第19話 勝ち抜き試験

「お待たせしました! 124番の方どうぞ!」


 ついに俺の番がやって来た、闘技場へと入ると全身なにやら軽くなったような感覚に見舞われる。


 ステータスを確認すると行動力強化のステータス上昇が付与されていた。


「なんかバフがついてんだけどいいのか? これ」


「おや、気付かれましたか……問題ありませんよ、ここの闘技場全てのものに効果が付与されるので有利になったり不利になったりする事はありません、1人辺りの時間を早める工夫ですよ」


「なるほどな」


「普通は気付かないものなんですがね、もしかして高レベルの方でしょうか?」


「まだ12レベルだ」


「12? 確かに冒険者としては高レベルではないですがそれでも受験するには十分高レベルですよ! 頑張ってくださいね!」


「はは、ありがとう」


 もしかしたら高レベルなのではと思ったがそうではないらしい、まぁ城のクライトンですら25レベルだったのだ、30ほどまで上がれば高レベルなのかもしれないな。


「それでは試験を開始します、準備はよろしいでしょうか?」


「あぁ、ミネルヴァ、頼む」


「りょーかい!」


 服がレザーアーマーへと変化する、アイテム欄からロングソードと盾を装備し臨戦態勢へと入る。


「先に言っておきますがアイテムの使用は出来ません、HPやMPは敵を倒す度に一定量が回復しますが油断は禁物ですよ! では始めます!」


 最初に現れたのはスライムだ、軽く剣を振ると一瞬で光となって消えていった。


「さて、どこまでやれっかな……」


「やっちゃえエリス!」


「おうよ、プロテクション! インテンシファイ!」


 どうせ一定量回復するのであれば先にバフをかけておこう、スライム分が無駄になってはしまったがまだ序盤だ。


 出てくる魔物はオオコウモリ、狼、コボルト、ゴブリンと徐々に強くなっていったが正直なところまだまだ余裕だ。

 そして見た事のある魔物が姿を見せた、ゴブリンロードだ。


「お、骨のありそうなヤツがやっときたか」


 前に対峙した時は俺のレベルは4だったはずだ、それに比べると今は12レベルとかなり成長はしている。

 ゴブリンロードは正直なところ敵では無かった、というか10回も斬らずに相手が地面へと倒れたのだ。


「大したことないなあ」


「エリスも成長してるって事だよ! まだまだ来るよ!」


 今の所HPとMPは満タンだ、現れる敵を次々と倒し続けていくが徐々に倒すペースが落ちてきた、精神力の消耗もあるのだろうが単純に敵も俺の地力といい勝負をするようになってきたという事だ。

 しかしそれは同時にチャンスでもあった、相手がそれなりに耐えるという事はドレインブレードが活きるという事でもある。


「ドレインブレード! プロテクション!」


 プロテクションはまだ余裕があったがかけなおしておく、剣技の使用を始めた為に再び狩るペースが上昇する。


「おぉ……これは大物新人ですよ!」


 そして更に倒し続けた時、一風変わった魔物が目の前に現れる。


 見た印象を一言で言えばワイバーンだ、翼は腕が進化したのかコウモリのような形をしており、2本脚で路線バスほどの巨体を支えている。

 特徴的なのは額にある宝石だ、詳しくは無いが透明な辺りダイアモンドか何かだろうか。


「ライトニングウェポン!」


 弱点は電気属性のようで、レベルは大層な見た目にしては12と俺と同じレベルだ。

 

 こちらの様子を伺うかのようにワイバーンは動かない、突っ込んで行きたいところだがこういうタイプに突っ込むのは気が引ける。

 俺がしたことのあるゲームの中に最初に隙だらけだがそこに攻撃を加えようと近付くと強力な攻撃を受けてしまうというものがあった、それ以来ゲームでこういう敵にいきなり突っ込むというのはしないようにしている。


 ギャアアァァァッ!!


 ワイバーンが咆哮したかと思うと額の宝石が輝き光線が横薙ぎに放たれた。


「っぶねぇ!」


 丁度俺の胸辺りの高さを薙ぎ払う光線をしゃがんで回避する、もしも突っ込んでいればこの光線に焼かれたかもしれない。


「チャージスラッシュ!」


 クラウチングスタートのような低い姿勢から剣技を発動させて一気に接近する、宝石は額についている為に回避してしまえば少しの隙がうまれる、その間に攻撃を加えるのだ。


「クソッ……!」


 しかしその攻撃の途中に尻尾を振るわれ弾き飛ばされる、盾でガードした為にダメージは大きくは無い。

 そしてここでタイミング悪くドレインブレードの効果が切れた。


「ドレインブレード!」


 俺は叫ぶが魔法が発動する気配はない、MPが僅かにだが足りないのだ。


「クソッタレ……!」


 ここまでの雑魚に剣技を使いすぎたのだ、もう少し節約していれば発動させる事は可能だっただろう。

 魔法はロングソードのおかげで威力は上昇するもののそれでもこういった大型の魔物に対して使用するのは気が引ける。

 剣技で攻撃した方が攻撃力が高いのだ。


「エリス、大丈夫?」


「今のところはな……インテンシファイ!」


 残りのMPはあまり多くは無いが回復魔法を1回使うとしても何回かは剣技を使う余裕がありそうだ。


「くらえっ!!」


 ひたすらワイバーンの足を斬りつける、ライトニングウェポンとインテンシファイによってただ斬るだけでも攻撃力はかなり上がっているはずだ。

 尻尾や翼による殴打を可能な限り回避しつつワイバーンに張り付く、流石に足の痛みが強くなったのかワイバーンが転倒する。


「グラウンドスマッシャー!!」


 地面を蹴り、起き上がろうとするワイバーンへと思い切り剣を叩きつける。

 ワイバーンが悲鳴のような鳴き声をあげる、その時宝石が光ったのを俺は見落としてしまった。


「エリス! 避けて!!」


「ッ!?」


 ミネルヴァの声が聞こえると同時に、光線が追撃を加えていた俺の胸を貫く。

 少し遅れて胸に焼けるような痛みが俺の体を襲う。


「ヒー……ルッ!」


 後ろへと距離をとりつつHPを回復させる、2回ヒールを使った所でどうにか痛みが殆どない状態にまで回復出来た。

 一瞬HP0のギリギリまで削られたのは確かだ。


「慣れねえなほんと……」


「あのレーザー、かなりの威力みたいだね……」


 俺の胸の防具は品質のいいプレートアーマーだ、更にそこにプロテクションによる防御力増加と素のステータスによるもので正直防御力にはそこそこの自信があった。

 しかしそれでも一撃で瀕死まで持っていかれるとなればあのレーザーはもう当たれない。


「MPももう簡単な剣技分しか残ってねえや、踏ん張りどころだな」


 こうなればどうしようもない、やれるところまでやるのみだ。


 ここからはまさに泥試合というのがしっくりくる戦闘であった、バフは全て切れ、盾も耐久値はまだ残ってはいるものの半分近くまで削れていた。

 当然それだけの攻撃を盾で受けた俺のHPも削れており、感覚でいえば四分の一程度しか残っていなかった。


 その泥試合もついに終わりを迎える、俺は振り回される尻尾をモロに受けてしまい吹っ飛ぶ。

 どうにか受け身をとるがワイバーンの額に光が集まっているのが見えたのだ。


「やるしかねえな……!」


 チャージスラッシュだがどうやら繰り出す構えによって威力の乗り方に差が出るようで、大きく振りかぶった状態で放てば恐らくは一番威力が出るように思えた。

 俺は放たれたレーザーに向かって絶対回避を発動させる、そして大きく振りかぶって腰を落とす。


「チャージスラッシュ!!」


 ワイバーンへと一気に距離を詰めて剣を叩きつける。


 その一撃でワイバーンは力尽きたようで光となって消えつつ地面へと倒れた。

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