第22話 クエスト:発電所再稼働 3


「あの怪物がノース・サンズに電気が送られなくなった原因かしら?」


 唖然とした表情のままジェーンは貯水池の水面を見ながら呟く。


「深山さん、あんなクリーチャー、エンドレスホライズにいましたっけ?」

「あたいもみたことないし? あんな特徴的なクリーチャーいたら、動画上げてるし」

「となると……この世界独自の生物か……別プレイヤーのクリーチャー追加MODかだな」


 ジェーンたちに聞こえないようにひそひそと双頭鮫について桐山と工藤と俺、三人で話し合う。


 桐山たちが言う様にエンドレスホライズのゲームにはあんな双頭鮫のクリーチャーなんて存在していない。

 この世界独自のクリーチャーか、クリーチャー追加MODという別ゲームや自作のクリーチャーを追加するMODを導入したプレイヤーがこの世界に異世界トリップしているかのどっちかだ。


「あれをどうにかしないとな……」

「と言っても深山さん、相手は水の中ですよ」

「ここから銃で撃とうにも深く潜られたら手が出せないぜ?」

「釣り上げるとか?」

「ん!」


 貯水池の底にあるゴミを取り払うにはあの双頭様をどうにかしないといけない。

 桐山とジェーンは相手が水の中にいるのにどうやって攻撃するか話し合い、工藤が釣り竿で吊り上げるようなジェスチャーをすればセイが名案だと目を輝かせる。


「いや、それよりもっとシンプルな方法がある。全員少し離れろ」


 女性陣に下がるように指示しながら無限バックパックから取り出したのは、一見するとスプレー缶のような手榴弾。俺はピンを抜いて数本貯水池に投げ込む。


「今投げ入れたの何ですか?」

「サーメートだ。別名白燐、もしくはテルミット手榴弾と言われる武器だよ」

「あー、なんか学校の授業で教師がそんなこと言ってたし」


 投げ入れた手榴弾を見て桐山が質問してくる。

 俺は貯水池の様子を伺いながら先ほど投げ入れた手榴弾の正体を説明する。

 工藤はテルミットという単語に反応して、授業で聞いたことがあると言っていた。


 サーメートとはテルミット焼夷弾の一種で、短時間に狭い範囲に集中する非常に高い温度を爆発的に生み出せる手榴弾だ。

 燃焼温度は約4000から6000度にもなり、鉄骨などを溶かせる。主な用途は、鉄条網やバリケードなどの構築物の破壊だ。


 ここでサーメートを使ったのは別に鉄骨などを溶かすのではなく、貯水池の温度を上昇させるためだ。

 水底の住処へと戻っていった双頭鮫だが、サーメートによって貯水池の水温が上昇し、水温の低い場所へと逃げようとする。


「あっ! 浮かんできたし!」


 工藤が指させば、水面に鮫の背びれが見える。


「ピン抜きヨシッ! 1、2、投げっ!!」


 無限バックパックから取り出したのは攻撃手榴弾。TNT爆薬の爆発により発生した衝撃波によって敵兵の無力化(殺傷)もしくは制圧を狙った設計になっている手榴弾だ。水中で炸裂させても水圧によって攻撃が行える超小型の爆雷としても使える。


 スキルパークによって投擲距離と攻撃力が上昇した攻撃手榴弾は寸分たがわず。浮上してきた双頭鮫の背中で爆発する。


 爆発の衝撃を受けた双頭鮫は痛みにもだえ苦しみ暴れ、バシャバシャと激しい水しぶきを上げる。


「流石に大型なだけあってタフだな!」


 攻撃手榴弾のピンを抜いて2秒まってから双頭鮫へと投げる。

 攻撃手榴弾は放物線を描いて逃げ惑う双頭鮫の頭上で爆発する。

 双頭鮫は逃げ機目の爆発で片方の頭を潰され、爆発の衝撃波で浮袋が破裂したのか沈んでいく。


「あ、鮫のレーダー反応消滅しました。多分死んだと思います」


 ジャバウォックのレーダーから鮫の反応が消えたことを桐山が知らせる。

 俺達のオートプロテクターにリンクしているレーダーにも鮫の反応が消え、鮫が沈んだ貯水池には鮫の血か、水面がゆっくりと赤く染まっていく。


「これで改めて作業に戻れるな」

「……爆薬をあんな惜しげもなく……規格外にもほどがあるわ」

「ん!」


 双頭鮫の撃破を確認して作業の再開を知らせるとジェーンは茫然とした顔でこちらを見ていた。セイは私の言った通りでしょみたいな顔でジェーンを見上げていた。


「んで、深山ッちはどうやってゴミ除去するの?」

「簡単だ、潜って直接排除する」

「ちょっ!? ちょっと待て!! 水は汚染されているんだぞ!!」

「ん! 入るの危険!」


 工藤がこの後の行動を聞いてくるので、オートプロテクターのまま水に飛び込むと言うとジェーンとセイが俺に抱き着いて止めに入る。


「大丈夫だ、このオートプロテクター【プレデター】は防水機能もついてる」

「……本当に大丈夫なんだろうね?」

「ああ、そうじゃなきゃ潜るなんて言わないさ」


 俺はそう言ってセイとジェーンを安心させるとダムの淵に立つ。


「本当に大丈夫なんですよね?」

「俺、チートMODで全部のスキルパーク最大値だぞ」

「あっ!」


 桐山も心配そうに声をかけてくるがチートMODを入れてると伝えれば納得する。


「じゃあ、行ってくる」

「おみやげよろ~」


 一言声をかけて貯水池に飛び込む。

 オートプロテクターのヘッドランプを点灯し、水中を照らす。

 水底はヘドロなどが蓄積しており、俺が水底に着地すると泥が舞い上がり視界が悪くなる。


 ダムの壁沿いに歩き、吸い込み口を探す。

 しばらく歩くと倒木やコンクリートの瓦礫に埋もれた吸い込み口をみつける。

 俺は拠点モードを展開し、ゴミを除去していく。


(ん? あれは……)


 瓦礫を撤去していると双頭鮫の死骸を見つける。片方の頭部は潰され、背中部分が爆発によってえぐり取られて血が漂っている。


(そういえばMODのおかげで死体も撤去できるんだったな)


 MOBの死体はアイテムをルートした後もしばらく残り続ける。

 ゲームではランダムイベントプレイヤーが築いた拠点などがレイダーやクリーチャーが襲ってくることがあり、倒した後の死体が拠点の景観を損なうことがあった。

 拠点系MODの1つでMOBの死体を資源に、死体が持ってるアイテムを自動的に保管庫に送るMODがあり、俺はそれを導入している。


 試しに双頭鮫を撤去するとなぜか脳に文字が浮かび、アバドンの肉、皮、ヒレ、鱗、そして聞いたこともないアバドンの牙という名称のカランビットを手に入れたことが分かった。


 カランビットとはナイフの形状の一つで、元々は東南アジアで伝統的に使われている鎌状の刃物を武器としたものだ。鎌や鉤爪のように屈曲した刃体をもち、ハンドルエンドに指を通す輪(フィンガーリング)がついている。


(やはり、誰かがインストールしたMOB追加MODか。倒すとユニーク武器が手に入る様になってたみたいだな)


 手に入れたユニーク武器の性能を調べると、同じ対象に連続でダメージを与えるごとで武器の基本ダメージが上がるという性能が分かった。

 敵を倒したり、途中でターゲットを変えるとダメージ上昇の累積効果が消えるようだ。


 完全にゴミを除去し、吸い込み口の導管内も清掃するとダムの壁を利用して水面に浮上する。


「あ、出てきたし!」

「深山さーん、大丈夫ですかー?」

「体に異常はないか?」

「んーっ!」


 水面に顔を出せば貯水池を覗き込んでいた女性陣が声をかけてくる。


「ゴミは排除した。今からそっちに合流する」


 手を振って無事であることを合図すると左手を空に向けて伸ばす。

 オートプロテクター【プレデター】の左には粘着性の強い液体ワイヤー(一定時間空気に触れると硬化する)が装填されており、それを射出してダッシュローラーでダムの壁を阪上がっていく。


 元の世界にいた頃の自分にはこんな芸当できなかったが、チートMODによる能力値とスキルパークによってこんな曲芸のような移動方法すら可能となってしまう。


「………」

「深山ッち、今の何? 凄いし!」

「あんたさ、傭兵辞めて曲芸師になった方がいいんじゃない?」

「もう一回! もう一回!」


 女性陣も元に戻ってくると桐山は唖然としており、工藤とセイは目を輝かせて興奮し、ジェーンはヒューっと口笛を吹きながら曲芸師への転向を勧めてくる。


「さて、これでタービンが回るはずだ。確認しに行くぞ」


 タービン室へ向かい、キングス弁を解除するとタービンがゆっくりとだが回り始める。


「これで集落に電気が戻いって来るんだね!」

「んっ!」


 タービンの回転を見たジェーンとセイが感無量という顔で回転しているタービンを見つめている。


「その前に配電盤を確認するぞ。こういった事故が起こった時はブレーカーが落ちてたりする」


 ゲーム進行ではタービンを再稼働させた後、配電盤のブレーカーが落ちているのでそれを元に戻す必要があった。


 配電盤室があるエリアに繋がるルートは鍵が掛かっていたがマッスルアンロックで強引に解除して配電盤室へ向かう。


「うわ……臭っ!」

「何……この臭い……」


 配電盤室がある場所へと向かっているとセイとジェーンが鼻をつまんで悲鳴を上げる。


「え? なんか臭う?」

「んー? 別に何にも臭わないし?」

「俺達はオートプロテクターを装着してるからだ」


 セイとジェーンの鼻をつまみ顔を顰める姿を見て桐山と工藤は何も臭わないと話し合い、俺が呆れた顔でオートプロテクターのおかげで臭いが来ないだけだと答える。


「深山、悪いけど……私達はこれ以上は入れない」

「ん!」


 かなり臭いがきついらしく、ジェーンとセイは制御盤室に入らないと伝えてくる。

 セイに至っては臭いのせいか涙を浮かべていた。


「二人は入り口を見張っててくれ」

「悪いけど、そうさせてもらう」

「ん、気を付けて」


 ジェーンとセイが入り口に戻るのを確認すると、俺は先ほど手に入れたアバドンの牙を取り出す。

 制御盤室では下手に銃を撃って制御盤を破壊するわけにはいかないので、ナイフと言った近接武器を装備してゆっくりと制御盤室へ向かう。


「何かがいるのは確定だな……俺と工藤が近接武器で対応する。桐山はレーダーを見ていてくれ」

「レーダー……今の所、動体反応なしです」

「お出かけ中?」


 しばらく進むと、制御盤室の入り口が見つかる。

 ドアは破壊されており、入り口周辺には生物の糞便が大量にまき散らされ、無数の蠅がたかっていた。


「うわぁ……あんまり入りたくないし」

「ここに入らないとクエストは進まない。無理に付き合う必要はない」

「深山さんだけに任せっきりなんて嫌です」


 桐山と工藤は入り口近辺のまき散らされている糞便を見て躊躇していたが、ついてくる。


「血痕だ……獲物を仕留めて中に引きずっていったってとこか」


 制御盤室の入り口から中を覗くと奥へと引きずられていく血痕があった。


「何かの巣になっているな……」


 オートプロテクターのヘッドランプを点灯してゆっくりと制御盤室へ入る。

 制御盤室の中は細長い通路になっており、通路の所々に木の枝や瓦礫があちこちに落ちており、何者かが制御盤室を巣に作り替えているようだった。


 俺達は慎重に進みながら最奥にあると思われる巣へと向かった。


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