81話 大規模作戦

 俺達3人は細かい戦闘に何度も参加した事もあってか、レベルはそれぞれ40にまで上がっていた。

 ミズガルズ軍でバート達以上の実力を持つプレイヤーとは今の所当たった事はない、中には神器解放を使えるプレイヤーもいたのだが、こちらも神器解放で対抗できる状態であったが為に対処に苦労すると言う事は無かった。


 神器解放を使えるプレイヤーというのは案外少ないようで、そして記憶を引き継いでいないプレイヤーというのも意外と多いようであった。

 そして面白い事に神の中にはナイアーラトテップやシュブ=ニグラスといったクトゥルフ神話の神も存在はしているらしい、何かしら黒幕臭はしたとしてもあくまで加護を与えているくらいにしか影響は無いらしく、彼らがついているからと言って何かしら人間やエルフ達にとって不都合のある事を絶対するというわけでもないらしい。


「そろそろこんなバカげた戦争をやめてもいいと思うんだがな」


「近いうちにミズガルズが降伏するんじゃないか? ……と言いたいところだがバート達のパーティーのいる部隊は負け無しらしいしな、どうなる事やら」


「一つだけ強い部隊がいた所で継戦という事は無いと思いますが……ただ個人的に借りは返しておきたいとは思いますね」


「負けたまんまってのもな、ただバートの神器解放は正直なところ止められるかどうか」


「本気を出せば防ぎきれるとは思うよ? 勿論他の兵もちゃんと守るって意味でもね」


「マジ?」


「守護女神をナメてもらっちゃ困るよ、色んな脅威からアテネを守ってたんだから!」


 胸を張ってドヤ顔をする少女の姿が頭に浮かぶ。

 ミネルヴァの神器解放は全体的に非常に高い水準を持っているものの、逆に尖った部分と言うのはあまり無い、唯一と言っていい尖った部分というのは範囲内に存在する自分が守るべきと判断した対象への防護性能の強化だろう。

 広範囲のバリアは勿論だが、味方の元へと移動する際の移動速度の強化、誰かを守りながら戦う際に更なる能力の強化も得られているらしい。


「ギムル三人衆の方いらっしゃいますか?」


「ん?」


 テントの中でそれぞれ音楽を聴いたり、演奏して遊んだりしながら雑談している所にアルフヘイム兵がひょっこりと顔を覗かせる。


「ノックくらいして欲しかったなぁ」


「一応呼びかけはしたのですが……」


「悪い、俺らも騒いでたからな、何の用だ?」


「シーグル隊長から次の作戦の説明があるそうです、なんでもお三方が要だとか」


「私たちがですか? となるとかなり大きな作戦という事でしょうか」


「大きく戦況を左右する作戦だとは聞いています、司令部テントにいらっしゃるそうなのでお時間が出来ましたら隊長の方へ出向いていただけると幸いです」


「了解、ありがとね!」


「ところで……先ほど演奏されていた曲は?」


「あぁ、個人的に好きなバンドがあってね、それの伴奏だよ」


「良ければ今度お聞かせ願えませんか?」


「いいけど……こう、色々と攻撃的だけど大丈夫?」


「そういうのも刺激的でいいと僕は思いますからね、それではまた」


 サラと俺はメロスピくらいだが同じバンドを知っている、その為に遊びでセッションごっこのような事をするのはそれほど珍しい事でもないのだ。

 エルフは落ち着いた音楽の方が好きだろうと思っていたが、どうやらメタルのようなギラギラした音も嫌われているというわけでもないようだ。


「デスボイス練習してみるのも良さそうだな」


「グロウルの事なら多分俺出せるぞ?」


「マジ?」


「おう、まぁ今はシーグルの所に行くのが先だけどな」


 サラは見た目もだが、声も勿論美少女だ、そんな彼女からデスボイスが響くというのは何だか複雑な気分になる気がする。


「デスボイスって魔法みたいですね」


「攻撃魔法っぽさはあるよな、まぁ汚い声ではあると俺は思うなあ」


「まぁ確かに汚いっちゃ汚いとは思うが……俺は好きだぜ、グロウル」


 そんな戦争とは関係のない事を話しながらも俺達はシーグルの待つテントへと向かう、何となく周りを見渡して実感するのは見知った顔がやはり減っている事だろう。

 NPCで尚且つ話した事も無いが、やはりいなくなったのだという実感はあまりいいものではない、それと同時に感じるのは新兵の存在だ、大抵誰かを見なくなったと思えば見た事のない顔が軍に加わっているのだ。


「さっさと終わらせたいとこだよな、戦争」


「痛ましい事には変わりませんからね、私たちは死なないとは言っても……失わないわけではありませんから」


 俺達はそんな思いを抱えつつ、今回の作戦を聞きに司令部テントへと入る。

 シーグルは地図を眺めながら腕を組み、色々と思考を走らせているのか俺たちが入って来た事に気付くのに少しだけ遅れはしたものの、軽く挨拶をした後に作戦の概要を話し始めた。


「よく来てくれた、今回の作戦だが……お前らの入手した資料から敵の攻撃拠点の位置が分かった、そこでそれの攻略を命じられた」


「本丸の攻略ってところか?」


「あぁ、ミズガルズ軍は今回かなりの戦力を前線へ押し出してきている、個々で言えば正直苦労はしないんだが……」


「バート達、プレイヤー3人衆が脅威なんだな?」


「その通りだ、彼らが戦場に現れた時には我が軍は全て撤退を余儀なくされている、いくら数を倒した所で彼らがいる限りは膠着状態と言ってもいいだろう」


 バート達、特にバートは血の気が多めでピンチになればなる程燃えるようなタイプだろう、ミズガルズ軍は彼を中心とした攻撃作戦を立てているらしく、今回それを阻止するというのが目的なのだそうだ。


「彼らに対抗できるのは君たち3人しかいないと上は判断したようでな、あえて言うが……この作戦に失敗すれば形勢は一気に変わる事だろう」


「責任重大ですね……しかし、いずれは借りを返したいと思っていましたし、私はやりますよ」


「一つだけ思うんだけどさ、あの3人とやり合う時味方はどうするの? 私たちが本気で殴り合ったら敵も味方も関係なく巻き込んじゃうと思うしさ」


「その際は味方は一度撤退させるさ、恐らく敵もそうするだろう、事実上の決闘と言ったところだな」


「ふうん、なら味方を守る為に神器解放する必要は無さそうだね」


「バート達を倒せれば実質アルフヘイムの勝ち、俺たちが負ければアルフヘイムは負けるか」


「そうなると思ってもらっていいだろう、君たち3人による士気の上昇効果は結構あるもんだしな」


 作戦決行は2週間後、細かい作戦などは決定次第文書としてこちらへと送られるらしい。

 最後の作戦になる可能性が高く、俺達はより一層対人戦闘における訓練を積む事にした。

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