第28話 拠点構築 3


「いやはや……聞くと見るとは違うと言うが……たった一日でこのような……」


 夕方、様子を見に来たグランパが唖然とした表情で俺が作った拠点を見ている。


「勝手に宿舎とか作って悪かったな、一言相談すればよかった」

「いや、移動や雨の日の見張りは色々と支障があったし、あのような見張り塔まで作ってもらって文句などないわい。防衛力の提供という形で受け入れられる」


 防衛隊隊長であるグランパに特に相談せずに壁や防衛拠点、部隊の宿舎を勝手に作ったことを謝罪するが、グランパは約状の防衛力の提供の範囲だと返す。

 俺はそんな話をグランパとしながらしながら拠点の中へと案内する。


「隊員たちはもう入れても大丈夫かの? ジョージの馬鹿垂れが隊員たちに言いふらしおっての、いつから引っ越しできるかとうるさくてかなわん」

「今からでも大丈夫だ。それでだ、グランパ、ジェーン一つ相談がある」

「ほう、なにかのう、婿殿」

「なんだい、旦那様」


 グランパを談話室に案内し、ジェーンを呼んで俺は考えていた案を二人に相談しようと口を開く。

 婿殿や旦那様と呼ばれると少しむずかゆいが、話を進める。


「防衛部隊と食料調達部隊を強化させたい」

「この壁とターレットがあるのにかい?」


 グランパとジェーン、二人が指揮する部隊の強化を図りたいというと、ジェーンは俺が作った壁とターレットがあれば安全ではと言ってくる。


「結婚を受け入れる時に言っただろう? 俺達は故郷に戻る為に行動していると。手がかりを求めて何週間何か月も遠出するかもしれない。その間にターレットや壁が壊されたり、故障したらどうする気だ?」


 スキルパークの効果で拠点建築物の耐久力は高いが壊れる物は壊れる。

 実際水力発電所ダムでデッドウォーカーの大群と戦った時は地上部分に設置したマシンガンターレットの7割は破壊された。

 

「ふむ……確かに婿殿の言うとおりであるな。どう強化させるつもりじゃ?」

「新兵訓練カリキュラムなら知っている。それに沿って両部隊を鍛え上げて、俺が持ってる武器を貸す、あと食料を輸送する車両もだ」


 グランパは隊員をどうやって鍛えるか聞いてくる。この世界に来る前に働いていた会社ではよく出向先で現地の新人を鍛えていたので問題はない。


「……やれやれ、また借りが増えるのう。鍛えてやってくれ」

「妻の故郷だ。協力は惜しまない」

「旦那様……あたしの部隊もよろしく頼むよ」


 グランパがため息をつきながら部隊を鍛えることを了承する。

 ジェーンは俺が妻の為だというと嬉しそうに頬を染めて見つめてくる。

 部隊訓練は隊員がここに引っ越ししてきてからということで訓練の話はいったん終わらせる。


「飯にするか。グランパ、食っていくか?」

「ほほ、ありがたいが新婚生活をお邪魔するのは気が引けるでの。というかさっきからセイの目が怖い、マジで」


 グランパに夕食を食べていくか聞くと、グランパは新婚生活を邪魔したくないと言って断り、指をさす。

 指している方向を見ると、セイが扉の隙間からこちらを無表情でジーっと見つめていた。


「ん、話終わったならかまえ!」

「食事の準備が先だ。ジェーン、悪いが桐山と工藤の二人を呼んできてくれないか?」


 俺がセイの姿に気づくとセイは俺に抱き着いて甘えてくる。

 俺は苦笑しながら抱き着いてくるセイの頭を撫でながら夕食の準備を始め、ジェーンに三階で寛いでいる桐山と工藤を呼んできてもらう。


 建築系MODで追加されたキッチン型のクラフトステーションの前に立つと無限バックパックから汚染されておらず、日本にいた頃と同じ見た目と名称の安全な素材を取り出し調理始める。


 日本にいた頃から自炊していたので特に苦も無く料理を作れるのだが……


「あーん」

「何しているんだ、セイ」

「ん、味見係」


 調理を覗いていたセイが大きく口を開けて俺の横に立っている。

 その姿は餌を求める雛鳥のように見えた。


「はぁ……少しだけだぞ、ほれ」

「ん、美味!」


 調理を終えたのを一口サイズに切り分け、セイの口に入れる。

 セイは両手でほっぺたを支えて美味と繰り返し呟いていた。


「うわ~、おいしそうな匂いだし」

「深山さん、料理できるんですか?」


 ジェーンに呼ばれて一階の食堂に降りてきた桐山と工藤がキッチンを覗き込んで声をかけてくる。


「一人暮らしだったからな。コンビニや外食より自炊した方が安く済む。テーブルに並べてくれ」

「うわぁ……深山さん、私より女子力ありそう……」


 出来上がった料理をテーブルに並べるように伝え食堂に向かう。

 テーブルに並べられた料理を見て桐山が自分より女子力が高いと呟いてショックを受けていた。


「うわ~、うまいし! 深山ッち、料理屋開けるよ、これ」

「まあ料理は元々嫌いじゃないし、誰かに食べさせるものなんだから不味く作るわけないだろ」

「女子力……53万だと……」

「美味! 美味!」

「………」


 工藤は俺が料理屋開けるほどだと腕前を褒め、桐山は何か女子力を数値で例えてショックを受けている。

 セイはハムスターのように口いっぱいに料理を詰め込み美味を連呼し、ジェーンは終始無言で食べていた。


「桐山、食事終えた後でいい、話がある、時間を貰えるか」

「……ここじゃ話せないことですか?」

「ああ、三階の談話室で話し合いたい」

「わかりました」


 今回のジェーンとセイと結婚したことに対して不満を抱いている桐山と話あう必要があると思い、桐山に話があると切り出す。桐山は緊張した面持ちで頷いた。


「皿とか片付けはあたいがやるし、食べ終わったらじっくり話し合って」

「ん、わるいな」

「いいし、深山ッちにはお世話になってるし」

「あたしも手伝うよ」

「ん!」


 空気を読んだのか、工藤が食後の片づけは自分がすると名乗り出る。

 ジェーンとセイも手伝いを申し出て、工藤、ジェーン、セイの三人で後片付けをすることになった。



「話って、なんですか?」


 工藤達に片づけを任して、俺と桐山は三階の談話室に向かう。

 談話室の椅子に座ると桐山が要件を聞いてくる。


「今回の結婚について不満があるみたいだったからな、ちゃんと話し合おうと思った」

「不満はあります。重婚なんて不誠実です!」


 桐山は今回の土地譲渡の条件でセイとジェーンと結婚することになったことに対して不満を抱いていた。

 話を切り出せば、桐山の第一声は重婚は不誠実だだった。

 日本にいた頃はよほど両親に大切に育てられ、貞操概念が強いのだろう。


「なぜ不誠実なんだ?」

「だって……日本じゃ認められてませんし、こんな政略結婚なんてかわいそうです!!」


 まずは桐山がどこに不満を持っているか聞き出す。桐山は日本の常識と法律に囚われており、重婚が認められていない事とセイとジェーンが政略の道具に使われることが気に入らないようだ。



「なるほどな、桐山の言い分は分かった」

「じゃあ———」

「話は最後まで聞け。まず、ノース・サンズがなぜ俺が防衛力を提供する代わりに、セイとジェーンを妻に出したかわかるか?」


 俺は桐山の言い分を聞き、ノース・サンズがなぜ防衛力の提供の証としてセイとジェーンを提供したか桐山に質問する。


「……約束を守る確証が欲しかったからですか? それだったら契約書でもよかったんじゃないですか?」

「で、その契約書の効力はいったい何処の誰が保証するんだ? 破った場合、罰則を執行するのは誰だ?」

「え? えっと……」

 

 桐山もノース・サンズ側の考えは分かっていたようだが、契約書を交わせばいいなんて平和な日本に住んでいた桐山らしい発想だ。

 俺が契約書の効力や罰則は誰が保証するのかと聞くと桐山は答えに詰まる。


「お互い対等な立場ならそう言った誓約書も拘束力を持つかもしれない。破れば大義名分をもって攻めることができるからな。だが、相手側が強すぎた場合は? それこそ気分次第で一瞬で集落を殲滅できるぐらいの力を持つ存在と約束して破られないなんて保証は?」

「それは……深山さんはそんなことする人じゃないって私は信じてますし」


 お互いの力が拮抗しているならともかく、片方の力が偏って強ければどうするかと質問すると、俺はそんなことをしないと桐山は答える。


「桐山は俺と一緒に行動しているからそれなりに俺について知っている。だが、ノース・サンズの住民の大半は俺達がどんな人物か知らない。わかっているのは最新鋭の銃と戦闘車両とオートプロテクターを持った傭兵、その程度だ。そんな傭兵が自分たちの上に住み着こうとしている。さて、住人達はどう思うかな?」

「そこは話し合って分かりあえば……」


 桐山の平和ボケした考え方を聞いて俺は思わず苦笑を浮かべる。

 まるで日本を出る前の自分を見ているような気になる。


「理想論だな。時間があればそれもとれた手段かもしれないが、俺達は発電所を再稼働させた、ノース・サンズはすでに利益を受け取った。俺達がどんな人物かわからない状況で、住民が納得するまで報酬は待ってくださいなんて言えるか?」

「……そこは皆で向き合って、腹を割って真摯に相談すれば……」

「桐山、もう一度言うぞ。ここは日本じゃない、犯罪を取り締まる警察も国民を守る軍隊もいない。気に入らなければ殺す、欲しければ奪う、強ければそれがまかり通る弱肉強食の世界なんだ。文明も法も崩壊したポストアポカリプス、それがエンドレスホライズの世界なんだ」


 桐山は泣きそうになりながらそれでも話し合い、お互いわかりあうように行動しようと訴える。

 その考え方はこの世界では危うい。自分だけでなく誰かまで傷つけてしまう可能性がある。


「そんな時代で人を信用する方法は限られる。その手段の一つが婚姻などと言った身内になるだ」

「でも、無理に受けなくても……それこそ彼女達を娶らなくても防衛力だけ提供するとか……」


 こんな末法な世界で他人を信用する方法の一つは身内になる事、婚姻や儀式といった仲間になる為の行為を受けて、同じグループと認められることで初めて信じてもらえる。

 桐山はそこら辺の考えがないのか、最悪ボランティアのような奉仕活動をすればという。


「それは悪手だ。見返りを求めない無報酬の労働こそ、この世界じゃ疑心暗鬼を呼び起こす。ゲームならそう言った善人プレイもありかもしれないが、この世界じゃ何か企んでいるって疑いの目を向けられるだけさ。俺が彼女たちを受け入れることでノース・サンズも安心を手に入れたのさ」

「私の考え方……間違っているんでしょうか?」


 俺がそれを否定することで桐山は自分の中のアイデンティティが揺らいでいるようだった。


「桐山、お前は間違っていない。日本ならそれは立派な考えだ。ただこのエンドレスホライズの世界の規格に合ってないだけだ」

「深山さんは……なんでこの世界の常識とか理解できるんです?」

「前にも言っただろ? 仕事の関係でミャンマーや中東と言った政治情勢が危うい場所にばかり出張していたからな。日本人の平和ボケした考えじゃ生きていられなかったのさ」

「……やっぱり深山さんはサラリーマンじゃないと思います」

「おいおい……俺は立派なサラリーマンだぞ」

「……納得は出来ませんが、とにかくこの世界の考え方は理解はしました。深山さんとしっかり話せてよかったです」


 涙を拭いた後の桐山の顔はすっきりしていた。

 之ならしばらくは安心だろう。


「話は以上だ。長々とすまなかったな、休んでくれ」


 そういって俺は自室へと戻った。

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