第23話 クエスト:発電所再稼働 4


「こいつは……グロダイトの巣かっ!」


 配電盤室の最深部、そこは木の枝や瓦礫、泥に服の破片で作られた大きな巣があった。

 エンドレスホライズのゲーム世界でこのような巣を作る習性を持つクリーチャーはグロダイトと呼ばれるトカゲが放射能でミュータント化したクリーチャーだ。


「レーダーに反応がありません、出て行ってるんでしょうか?」

「いや、確か設定でグロダイトは夜行性で昼間は巣に籠る。あと皮膚から油状の麝香のような化学分泌液を吐き出し、それを体に覆わせることでレーダーから感知されなくなったはずだ」


 桐山がジャバウォックのレーダーを確認しながら動体反応がないことを伝えてくる。

 この世界に異世界トリップする前、エンドレスホライズの設定資料アートブックを購入していた俺はグロダイトの生態設定を覚えており、グロダイトの分泌液がレーダーを阻害する設定を桐山に説明する。


「そういえば、ゲームではグロダイトはミニマップに映らなかったし?」


 工藤もゲームでグロダイトと戦った時のことを思い出したのか、敵の存在を知らせるミニマップに反映されなかったことを口にする。


「どうします?」

「もちろん、巣は燃やす。燃やしたらグロダイトが出てくるから迎撃準備しろ。ただし、銃は使うな」

「おっけー、あたいの鬼面童子の本領発揮だし!」


 モロトフカクテルを無限バックパックから取り出し、瓶口に詰めた布に火をつけて巣に向かって投げる。

 工藤は鬼面童子の左腕に搭載された単分子のクローを展開し構えを取る。


 ガラスが割れる音と同時に中の液体が飛散、着火して巣に燃え広がる。


「ギシュアアアアアア!!!」


 燃え広がる巣から奇声を上げて飛び出してくる身長140㎝前後の二足歩行のトカゲたち。

 その手には木製の棒の先端に尖った石を付けた槍や石の塊を弦で巻き付けた棍棒を持っている。

 その皮膚には油状の分泌液が付着しており、その分泌液のおかげで巣から焼け出されてもやけど一つ負っていない。


「クロカカカカ!!!」


 グロダイト達は威嚇と思われる声を上げて武器をこちらに向けて襲い掛かってくる。


「ギシャァッ!」

「フンッ!」


 グロダイトの一匹が石槍で突いてくる。

 俺は半歩体を斜めに反らし、槍の突きを避けると密着するようにグロダイトの懐に飛び込み、アバドンの歯でグロダイトの首の頸動脈を斬る。


 斬った勢いを体に乗せて半回転し、近くにいたグロダイトの武器を持つ手にアバドンの歯のエッジをひっかけ手首を捻り、合気道の要領で背中から落ちるように投げ飛ばし、転倒したグロダイトの顔面にアバドンの歯を突き刺す。


 そのまま次のグロダイトに向かうと、グロダイトは石を巻き付けた棍棒を振り下ろそうとする。

 俺は下からかち上げるようにエッジ部分でグロダイトの手首をひっかけ、鳩尾に掌底を食らわせる。

 筋力10、鉄拳のスキルパーク最大値の効果によってその掌底はグロダイトの内臓を破裂させるほどの威力があり、どす黒い血を吐いてグロダイトは沈んだ。


「せーのっ!」


 一方工藤は力任せに左腕を振り回しながらグロダイトの群れに突っ込む。単分子で構成されたクローは容易にグロダイト達の肉を切り裂き、臓物をまき散らす。

 何度かグロダイト達の攻撃を受けたが鬼面童子は元々装甲が厚く、5・56mm弾すら弾けるのだ、石槍など原始的な武器では傷一つ与えることができなかった。


「今度はこっちだし!!」


 最後の一匹となったグロダイトに工藤は右手でボディブローを食らわせる。

 カチンと撃鉄が叩かれる音がしたかと思うと右手に搭載されたパイルバンカーが起動し、爆発音とともにグロダイトの背中を太い鉄槌が突き破っていた。


「これで全部みたいだな……配電盤を確認したらさっさと出るぞ」

「そうですね……あまり長居したくないです」

「賛成だし」


 巣は燃え尽き、飛び出してきたグロダイトも全部排除できたことが確認できると配電盤を探す。

 桐山はオートプロテクター越しに口を抑える仕草をし、工藤もパイルバンカーの次弾を準備しながら左手を挙手する。


「あったぞ、問題はなさそうだな」


 配電盤を見つけ、故障がないか調べるが特に問題がないように見える。

 ブレ-カーを戻し、配電盤を操作して発電所を再稼働する。


「あっ! 電気がついたし!」

「やった! 深山さん、発電所再稼働しましたよ!」


 ブオォォォォンと独特の駆動音と共に配電室に明かりがつく。

 明かりがついたことに工藤と桐山が手を取り合って喜ぶ。


「これでクエストは終了のはずだ。ジェーンたちと合流してノース・サンズに戻るぞ」


 配電盤室を出て外に戻れば発電所全体が独特の駆動音を響かせて稼働しているのがわかる。


「深山っ! 本当に稼働……うわくっさっ!?」

「んっ、深山達、臭い」


 配電室につながるゲート口で待機していたジェーンが興奮した様子で駆けつけて、途中で足を止めて鼻をつまむ。

 セイも同意するように両手で鼻を塞いで俺達から距離を取る。


「あー……グロダイト達の巣にいたからなあ……」


 短時間とはいえ、汚臭漂うグロダイトの巣の中に滞在し、汚臭の元である分泌液を纏ったグロダイト達と戦っていたのだ。

 戦闘中に分泌液がまき散ってオートプロテクターに付着してもおかしくはない。


「深山さん、臭い落とすアイテムとかないですか?」

「俺は未来からやって来た特定意志薄弱児童監視指導員ロボットじゃねえんだぞ」

「何その耳を鼠に齧られてカラーリングが青くなるロボットみたいな職業は?」

「工藤、お前絶対18じゃないだろ!」


 桐山がすがるように俺に臭いがとれるアイテムがないか頼ってくる。

 俺がぽろっとネタをこぼすと工藤がそれを拾って、ネタを広げてくる。絶対コツは18じゃないと思う。

 桐山とジェーン、セイは俺と工藤の掛け合いにきょとんと小首をかしげていた。


「えー、あたいは正真正銘18だし。別にちょっとサブカルとかに詳しいだけだし。それより深山っち、本当に何かないの?」

「ちょっと待ってろ……たしか……」


 工藤に催促されて俺は無限バックパックの中を探る。

 ゲームでもグロダイトの汚臭はバッドステータスとして存在しており、デメリットは魅力値の低下と魅力に関連するスキルパークの低下だ。


 そのバッドステータスを除去できるアイテムも存在する。その名も消臭剤、そのまんまの名前のアイテムだ。


 ゲームでは使用した瞬間に汚臭のバッドステータスが除去されるがこの世界ではどう扱われるのだろうか。

 バックパックから取り出されたのは元の世界でも市販されているようなノズルスプレータイプの消臭剤だった。


 それをためしに俺や桐山、工藤、周囲に吹きかけてみる。


「うわぁ……なにそれ……一瞬で臭いなくなったわ」

「んっ! 旧時代の遺品クラス!」


 消臭剤の薬液を散布するとジェーンがぎょっとした顔をして一瞬で臭いがなくなったと答える。

 セイもうんうんと何度も頷きながら、俺が持ち出した消臭剤が戦争で文明が滅ぶ前の遺品クラスだとたたえる。


「ともかく、臭いも解決したし、発電所も再稼働した。とりあえず簡単なバリケードを築いてグロダイトとかが巣にしないようにしないとな」

「そうだね、できればノース・サンズから人を送って見張りも立てたいけど……」


 ジェーンは人を送りたいと呟くが表情が暗くなる。

 おそらく、人手が足りないのだろう。


「深山さん……ちょっとレーダーを確認してもらえますか? 故障したみたいなんです」

「レーダーがどうし―—―」


 消臭剤をかけられてから黙っていた桐山が恐る恐るといった感じで俺に声をかけてくる。

 何事かとレーダーを確認すると、発電所を囲むように数えるのすら嫌になるほどの敵反応のマーカーが川の上流から発電所に向かってきているのが表示されていた。

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