97話 入口
俺達は準備を済ませ、迷宮のすぐ近くまでやってきていた。
丘の上にポツンと入り口となるトーチカのような建物がたっており、ダンジョンの入り口とよく似ており何も知らずに入れば無残にその命を散らす事になってしまうだろう。
「流石に見張りがいるんだな」
「問題になってるみたいだしな、レベルは30か、NPCにしては結構な強さだな」
中に人が入らない為か、それとも外から魔物が出てこない為か、あるいはその両方か、見張りのNPCが迷宮への入り口に複数人立っている。
「迷宮の仕事に来た、入っても問題ないか?」
「話は聞いていますよ、一度入ると引き返せませんがそれでも行くのですか?」
「あぁ、その為に準備もしてきたからな」
「分かりました、ご武運を」
それぞれ念の為に基礎的な防御バフをかけて迷宮の入口へと足を踏み入れる。
ダンジョンの時とは違い目の前に大きな扉があり、ダンジョンのように意識が途切れると言うことは無かった。
扉を押して開けようと力を込めた瞬間、俺達の体は扉の中に吸い込まれるようにして迷宮へとめり込むようにして入ってしまった。
「まさか扉が開かないとは思わなかった」
「ロード時間は優秀だったみたいだな、tipsすら出なかった」
「分かる言葉で話していただけると助かります、クリフさん」
「ごめんごめん、ま……案の定出られそうにはないみたいだな」
後ろには先ほどと同じ大きな扉があり、押そうが引こうがビクともせずどうやら前に進むしかなさそうだ。
中は壁に取り付けられた松明が光源のようで青白い炎がユラユラと周囲を照らしている。
「壊れねえみたいだな、思いっきり暴れて暗くなるって事はなさそうだぜ」
「見通しはそこまで悪くはないみたいだね、ちょっと暗い事は事実だけど」
「見た所魔物が湧いてるって感じもしないな……てっきりモンスターハウスみたいなもんかと思ってたんだが」
奥へと歩みを進めるが、特に物音や魔物の気配は感じられない、聞いていた話ではかなりの量の魔物が迷宮には存在していると踏んで良さそうなものだったが誤報だったのだろうか。
歩く事10分、そんな平和な静寂は突如として破られる事となった。
「クソッ! なんなんだよこれ!」
「なんて量なの……弱いとは言っても鬱陶しいものね!」
「美味くもねえしただ鬱陶しいな本当に! カオリは大丈夫か?」
「大丈夫です! ダメージも殆ど受けませんので攻撃に集中します!」
ゴブリンにコボルト、狼といった基本的な雑魚の大群が迷宮の奥から突如としてこちらへと向かってきていた。
レベルは高くても10と雑魚中の雑魚なのだが、都会の通勤ラッシュ並みの量に流石に俺達も悲鳴を上げていた。
「ハッハー!! でも殴り飛ばすのは気持ちいいぜ!」
「多少の消耗はやむを得ないか……一気に始末する!」
バートが大剣を振るう度に5匹ほどの魔物が宙を舞い、光となって消えていく。
続いてクリフが風属性の範囲魔法を発現させ、魔法の範囲内にいる魔物を全て一撃で葬り去っていた。
「やっぱりMPは回収しきれないか、雑魚すぎるってのも問題だな」
戦闘時間はおよそ5分強ほどだろうか、ただの雑魚殲滅としてみるにはかなり時間がかかってしまった方だろう。
さらにタチの悪い事に範囲魔法を使っての対処で大半の敵が吹き飛んでしまったという事に加え、そもそも敵が弱すぎる為にMPの吸収が殆ど出来ていないのだ。
「逆にMPさえあれば楽っちゃ楽ではあるんだけどな、ペース配分を考えながら進むのが良さそうだ」
「それでしたら私が魔法を担当しますよ、ロングソードのおかげで吸収率は良い方ですし」
カオリが名乗りを上げる、それぞれ役割分担を設けるというのは攻略においても大事な事だ。
後方支援はカリーナとサラが担当する事となり、残りは臨機応変に対応するというかなりざっくりとしたものにはなったが、何も決めていないよりはマシだろう。
「もっと奥に進むぞ、しかし……どうにも今どこにいるのか分かりづらいな」
「ただの一本道とは言っても逆にそれが怖いところなんだろうな、迷宮ってのは」
奥に進むにつれて魔物と鉢合わせる事も増えてきた、大抵は雑魚で高くてもレベル20程度のものばかりではあるが如何せん数が多い。
一回の戦闘で少なくても30匹ほどはいるかといった量で、多い時にはまるで無双ゲーの如く数えるのが面倒なほどに雑魚が湧いてきている。
幸いな事に後ろからは今の所湧いては来ていない為にあくまで面倒くさいという程度で収まってはいる。
俺たちはただひたすら奥へと歩みを進めていった。
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