66話 捕虜救出へ

「サラとカオリが捕虜に取られただと……?」


「あぁ、タイミングが悪くてな……守れなかった」


「敵は撤退させる事は出来たが痛い報告だな」


 戦略的にはこちら側の勝利だろうが、詳細を聞いてみると戦術的にはこちら側の敗北と言ったところだろう。

 敵も味方も甚大な被害を受けており、両軍合わせてのNPCの死者数は5千人を超えるという。

 プレイヤーの捕虜もかなり出たようで、今こちらの軍が把握しているプレイヤーの捕虜の数は30人ほどだ、逆にこちら側に所属していたプレイヤーは20人ほど捕虜にされたようで、実質的な数で言えばこちらの方が被害は少ないが、割合で言えばこちらの方が痛手を負っている。


「お、エリスじゃないか……美少女2人はどうした?」


「パウリか、それがな……」


「マジかよ、だったら助けに行かないとな!」


「協力してくれるのか?」


「勿論! 同じプレイヤーだしな、それに助け出したら俺に惚れてくれるかもしれないだろ?」


「それは難しいんじゃないか?」


 シーグルと話をしているとパウリが姿を見せた、どうやら彼は分の悪い戦いからはすぐに身を引いたらしくプレイヤーはまだ1人も倒してはいないようだが、その分NPCの撃破数は多くかなり活躍したとの事だ。


「救出の為にも捕虜の居場所を探さねばならんな」


「それだったら俺が知ってる、捕虜救出となると大所帯では行かない方がいいんじゃないか?」


「俺も一緒に行くぜ、俺達ならやれるだろ」


「2人だけでか? 他にも選りすぐりの兵をこちらからつけてやってもいいが」


「いや、俺達だけでいい、パウリにパーティーに入ってもらえれば範囲魔法もぶっ放せるしな」


「捕虜を巻き込むんじゃないぞ?」


「流石にそんなヘマはしないさ、これでも魔術師のスキルはあるんだ」


 それにそもそも今回は隠密する予定だ、脱出時に少々荒っぽくなる可能性は正直なところあるにはあるが可能な限りはバレずにスマートにだ。


「パウリ、パーティーを組んでくれるか?」


「救出の間だけ、な」


 俺とパウリはパーティーを組む、すると彼の肩の辺りに小さな光の魚が空中を泳いでいた。


「パウリ、お前の相棒は魚なのか?」


「そっちは光の玉か、紹介する、俺の相棒のエンキだ」


「こっちのはミネルヴァ、ギリシャ神話のアテナだ」


「大物じゃないか! こっちはシュメール神話だったかな、聞いたことあるか?」


「どうだろうな……記憶には無いな、神話系は結構疎くてな」


「ま、日本はかなり辺境だろうしな」


 確かに色んな意味で大変な国ではあるがそこまで辺境ではない……と思いたいが実際どうなのか正直知らない為に何も言えない。


「エンキだ、よろしく頼む」


「男神なんだな、よろしくな、エンキ」


「こっちこそよろしく! ミネルヴァでもアテナでも好きな方で呼んでいいからね!」


「結構元気なんだな、もっとこう、荘厳な感じだと思ってたぜ」


 少なくとも俺がこの世界に転生する前に見たアテナは印象とはかなり違う者だった、見た目と今の印象で言えばおてんば娘というのがしっくりくるというものだ。


「荘厳な感じの方がいいならそういうキャラでいくけど?」


「今のままでいいさ、色々と楽だしな」


「エリスがそういうならそれでいいや」


 彼の相棒であるエンキは淡水の神なのだそうだ、知識や魔法も司っているようである意味ミネルヴァと近いのかもしれない。

 パウリのレベルは28と俺達に比べれば結構な差がある、しかしそれでもプレイヤーのスキルを持っているという事もあってNPC相手であればそこまで苦労はしないようだ、流石にシーグルクラスにもなると話は変わるみたいだが。


「パウリ、エリス、君たち2人に捕虜の救出作戦を一任しよう」


「了解」


「任せとけって」


 意外にもアッサリと俺たちに任される事となった、パウリは魔導ボードを持っていないようで移動には馬を使うか自分の足という事になった。


「馬だと目立つよな」


「走っても問題ないんじゃないか? 普段使わない馬なんて乗ってもどっかに忘れてきそうだ」


「だな、まずは偵察しに行ってみるか」


 場所は分かっている為にあとは向かうだけだ、俺達は各ステータスを回復させるとすぐに捕虜収容所へと向かって森の中を進み始めた。

 街道を通ったところで敵軍の見張りがいるだろう、ゆっくりではあるが森の中をクリアリングしつつ進むのが何だかんだで一番と判断したのだ。


「車でもあれば楽なんだけどな」


「車か、懐かしいな」


「パウリもそれなりに走ってたのか?」


「一応アマだったがラリーには参加してたぜ、プロにはなれなかったけどな」


「へぇ」


 敵の見張り兵の目を掻い潜りつつ捕虜収容所へと向かう、敵の見張りは厳重ではあったがそれでも穴がなかったというわけではなく、どうにか収容所の見渡せる丘の上へと辿り着く事が出来た。


「侵入する事は簡単そうだな、問題は脱出か」


「ミネルヴァ、救出の場合もあそこの敷地外まで出ないと強さは元に戻らないのか?」


「確かそうだったと思うよ、だから戦闘を全くせずに……っていうのは難しいと思う」


「なるほど、ありがとう」


 隠密しつつ敵をノックアウトし、退路を確保しつつ救出するのが一番だろう。

 丘の上から1日かけて敵の動きを観察してみるとどうやら一定の持ち場をウロウロしているだけのようで、そこまで厄介な守りと言うわけではないようだ。


「やっぱNPCだな……多分一瞬なら真正面通っても大丈夫なんじゃないか?」


「NPCってゲームみたいな事言うな、ただ確かにアイツらの動きはそれらしいって感じはするな」


 地図を描いて、そこに見張りの兵士の動きを書き加える。

 そこからノックアウトするべき場所を割り出して確認と言う作業を繰り返す。


「これで良さそうだな」


「あぁ、いつでもいけるぜ」


 準備完了だ、俺達は腰を上げて捕虜収容所へと向かう事にした。

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