させる。

 アキレウスの盾は相手の攻撃を無効にし、かき消せるナイト最強の防御術だ。

 クールタイムが長い為、使うタイミングは難しい。

 ここしかないと僕はそれを使い、盾を巨大化させ、前方の赤いドラゴンが吐く炎を受け止めた。炎は盾に当たると大きな塊になり、そして弾けた。

「よし!」

 次に僕は後ろを振り向く。そこには五つの巨大な光りの盾が逃げる皆を守る姿があった。

 魔術師の秘技、絶対のアイギス。

 全てのMPを消費し、創り出した巨大な光りの盾は全てのジョブで最強の防御スキルだ。

 盾が炎を受け止めている間に他のメンバーは扉へと走って行く。

「アヤセ!」

「撃つわ!」

 アヤセが足を止め、天井に雷光弾を放つ。それは天井に刺さり、次の瞬間開き、目の前を真っ白に包み込んだ。

 怯むドラゴン。僕はその隙にヒラリを抱きかかえ、適当な扉に飛び込んだ。

 滑り込むように入った扉の奥は長い通路になっていた。

「ありがと・・・・・・」とお礼を言うヒラリ。

「礼を言うのはこっちだ。ヒラリのお陰でみんなが助かったんだから。でも早く逃げよう」

 僕はそう言いながら追ってきた赤いドラゴンを見付ける。

 振り下ろされる前足をシールドフリックで弾いた。

 僅かに稼いだ時間を無駄にしないように僕はヒラリの手を引いて奥へと走り出した。それを後ろから誰かが追い越していく。

 誰だかすぐに分かった。

>俺も行くぜw

 忍者が鬱陶しい語尾の言葉を並べながら前を走る。

 僕は眉を曲げながらもしょうがなく同じ方向について行った。

 もちろん、タダで済ますつもりはなかった。

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