82話 訓練

「次! 筋はいいと思うぞ!」


「武器を振る際に少し力む癖がありますので、もう少しリラックスできるようになると更に強くなれると思いますよ」


「距離の詰め方はいいと思うんだけど、攻撃するタイミングが早すぎると個人的には思うかな、最後の最後で狙いをつけやすいとは思うけど……まぁ、普通の射手を相手するなら問題ないとは思うよ!」


 俺達は次の作戦に向けてNPC兵の訓練に付き合っていた。

 この訓練は対人戦闘の練習にも一応なる、実戦的というよりは基本を確認するようなものではあるがそれも非常に大事な事だ。


 訓練をする事でNPCのレベルが上がる事があり、ゲーム的な言い方をすればAIの強化もされる。

 シーグルのような特殊NPCであれば話は別なのだが、やはり普通のNPCは正直あまり賢くない戦い方をする、単純に攻撃を読みやすいのだ。

 戦い慣れしていないものは魔法も警戒していないのか真っすぐ突っ込んでくるという事も珍しくは無い、まあこの世界で俺達プレイヤーのように何でもできるという者も多くは無い為に、それが必ずしもダメだとも言い切れはしないのだが。


「やっぱ種族的な問題とは言っても筋力がもう少し欲しいところだな」


「そうですね、ただ攻撃補助魔法が使える人は中々いい威力で攻撃出来ていましたよ」


「魔法の使えない人をどうするか、だよねえ」


 能力的にエルフはあまり前衛には向かない、攻撃補助や防御補助の魔法があれば前衛でもバリバリ活躍できるのだが意外とそういった者は少ない。

 大問題は前衛に向かないスキル、ステータスのエルフがいるという事だ。

 人数の問題であったり、一番厄介なのは戦士に憧れて無駄に志の高い者だ。


 無理だとは言わないが、少なくとも賢い選択かと言われれば決してそうでは無いだろう、自分に無いものに憧れる気持ちは分からないでもないが、軍に入ってもそれを貫くと言うのはまた問題なような気がするのは俺だけだろうか。


「そればかりは申し訳ないが飲み込んでもらうしかない、彼らのような兵は前には出さないが……万が一という事もあるからな」


「ま、アルフヘイムの事情は知らないしとやかく言うつもりはないんだけどな」


「大きな組織になるとどうしても問題は起きるだろうしね、ただ今いる部隊の殆どの兵は良い兵だと思うよ、特に後衛は下手なプレイヤーよりもずっと強いんじゃないかな」


 極端な魔法特化という種族特性もあってか、魔法だけで比べればプレイヤーとそこまで大きな差のないエルフというのは珍しくない、素早さなどの面でどうしてもやり合うという意味合いでは不利を強いられるだろうがそこは戦術でどうにか出来る事も少なくは無い。


「少数精鋭のアルフヘイム軍といったところですよね、相手してみて実感しましたが筋のある兵は本当に多く感じます」


「君たちからそう言ってもらえるのは上官としても鼻が高いな、ただ……そういった兵ですらバートや君たちには軽く屠られるんだろ?」


「否定はしませんが……きっと軍の中から私たちのような人も出てくるでしょうから心配は無いと思いますよ」


 俺達はいわば特異個体のようなものだろう、転生者という新たな種族として考えるのが無難なようにも思えるが、それを言えばまたややこしくなる可能性は十分にあり得る。

 

「さて……そろそろ作戦会議もしていくか」


「オッケー、って言っても決める事ってそんなにないよね」


「まあな、でも何も決めないよりはずっといいだろ?」


「個人的にはバートさんとやり合えればそれでいいのですが……」


「基本的には自由な立ち回りでいいとは思う、ただ問題は神器解放のタイミングだ」


 バート達3人はレベルも高く、神器解放に神器解放を重ねるといった形をとらなければ高確率で危機に陥ってしまうこれは相手にも言える事であり、上手くいくのであれば先にこちらが相手よりも先にゲージを溜め切ってしまって速攻するというのも手ではある。

 しかしこれは現実的な手段かと言われればそうではないだろう、神器解放を神器解放でやり過ごす事は不可能ではない上に、万が一隠れられでもすれば厄介極まりない。


「誰の神器解放に誰の神器解放を被せるか、多分これが重要になってくるだろう」


「神器解放を……ですか」


「この中で一番攻撃力があるのはカオリだよね、防御面で言えばエリスってところかな」


「バートの神器解放には俺が被せようと思う、最高の攻撃には最高の防御をだ」


「私が真っ向からぶつかると言う手は?」


「カオリは助かるかもしれないけど……私とエリスは巻き込まれてやられそうだと思うんだけど」


「言われてみれば確かにそうですね……申し訳ありません」


「ま、俺が防御をミスっても終わるんだけどな」


 大規模な爆発は神器解放の中でも必殺技と言っていいだろう、そもそもそれを使ってくるかどうかもわからないが。


「後は誰だっけ、あの……アマテラスのご両親」


「クリフとカリーナだろ? クリフはカオリと似たようなタイプだろうな、ド派手な技というよりは単純に強い」


「ティウの神器解放って無個性なんですかね?」


「そう言われるとおじさん傷ついちゃうぞ?」


「まぁでもべらぼうに強いってのは事実だろ、変な技を使わない分逆に厄介とも言える」


「否定はしないんですね」


 苦笑いしつつもカオリはそれ以上言う事は無かった、正直実際個性的かと言われればそうでもないだろう、カオリの神器解放の印象はとにかく強い、だ。


「まぁ話を戻すけど、もしクリフが神器解放をした時は真正面からカオリに殴り合いを任せたい」


「本当ならばバートさん相手に使いたいところですが……仕方ありませんね」


「これは戦争だしね、もしも単純なタイマンがしたいなら戦後に決闘でもしたらいいんじゃないかな?」


「なるほど、その手がありましたか」


 カオリは軽く手をポンと叩くと少し間の抜けた表情で頷いていた。


「となると私はカリーナに被せていく形になるのかな」


「そうだな、ヨモツシコメは最悪放置でもいいだろう、カリーナを抑える形で動いてもらえるとありがたい」


「了解っと、決める事ってそんなところかな?」


「他にもイレギュラーも想定内にしておきたいとこだけどまぁ……今日はこんなところだろう、さ、訓練訓練」


 作戦日は着実に迫ってきていた、どういう戦いになるのかの予想も立てておく必要がある、勝利の為の土台作りと言うのは重要だ。

 俺は訓練の後にシーグルとも会話しつつ頭の中で当日の状況をシュミレートしながらひたすら思考を走らせた。

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