第24話 クエスト:発電所再稼働 5


「何……この大群……ありえないし」


 同じくジャバウォックからリンクされたレーダーを確認して工藤が声を漏らす。


「深山、どうした?」

「……川の上流から何らかの大群がこちらに向かってきてるのがレーダーで確認できた。多分、発電所の稼働音か何かに誘われているんだろう」

「大群が? どこにも見えないが?」


 大群が来る方角を指さしながらジェーンに伝えると、レーダーを確認できないジェーンは信じられないといった顔で言葉を返す。


「ん、ダムの上に上って何が来るか確認。大群の正体見る!」


 セイはダムの最上階を指差し、大群の正体を確認したいという。


「そうだな、幸いまだ距離はある。逃げるか迎撃するか、判断するぐらいの時間はあるだろう。走るぞ」


 まずは大群の確認をしようとダムの最上階へと昇る。

 オートプロテクターのフェイスガードを解除し、無限バックパックから取り出した双眼鏡で大群がいる方向を覗く。


 双眼鏡越しに見える風景は一言でいうと地獄だった。

 川の上流付近の大地がクリーチャーに埋め尽くされていた。


「デッドウォーカー……」


 デッドウォーカー、エンドレスホライズンの世界に登場するクリーチャーで、過去の世界大戦末期に人間の死体を再利用して兵士にしようとした計画があり、その計画の中で死体をゾンビのように使役するというネクロマンサーウィルスというのが存在した。

 計画が実行される前に核ミサイルが落ちて計画は実行されなかったが、いくつかのネクロマンサーウィルスが核の影響で地上に流布したという設定があり、ゲーム世界で徘徊するデッドウォーカー達はその漏れたネクロマンサーウィルスに感染した死体と言われている。


 デッドウォーカー達は一目散に発電所を目指して歩いていた。

 デッドウォーカー達は音に敏感で、音が発生する物を執拗に攻撃する習性がある。

 このまま何も対策しなければ発電所はデッドウォーカーに占拠されて、機械の駆動音に反応して発電所を破壊されてしまうかもしれない。

 運が悪ければそのままノース・サンズに大群が雪崩込んでくる可能性もある。


「何よ……あれ……」


 同じように双眼鏡で大群を見ていたジェーンがその場に崩れ落ちる。


「せっかく……せっかく……電気が戻ったのに……また夜でも昼間みたいな明るい部屋で皆が暮らせるって思ったのに……なんで……なんでいっつもこんな目に合うのよ! 私たちが何をしたっていうのよ!!」

「ジェーン……」


 ジェーンは両手で顔を覆って嗚咽する。

 セイは困った顔でジェーンの背中をさすって慰めようとする。


「深山さん……何とかなりませんか?」

「深山っち……」


 桐山と工藤がすがるようにこちらを見てくる。


「深山、下水処理場で見せてくれたあなたのロストテクノロジーで助けて! 報酬が欲しいなら私を差し出す。なんでもする!」

「セイッ!? ……深山、無茶を言ってるのは重々承知している。でも……もし、もし発電所を、ノース・サンズを助けれるなら助けてくれ! 報酬にあたしもつける! あんたが望むなら、なんだってする! 頼む! あたしたちの故郷を守ってくれ!!」


 セイが助けを求めてくる。浄水器の修理装置を探しに下水処理場に行ったとき、サブクアン達の巣に落ちて追い詰められた時に見せた能力を当てにしているようだった。

 ジェーンが驚いたようにセイを見つめた後、同じように自分を差し出すから助けてほしいと懇願する。


「……女が簡単に何でもするなんて口にするな。ノース・サンズは俺たちが活動拠点にする予定の場所なんだ。それにせっかく苦労して再稼働させた発電所をあんな死人どもに好き勝手させるつもりはない」


 俺は拠点モードを展開する。

 ゲームではこの発電所を再稼働させると拠点が作れるようになる。

 さらに発電所が稼働していると、電力が必要な設置物も多数使えるようになる。


「大群VSチートMOD、どっちが勝つか勝負しようじゃないか」


 俺は拠点モードを展開し、ダムを中心に防衛拠点を構築していく。

 交差するようにコンクリートのバリケードを作ってまっすぐ走れないようにし、バリケードの上にはマシンガンターレット、バリケードの裏には指向性対人地雷……通称クレイモアを設置していく。


 ダムの頭頂部にはレーザーターレットとスポットライト、7・62mmミニガンを数門設置する。


「凄い……何もないところに次々とターレットが……これがセイが言っていた深山のロストテクノロジーの力!?」


 次々と何もなかったところにバリケードやクレイモア、レーザーターレットにスポットライト、ミニガンが次々と現れ、ジェーンは目を白黒させて驚いている。


「全員配置につけ! デッドウォーカーたちをここで殲滅する!」


 設置が終わる頃には空は夕日に染まり、地平線の向こうはデッドウォーカーの大群で埋め尽くされていた。


「桐山はジャバウォックの電子戦機能を使ってターレットの性能を上げて操作くれ!」

「はいっ!」


 桐山がジャバウォックの電子戦装備を起動させる。ターレットとリンクされていく。


「工藤、ジェーン、セイ、俺はミニガンで迎撃だ」

「さすがにあの大軍に近接は無理だし」

「ああ、戦える機会くれて感謝するよ!」

「ん! 頑張る!!」


 俺達はミニガン前でデッドウォーカーたちが射程ラインに入るまで待機する。


「マシンガンターレット射程範囲に入りました! 攻撃を開始します!!」


 バリケード側に設置したマシンガンターレットがデッドウォーカー達に反応し、銃口を向け12.7mm弾を吐き出していく。


 デッドウォーカー達は銃弾を浴びて倒れるが大群には焼け石に水程度、逆に発砲音に反応し、マシンガンターレットに殺到して薙ぎ倒していく。

 最初のマシンガンターレットを破壊したデッドウォーカー達はバリケードを乗り越え進撃してくる。

 バリケード裏に設置したクレイモアの赤外センサーをデッドウォーカーが遮り、クレイモアが起動する。

 クレイモアに搭載されたC4が起爆し、中に詰め込まれた約700個の鉄球やスプリングが扇状に吐き出され、デッドウォーカー達の肉を抉り取る。


 後方のマシンガンターレットが連動するように反応し、マズルフラッシュが地上で花咲く花火のように見えた。


「凄い……デッドウォーカー達が次々と倒れていってる!」


 ダムの最上階から状況を見ていたジェーンが両手で口を覆いながら感嘆の言葉を述べる。

 一見すればこちらが有利なように見える。だが、マシンガンターレットはデッドウォーカー達が纏わりつき次々と沈黙していく。設置したクレイモアも半分以上が起動した。

 それでもまだデッドウォーカーの大群は存在し、発電所に向かって進軍してくる。


「レーザーターレット有効範囲に到達しました!」


 ターレットとリンクした桐山がついにレーザーターレットの有効範囲に入り、レーザーのエネルギーが発射口に充填されていくのがわかる。

 一瞬赤い閃光がデッドウォーカー達の大群の中を過ったかと思うと、一足間を開けてデッドウォーカー達の体が切断され、ずり落ちていく。


 残りのレーザーターレットからも赤い閃光が発射され、次々とデッドウォーカー達の体が切断されていく。


 傷口から血が吹き出ないのはレーザーの熱によって傷口が焼かれているからだろうか。暗くなっていく時間でよかった、明るい時間だったら彼女らにトラウマを与えかねない。


 サーチライトも空気を読んでくれているのかそれとも偶然か、切断されたデッドウォーカーではなく、動いているデッドウォーカー達を照らす。


「ミニガンの射程範囲だ! 狙う必要はない! 銃身が焼き付くまで撃ちつづけろおお!!」


 予想以上の威力を発揮するレーザーターレットだが、発射する際にエネルギーを充填する為、マシンガンターレットのような連射速度がなく、撃ち漏らしがこちらにやってくる。


 俺はミニガンの有効射程範囲に入ったことを確認すると檄を飛ばし、射撃を開始する。

 ミニガンの安全装置を解除し、発射ボタンを両方の親指で押すとミニがンの銃身が数度空転した後、毎分3000発の発射速度で7・62mm弾が発射される。

 ガスバーナーのように銃身からはマズルフラッシュが吹き続け、轟音がダムと発電所に響き渡る。


 かろうじて生き残っているマシンガンターレット、次々と閃光を発射するレーザーターレット、ミニガンによる銃弾の嵐によってデッドウォーカー達は蹂躙されていく。


 次々と押し寄せる死人の津波を銃弾で押し返す。

 積みあがっていく死体と空薬莢の山、永遠にこれが続くのかと錯覚しそうなほどの長い時間俺達はデッドウォーカー達と戦い続けた。


 地平線の向こうに光が差し始めた時、地表部分には動く存在はいなかった。


「……勝った……?」


 セイが確かめるように呟く。

 ミニガンの弾薬はすでに尽き果て、銃身は赤熱して陽炎が発生していた。


「レーダーに敵影……なし……勝った……勝ったんですよ! 私達勝ったんです!!」


 ジャバウォックのレーダーを何度も確認した桐山が嬉しそうに飛び跳ねて勝利宣言する。


「疲れたし……お風呂入りたーい! ふかふかのベッドで寝たーい!!」


 工藤はその場に大の字に寝て、風呂に入りたいと駄々をこねるように叫ぶ。


「深山!」

「ジェーン……君が手伝ってくれたから俺達は生き残れた。誇れ、君たちが故郷を守ったんだ」


 ジェーンは俺に抱き着く。俺はそれを受け入れながら声をかける。


「ん! 深山が助けてくれたから頑張れた」


 セイも同じ様に抱き着いてくる。


「あー、いいなっ! あたいも抱き着かせてほしいし!」

「あ、私も!」

「ちょっと待て工藤! 流石に鬼面童子を着用したままはまずい!!」


 セイとジェーンが俺に抱き着いてるのを見て、工藤はがばっと起き上がって俺に抱き着こうとする。それに便乗するように桐山も飛びつこうとする。


 波乱万丈だった発電所再起動クエストは何とかクリアすることができたようだ。

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