76話 仕返し

 通気口を進んでいくと稀にだが下から話声か聞こえる事があった。


「ここなら大丈夫そうですね」


「ありがとな、アマテラス」


 カバーを外して空き部屋へと侵入する、まずは私の装備の奪還だ、今の私は丸腰ではある為に近接攻撃に関しては素のステータスで殴るしかないのだが、魔法であれば話は変わってくる。


「さて、尋問の分の礼はしっかりしてやらないとな」


「サラ、あの兵士は一人で休憩中のようです」


「サイコーの獲物だな、装備を拝借するとしようか」


 気配を殺しつつアマテラスの見つけた兵へと接近する、いくら武器が無いとは言っても流石に英雄適正や単純なレベルによる成長で俺の筋力ステータスはその辺の筋肉バカよりも高い、隠密攻撃によるボーナスも加味するとなると一人相手であれば素手で殴り倒すのは不可能では無いだろう。


「よっと!!」


「ッ!?」


 思い切り両手をハンマーのようにして休憩中の兵士の頭を殴りつける、流石に一撃で沈める事は出来なかったようで頭を押さえつつも兵士は膝をついていた。


「眠ってもらえると嬉しいなって!」


 膝をついて低くなった頭に思い切り蹴りを加えてやると、流石に耐え切れなかったのか男はドサリと地面へと倒れて動かなくなった。


「よし、さて……装備を拝借できるかどうかだが……」


 どうにも脱がせようとしても何故か相手から装備を剥ぐことが出来ない、しかし新たなスキルとして【変装】が取得されたようで、一定の条件下では無力化した敵の姿を真似ることが出来るというスキルだ。

 スキルを発動させると私の格好が今ここで伸びている兵士と同じ格好へと変化し、見た目だけであればミズガルズ兵と見分けをつけられないものとなった。


「アマテラス、身長はどうだ?」


「問題無さそうだと思いますよ、この兵士はどうするんですか?」


「ま、適当に隠すさ」


 伸びている兵士を引きずって物陰へと押しやる。武器も一応装備はしているが、これに攻撃力補正はついていないようでただのハリボテ同然だ。


「さて、これで堂々と動けるってもんだ」


 兜がフルフェイスのものなので視界は狭いがそれが幸いし顔を見られると言う事も無さそうだ。

 要塞内を歩いてみると、NPCと多くすれ違ったが怪しまれるという事も無く、大して強さを感じられないプレイヤーに声をかけられもしたが軽く適当に挨拶すると気にする事も無くどこかへと歩き去って行った。

 武器が管理されているという倉庫に向かうと見張りの兵士が暇そうに空を眺めているのが目に入った。


「暇そうにしてんな、そんなんじゃ中身を盗まれちまうぜ?」


「はっ、流石に部外者を見逃すほど気を抜いちゃいないさ、何しに来たんだ?」


「ちょっと捕虜共のブツを見てみたくなってな、捕まってるとは言っても強い事に変わりはないわけだしな……いい武器持ってそうだろ?」


「はっ、お前もそういう類のヤツか、夢中になって仕事を放りだすんじゃないぞ?」


「休憩中だから問題ないさ」


 簡単に中に入る事が出来た、先ほどの話からして定期的にアイテムを奪おうと考える輩というのはやはり存在するようだ。


「っしゃ、これで暴れる準備は出来たな」


 脱獄してすぐ戻ったという事もあり、普通のドロップアイテム扱いではあったものの俺の装備を無事に取り返すことが出来た。


「これからどうするんですか?」


「他の捕虜を逃がすついでに暴れるさ、兵の数は多いが質は大した事は無いからな」


 装備を付けなおし、レーヴァテインをナイフに変形させ、もう片方の手には店で買った拳銃を装備する。


「二丁拳銃では無いんですね」


「こっちの方が近距離での戦闘もしやすいからな、ドレインブレードだっていけるしな」


 拳銃に消音効果を付与し、ドレインブレードをナイフへと付与する。


「お仕事お疲れ様っ!」


「なっ……!?」


 後ろから見張りの兵士へとナイフを思い切り突き刺す、不意打ちによる補正もかかり、驚いた表情のまま兵士が光となって消えていく。


「まず1人っと」


「容赦なしですね」


「当たり前でしょ、これは戦争で相手は敵国兵士、なら情けをかける必要は無いでしょ?」


 エリスは人殺しを嫌うが俺はそこに関しては特に何も思わない、エリスが殺したくないと言うならば殺しはしないが、それもあくまで余裕のある時だけだ。

 もしもエリスがそれで俺を嫌うならばそれでも構わない、エリスについていくとは決めたがエリスに好かれるというのは別に目指しているものでもないのだ。


「さて、他の捕虜にも協力してもらうといこうかな」


 私は巡回の兵士を屠りつつ捕虜たちを次々と解放していく、流石に兵士を倒し過ぎたのかしばらくすると騒々しくはなってきたものの既に殆どの捕虜は牢から出してやった後だ。


 ただ一つ気になるのはいくつかの牢が空っぽだったという事だ、最初から使われていなかったのかとおも思ったのだが、脱獄に使用するようなアイテムが隠すように落ちていた為に恐らくは別の脱獄者といったところだろう。


「ま、脱獄を考える人もいるか」


 俺は特に気にも留めず、接触した兵士と戦闘を繰り広げる。

 その時外からまた別の襲撃音が要塞に鳴り響いた。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る