第19話 新たなプレイヤーとクエスト:アリの巣退治5


「うわわっ!? ちょっ、ちょっと待ってくださいよぉ~~!?」

「あはは、これ超楽しいし~!!」


 地下鉄坑道に桐山と工藤の声とローラー音が響く。

 俺達はオートプロテクターに搭載されているローラーダッシュで地下鉄のレールの上を走っている。


 コアレスモーターのダッシュローラーと制御用のターンピックがオートプロテクターの脚部に装備されており、ゲームでもこのローラーダッシュで移動時間の短縮や敵との距離を詰めたりしていた。

 専用の設備で改造すればホバークラフトや短時間の飛行ができるようにもなる。


 桐山はダッシュローラーの速度に恐怖を感じているのか、初心者がローラーブレードをやり始めた時のような腰が引けた姿勢で走っている。

オートプロテクターに搭載されているバランサージャイロのおかげで転けることはない。


 工藤はバランス感覚がいいのか、アイススケートの選手のような片足立ちで走ったりして楽しんでいる。


「そろそろノース・サンズの駅につくはずだ。スピードを緩めろ」

「や、やっと普通に歩ける……足動かさずに進む感覚ってなんか変」

「えー、あたいは楽しかったし! こんな世界に来たけど、これだけはこの世界に来なかったら体験できなかったし」


 遠くにノース・サンズの駅の明かりが見えてローラーダッシュのスピードを緩めるようにオートプロテクターのメットに搭載されている通信機を使って伝える。


「とっ、止まれっ! 何者だ!!」


 ホーム手前に到着すると日本刀を抜いたグランパや防衛部隊の隊員やノース・サンズの男性住人達が武装してホームに待ち構えていた。


「あー……俺達だ、傭兵の深山だ」


 住人たちの反応を見て苦笑する。

 行きと違う姿で戻ってくれば怪しまれるのも仕方ない。


 オートプロテクターのファイスガードだけ解除して顔を見せる。


「なんじゃ、お主らか……地下鉄の線路から異常な音がすると聞いて、慌てて駆け付けたぞ」


 俺の顔を確認したグランパが納刀しながら愚痴る。


 どうやらローラーダッシュの駆動音がノース・サンズのホームにまで響いて異常事態と勘違いさせたらしい。

 グランパが傭兵が帰ってきたと住人達に知らせて非常事態宣言を解除する。


「お主ら、蟻の巣の破壊に向かったはずじゃろ? その姿は一体? 後ろにいるのは桐山と……工藤だったか?」

「あー、纏めて首長に報告でいいか? 一人一人説明するのも煩わしい」

「ふむ、そうじゃのう……ついてこい」


 グランパがオートプロテクター姿の俺達を見て怪訝な表情を浮かべ、俺の後ろにいる桐山と工藤の方に顔を向けて名前を呼ぶ。

 首長のとこで纏めて報告すると言えば、グランパは首長がいる駅長室へと案内する。



「つまり、蟻の巣近辺に未探索のエリアがあり、そこを調べたらオートプロテクターがあったと?」

「そういうことになる」


 首長のマリアに事の顛末を報告すると、マリアは頭痛を抑えるようにこめかみを揉みながら俺の報告を復唱し、状況を飲み込もうとする。

 まあ彼女からすれば蟻の巣退治に出かけた傭兵がオートプロテクターというパワードスーツを着用して帰ってきたなんて報告、理解できないだろうし、すぐに呑み込めないだろうな。


「ふむ……確か過去に電子ロックが掛かった扉があったと報告があったような……」

「グランパ?」


 俺の報告を聞いていたグランパが自分の顎を弄りながら思い出したように呟く。


「隣の駅と合同で調査隊出して、結局電子ロックが解除できずに放置していたはずじゃ」

「………それは何時の話です?」

「えーっと……わしがこの集落に移ってすぐじゃったかな?」


 グランパが思い出すように過去に交易のあった隣駅の集落と合同で調査隊を出したと呟く。

 結局電子ロックの解除方法が分からず調査は不発。交易に支障がないため開かずの扉みたいな形で放置されていたという。

 俺はグランパが言った集落に移ってすぐという言葉に耳を傾ける。


「グランパがここに来たというと……20年近く前ですね……」

「それよりも、蟻の巣の破壊は終えたぞ。交易再開するならレールの修理が必要だが」

「そうですね……まずは巣穴の確認をしてからになります。破壊が確認されれば報酬を支払いましょう」


 報酬の話を振ればマリアはポンと手を叩いて空気を入れかえ、巣穴の破壊が確認されれば報酬を払うという。


「蟻肉はどうする? あと鎧に使えそうな部分も採取してきたが?」

「では食料物資保管担当のジョンに渡してください。グランパ、案内頼めますか?」

「任された。深山、こっちじゃ、案内する」


 蟻の巣破壊の報酬はいったん保留。蟻肉を売りにグランパに案内されてノース・サンズの食料物資を保管するエリアへと向かう。


「グランパ、どうした? 何か足りなくなったか? 酒ならもう今月分渡しただろ」

「ジョン、今回は仕事じゃ。食料を売りに来た傭兵を案内してきたんじゃ」


 保管エリアで使い古されたバインダーに挟まれた紙に在庫を書いている中年の白人男性がグランパの姿に気づき、声をかけてくる。


「食料物資保管担当のジョン・グレイストークだ。食料を売ってくれるのは大歓迎だ」

「……傭兵の深山だ……」


 男の名前を聞いて俺は苦笑を浮かべる。どうやらこの世界の住人は俺達の世界の偉人などの名前を名乗っていたりするようだ。

 ジョン・グレイストークとは小説版ターザンに登場する主人公ターザンの実の父親の名前だ


「で、食料は何処だ?」

「こいつだ」


 無限バックパックから蟻肉を取り出し、ジョンに渡す。


「何の肉だ?」

「地下鉄に巣食っていたジャイアントアントの肉だ」


 蟻肉の塊を受け取ったジョンは臭いを嗅いだり、ランタンの明かりに近づけて鮮度を確認しようとする。


「どれくらいある?」

「今はこれだけだ」


 バックパックからさらに大きな肉の塊を5つだす。


「こいつは……」


 肉の塊を見たジョンは最初は喜んでいたが塊が3つを超えると残念そうな顔になる。


「全部買い取りたいが……保存ができない」

「塩か保冷庫はないのか?」

「地下鉄交易だけでも再開すれば塩が手に入るかもしれないが、保冷庫は電気がない」


 ジョンが言うには蟻の巣ができたことと、またメガシティサンアンジェルスの妨害工作で地下鉄、地上部両方から交易を止められ資材不足に陥っている。

 また十年単位で電気が止まったままで保冷庫と言った保存施設が使えなくなっている。


「浄水器などは発電機を使って電力を確保しているが、それもいつまで持つか……発電所さえ動いてくれればなあ」


 ジョンはため息交じりに発電所が動けばと呟き、腐らせずに消費できる量だけの肉を買い取り、代金部のカジノチップを手渡す。


 代金を受け取れば俺達はオートプロテクターを多目的機動戦闘車の中に置いていく。

 元々多目的機動戦闘車はオートプロテクターを着用した兵士の輸送も想定された造りになっており、オートプロテクターを固定するハンガーもついている。


「そうだ、おまえらレベルが上がってないか確認してみろ」


 オートプロテクターを脱いでハンガーに固定すると桐山と工藤にレベルが上がってないか確認するように声をかける。


「あたいは6レベル。予防接種3取って終わりかな?」

「あ、私8レベルになってます。ランニングマン2取って……あと何しましょう?」


 桐山と工藤が自分にしか見えないインターフェイス画面を展開し、レベルアップ作業を行う。

 工藤は予防接種を一気に最大値まで習得し、桐山はランニングマンを2レベル上げて最大値に。のこり1レベル分のスキルパークを何にしようか悩んでいた。


「深山さん、何がいいですかねえ?」

「そうだな……オートプロテクターのジャバウォックの性能を生かすならウィザードだろう。それかプロテクターマスターでオートプロテクターの防御力を上げるかだな」


 桐山は残り1レベル分のスキルパークを決めれず、俺に聞いてくる。

 スキルパーク:ウィザードは元々はハッキング系のパークだったが、DLCで電子戦オートプロテクターが登場してハッキングだけでなく、ジャミングなどにも効果上昇するようになった。

 プロテクターマスターは習得すればオートプロテクターの防御力上昇、装甲の損傷率が低下するスキルパークだ


 これがゲーム内の話ならプレイスタイルから決めたり、スキルパークのリセットができるから好きにやれと言える。

 だがここは現実。スキルパーク1つが桐山や俺達の命を助けたりすることもある。


「そうですねえ……じゃあ、ウィザードを取ります」


 桐山は顎に人差し指を当ててしばし考えた後、ウィザードを1レベル習得することに決めた。


「さて、レベルアップ作業終えた所で今後の課題を話し合うぞ」


 桐山と工藤、二人のレベルアップが終わると俺はベッドに腰を掛けて今後について話し合いを始める。

 桐山は自分のベッドに、工藤は新たに設置した椅子に座って俺の話を待つ。


「浄水器、蟻の巣のクエストを終えたが……今の所元の世界に帰れる様子も何もない。メインクエスト全部クリアしないといけないかもしれないが……下手をすればすべてのクエストクリアするのに年単位に時間がかかるかもしれない」

「えー、あたいメインクエスト2週間ちょいでクリアしたし」


 メインクエストすべてクリアするのに下手をすれば年単位の年月が必要かもしれないと伝えると工藤はゲーム感覚でクリアした時の話をする。


「それは飲食、睡眠、疲労も何もないゲームでの話だ。ここはエンドレスホライズが現実となった世界だと思え。俺達は飢える、渇く、眠る、疲れる。工藤、お前ノース・ダイナーからここまで来るのにどれくらいかかった? ゲームなら3分もかからない距離じゃなかったか?」

「あ……」


 俺が指摘すれば工藤も理解してくれたのか黙る。


「桐山には前にも話したかもしれないが、最悪帰れずこの世界で暮らす可能性がある。可能な限りは元の世界に戻る方法を探すが、駄目だった場合を考えて……このノース・サンズに俺達の拠点を作ろうと思う」

「拠点をですか?」


 少し前から考え始めていたノース・サンズに拠点を作る計画を二人に話す。


「ああ、ノース・サンズの住人達のほとんどは地下鉄構内に住んでいる。地上部分はほとんど手つかずだ。地上部分の土地を貰って俺達と……ノース・ダイナーのメッセージを見たプレイヤー達が暮らせる拠点を作ろうと思う」

「それいい考えだし! あたいがここに来た時、地上連絡口ぐらいしかなくてすっごい不安だったし」


 ノース・サンズの地上部に拠点を作る大まかな話をすれば工藤が賛成してくれる。


「この話は発電所を再開させたら打診してみようと思う」

「発電所……あっ! そういうクエストありましたね!」

「あー……あのクエストめんどくさかったし……でも電気は欲しいし」


 発電所を再開するクエスト、正規のルートで進めると色々と複雑な手順をクリアしないといけない為めんどくさがるプレイヤーが多い。

 ショートカットする方法もちゃんとあり、チートMODを入れてる俺はそのショートカットを選択することができる。


「蟻の巣の報酬を貰ったら提案してみるか」

「そうしましょう」

「賛成だし」


 次に挑戦するクエストが決まった。

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