100話 油断した頃に強敵は現れる。

 随分と慣れたもので俺たちは相手への攻撃手段として、強すぎず、そしてまた弱すぎない攻撃を選択するという見切りが出来るようになってきていた。

 殆ど考えずに脳死しながら技や魔法を使い、効率よく敵をなぎ倒しながら迷宮の奥へと歩みを進めていく。


「作業に次ぐ作業って感じだな」


「一応人の命が関わってるとはいえ……俺の中で掘りのスイッチが入ってるのは確かだ」


 奥へ奥へと進めている事は確かだが、未だに終わりは見えてこない。

 どれほどの時間が経ったのかというのはもう確認する気も殆ど起きず、生活リズムというものは完全に崩れ去っていた。


「早く帰って日光浴でもしたいんだけどなあ」


「私はシャワーを浴びたいですね……どうにも落ち着きません」


「気持ちは分かるわ、でも無いものはどうしようもないからさっさと終わらせるしかない……のよね」


 サラを含めた女性陣も迷宮の攻略には辟易としているようで、敵を倒しながらも愚痴が絶えない現状が続いている。


「ハッハァー! 辛気くせえぞお前ら!」


 そんな中でバートだけは意気揚々と雑魚をなぎ倒している。

 一応強敵と呼べない事はない敵も出現するようにはなってはいるものの、それでも雑魚の範疇を出ないものであり、放心状態で半分寝ながら戦いでもしない限りは負ける事はまずないといった程度のものだ。


「オラオラ! 今日も一気に進んで先遣隊と奥にあるであろう何かをどうにかするぞ!」


「おいおい……毎回突っ込んでも雑魚しかいないからって調子に乗るなよ?」


 調子に乗りに乗りまくっているバートは雑魚を蹴散らしながら一気に進んでいく。

 

「ッ……ヤベェッ!?」


「バート?」


 次の瞬間、俺達の前にバートが何かに吹き飛ばされたかのように地面を転がりながらこちらへと戻って来た。


「いっつぅ……」


「一体何が……!?」


「伏せろクリフ!!」


 次にこちらへと飛来してきたのは炎だ、とは言ってもユラユラとした炎ではなくそれの塊。

 まるでマグマの塊でも投げられたかのようなそれではあったが、防御バフを積めば耐える事に問題は無いものではあったものの、明らかにその威力はその辺りにいる雑魚のそれとは違うものであった。


「エリスさん!」


「このっ!!」


 カオリとカリーナが俺達の前へと立ちはだかり、その後ろでサラが銃を構えて通路の奥へとめくら撃ちをし始めた。

 何発かは命中したのか、奥から小さく獣の悲鳴のようなものが聞こえてきた。


「悪いな……助かった」


「一体何が……!」


「油断したぜったく……クソ狼め」


 通路の奥から姿を見せたのは、逞しい脚部から炎を噴出させる1匹の狼だ。

 何かしらの神話をモチーフにしたものなのか、それともオリジナルのものなのかはわからないが、少なくとも雑魚ではないのは確かだ。


「レベルは15か……それでこの強さってのか」


「まるでフェンリルのようですが……ティウが言うには違うようですね」


「何だって構わねえ! やるぞ!」


 バートは正面から思い切り踏み込んで大剣を思い切り振るう、しかし大振りなその攻撃は狼に届く事はなく、狼は軽々とその場を飛びのいて空中で火球をバートへと放った。


「うざってぇ!」


「空中なら動けないハズだよね!」


 サラは宙へと浮いた狼へと向かって照準を合わせて射撃を開始する。

 銃声と共に放たれた弾丸は宙で動きのとれない狼へと真っすぐと飛翔し、避ける暇もなく命中……すると思われたが、狼はまるでジェット噴射するかのように炎を噴き出したかと思えば、空中を駆けるようにしてサラへと思い切り突っ込んできたのだ。


「んなのアリ!?」


「出来るって事はアリなんだろうよ!」


「決めます!!」


 俺はすかさず大太刀をグレートソードへと変形させ、剣の腹を盾にするようにしてサラの前に立ちはだかる。

 強い衝撃が俺の体へと走るが、ダメージは微小なものに抑える事が出来たらしく、動きの止まった狼へと思い切りカオリが2振りの剣を叩きつける。


 ギャゥンッ!?


 効果的なダメージでも入ったのか、それともただ驚いただけなのかは分からないが狼は短い悲鳴を上げる。


「はぁっ!」


「このヤロウッ!」


「思いっきり攻めていいわよ!」


 全身に力がみなぎるのを感じる、どうやらカリーナがバフを盛ったようで体がかなり軽く感じられ、メタ的な言い方をすれば攻撃力や防御力に補正がかかっていると確信できるものだ。

 俺も大太刀へとレーヴァテインを変形させて攻撃へと参加する。


「へっ! 大した事のない雑魚じゃねえか!」


「驚かせてきたくらいかな? 思ってたよりも大した事はないや!」


 こちらは6人、その手数というのはかなりのものである上に、自分で言うのもなんだが俺達のレベルは高い。

 そんな俺達からの総攻撃を受ければ一方的になるのは当たり前だろうが……俺とクリフの中には嫌な予感が心の中に芽生えていた。

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