第26話 拠点構築 1


「発電所を再稼働してもらい、ノース・サンズの住民を代表してお礼を申し上げます」


 発電所を再稼働して二日後、俺と桐山と工藤は首長の家になっている駅長室に呼ばれ、首長であるマリアの第一声がお礼の言葉だった。

 駅長室は発電所が再稼働したことで電灯の明かりが部屋を照らし、空調設備が駅長室を快適な温度に調整している。


 部屋の中には首長のマリアだけでなく、ジェーンにセイにグランパ、名前は知らないが時折見かけるノース・サンズの住人達がいた。


「俺達は自分にできる仕事をしただけだ。で、報酬はどうなっている?」

「……そのことについてですが、土地の譲渡には条件があります」


 報酬である土地の譲渡について聞くとマリアは緊張した面持ちで条件があると返してくる。


「へえ……働かすだけ働かして、あとになってから条件を付けくわえるねえ……」


 別段土地が貰えないなら貰えないで、ノース・ダイナーか工場跡地、どこか開けた場所に拠点を作ればいい。

 ノース・サンズを選んだ理由はここがロケーションであり、メインクエストで必ず一度は立ち寄る場所の為、俺たち以外に異世界トリップしたプレイヤーが訪れる可能性が高いからだ。


「貴方の不満は理解できます。我々としてもこれまでの尽力、発電所の再稼働には感謝しており、土地の譲渡には前向きな考えです。ですが……満足な武器も防衛力もないノースサンズの上に貴方達傭兵が集う拠点ができることに恐怖を覚えている住人達がいるのも事実です」


 マリアは土地を譲渡する気はある。だが無条件で土地を譲渡することに不満や恐怖を覚えている住人がいると訴えてくる。


「うーん……マンションに住んでいて隣にギャングやマフィアみたいな人が住みつく感じ?」

「そんなイメージですかねえ」


 俺の後ろでひそひそと工藤と桐山が話している。


「で、条件は?」

「以前深山さんがおっしゃっていた防衛力の提供を確約してほしいのです」


 マリアは俺が発電所を調べに行くときに土地を要求して、メガシティ【サンアンジェルス】からの防波堤になると言った時の発言を持ち出してくる。



「確約ね……念書でも書けばいいのか?」

「それよりもっと確実なものを……ジェーン、セイを妻に娶ってもらえないでしょうか? 婚姻を持って我々と血縁を結んでもらう。これ以上とない確約でしょう?」

「ちょっちょっとまってくださーい!!」


 念書でも書けばいいかとマリアに聞けば、マリアは後ろに控えていたジェーンとセイを呼び、嫁にもらってくれと言ってくる。

 マリア達の案を聞いて桐山が慌てて大声を出して会談を中断させようとする。


「桐山、大丈夫、序列は乱さない。桐山が第一婦人」

「セイの言う通りだ。あたしらは第二でも第三でも問題ないわ」

「そっ、そうじゃなくてー! 二人同時なんて重婚ですし! それにっ! そんな政略で結婚なんてよくないですっ!!」


 慌てる桐山を見てセイとジェーンは分かってるってと言いたげな顔で桐山が第一婦人でいいと返してくる。

 どうやらジェーン達からは俺と桐山は夫婦と思われていたらしい。だから支給された部屋も同室だったのかと納得いった。


 ジェーン達の見当違いの回答を聞いて桐山は顔を真っ赤にしてわたわたと両手を振って俺との関係を否定し、重婚は駄目だと元いた世界の法律を持ち出し、政略結婚はよくないと主張する。


「? 強い男がいっぱい女を侍らす、当たり前。養える甲斐性があるなら誰も文句言わない」

「政略婚だけどさ、あたしもセイも納得はしてるわ。深山の子供だったらあたしは生んでもいいと思ってる」


 セイは何を言ってるんだこの人は?という顔で桐山を見て、強い男が女を多数侍らすハーレム思考がこの世界では常識と説明する。

 ジェーンは俺の子供を産むことも受け入れてると少し頬を染めて腹部を撫でながら話す。


「おー、深山ッちモテモテ、ヒューヒュー!」

「お前はオジンかっ!」


 一連の流れを見ていた工藤がオヤジ臭い言葉で囃し立て、思わず突っ込んでしまう。


「まったく……結婚に関してだが、いくつか問題がある」

「問題ですか? 二人の容姿が気に入りませんか? 私から見ても二人は美しい方だと思いますが……」


 マリアから提示された条件を受け入れるにはいくつか問題があると伝えると、マリアは二人の容姿が気に入らないのかと勘違いしする。そしてなぜか、グランパがこちらを睨んできた。


「そうじゃない。グランパには伝えたと思うが、俺達は散り散りになったプレイヤーという仲間を集めて故郷に戻るのが目的だ。いつまでもここにいるわけじゃない」


 俺がそう伝えると、マリアはグランパに確認を取るように視線を向け、グランパは肯定するように頷く。


「そして俺達の故郷にはジェーンとセイを連れていけない可能性がかなり高い……いや、ほぼ不可能だと俺は思っている。セイ、ジェーン、婚姻と言っても、俺がこの地にとどまっている間だけの夫婦関係になるぞ。それでもいいなら受け入れよう」

「ちょっ!? ちょっと!? 深山さん! 重婚は法律違反ですよ!!」

「桐山、ここは日本じゃない。ノース・サンズにはノース・サンズの法があり、彼女たちが俺の出した条件を受け入れなければ問題ないだろ?」


 俺が出した条件を受け入れるなら結婚すると伝えると、桐山が俺の背中をバシバシと強く何度も叩いて重婚はよくないと訴えてくる。

 俺は桐山に叩かれるまま、ここが日本ではなく日本の法律は関係ない、彼女たちの意思次第だと伝える。


「ん、受け入れる」

「あたしも受け入れるよ。一緒に深山の故郷に行ける可能性もあるし、なんなら……あたしとセイの二人で深山を虜にしてここにいさせればいいしね」


 セイとジェーンは俺の出した条件を受け入れると言ってきた。

 正直少し驚いたが、それだけノース・サンズは俺が持つ拠点モードの防衛力が欲しいのだろう。


 思い返してみれば浄水器が修理されて水に困ることがなくなったし、蟻の巣が駆除されて地下鉄網を使った交易が再開できるうえに電気も再稼働している。

 俺達がクエストクリアの為にあれこれやったせいでノース・サンズの価値は上がってしまった。


 サンアンジェルスや西のレイダー集団が今のノース・サンズの発展を知れば攻撃を仕掛けてくるかもしれない。

 ノース・サンズからすればジェーンやセイを差し出してでも防衛力が欲しいのだろう。


「なら、今日から俺達は夫婦だ。よろしくな、ジェーン、セイ」

「ああ、よろしく、旦那様」

「ん、よろしく」

「………」


 婚姻を受け入れると、ジェーンは俺を旦那様と呼び、セイはいつもと変わらない短い返事を返す。

 桐山は納得いっていないのか、不服そうな顔でこちらを見つめていた。後で話し合う時間が必要だな。


「では、土地の広さですが……」


 婚姻を了承したことを確認するとマリアは譲渡する土地の広さを伝えてくる。


「建築に関する労働力はそちらで確保してください。ノース・サンズの住人を使う場合は正当な報酬で雇っていただけるのなら我々から言うことはありません」

「それじゃあ、さっそく拠点の候補地をみてくるとするか、これで失礼するよ、首長」

「ええ、よろしくお願いしますね、婿殿」

「うむ、頼りにしておるぞ、婿殿」


 首長に別れを告げて駅長室を出ていこうとすると、マリアとグランパから婿殿と呼ばれて思わず振り向く。



「首長はあたしの母親なんだよ」

「グランパは私のおとーさん」


 ジェーンとセイが悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべて俺の両サイドの腕に自分の腕を絡ませる。

 俺はあっけにとられながら譲渡された土地の場所へと向かった。

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