第18話 新たなプレイヤーとクエスト:アリの巣退治4


「地上部分は片付いたか?」


 周囲を探索し、他に生きているジャイアントアントがいないか確認すると、巣の入り口に蛍光スティックを投げ込み、中を覗き込む。


「かなり深いですね」

「でも、ここ潜っていかないとカードキー手に入らないし、中にいる蟻倒さないとクエストもクリアできないっしょ?」


 同じように巣穴を覗き込んでいた桐山と工藤が中でどう戦うか話し合う。


「別に中に入って倒す必要はない」

「え? じゃあどうするんです?」

「深山っち、何かいい考えでもあるの?」


 俺は無限バックパックから目的の物を取り出しながらそう言うと、桐山と工藤が興味津々に俺の行動を見守る。


 取り出したのは塩素系洗剤と酸性洗剤のドラム缶サイズの業務用洗剤


「深山ッち、洗剤なんか取り出して掃除でもすんの?」

「塩素系洗剤と酸性洗剤……深山さん、まさかっ!?」


 工藤は俺が出した洗剤を見て掃除でもするのかと言い、桐山は俺がやろうとしていることが分かったようだ。


「塩素ガス作るぞ、離れてろ」


 ドラム缶の蓋を開けて巣穴に洗剤を流し込む。

 塩素系ガスは空気よりも重いので竪穴式の巣穴の最深部までガスが行き届く。


「塩素系ガスってなに? 殺虫剤みたいに効くの?」

「ああ、塩素系ガスは人類で初めて使われた化学兵器ともいわれていてな、ガスを吸引すると呼吸器や粘膜に炎症を起こし、呼吸困難になる」

「虫には気門と呼ばれる、腹部に空いた穴から呼吸しており、ガスを吸うと一気に全身に回るんです。あと虫に中性洗剤をかけるのも洗剤で気門が塞がれて窒息死するからなんですよ」


 工藤は塩素系ガスをアリの巣に流し込む意味が分からず、俺と桐山に質問する。

 俺はガスについて説明すると虫については桐山が説明する。


「へぇ~、さすが桐山っちは 聖パルセーナ女学園通ってるだけあるし」

「工藤さん聞いてくださいよ、深山さんは 聖パルセーナ女学園知らないっていうんですよ!」

「マジで? マジありえないし!」


 俺と桐山のガスと虫について解説を聞いた工藤は感心した声を漏らし、桐山に対して 聖パルセーナ女学園通ってるだけあると褒める。

 桐山は俺が 聖パルセーナ女学園について知らないことを非難するように工藤に知らせ、工藤は俺が 聖パルセーナ女学園という学校を知らないことが信じられないらしい。


「そうは言っても知らない物は知らない」


 桐山と工藤、二人の非難を受けながら俺は洗剤を巣穴に流し込み、ガスが充満するのを待つ。


「よし、こっちに着替えて巣穴に入るぞ」


 ガスを注入して数時間経過したのを確認して無限バックパックから自給式呼吸器内装形気密服を人数分取り出す。


「あ、これ映画とかで見たことあるし! ウィルスとか入れない奴っしょ?」

「今回は巣穴に充満している塩素系ガスを吸わないためにだ」

「ガスマスクじゃダメなんです? これ動きにくいような」


 気密服を見た工藤が映画とかで見たことがあるとはしゃぎながら着替え始める。

 桐山は気密服の動きにくさを指摘してガスマスクだけで十分ではと俺に伝えてくる。


「残念、ガスマスクだけで中に入ったら死ぬぞ」

「え? ガスマスクつけているのに? なんで?」


 ガスマスクだけだと死ぬぞと答えると、桐山は何でと聞き返す。


「塩素系ガスは濃度によっては皮膚に付着すると激しい炎症を起こす。素人は勘違いしやすいが、ガスマスクはあくまでフィルターで空気中の毒などをろ過するだけで、空気よりも重い塩素系ガスが充満した場所に入ったら酸素ボンベが付いたタイプじゃないと空気がなくて窒息死するぞ。ほれ、着替え終わったら出発するぞ」


 気密服に着替えながら理由を述べて巣穴へと足を踏み入れる。


「あ、待ってくださいよ」

「深山ッち、これ動きにくい」


 桐山と工藤も遅れて巣穴へと足を踏み入れる。エロMODの影響で工藤の気密服だけなぜか体のラインが強調されるようになっていた。


 蟻の巣は緩やかな坂道になっており、所々淡い光を発光するキノコが生えている。

 発光キノコのおかげで薄暗いが光源を確保でき、アリの巣内を進んでいく。

 巣の中にいたアリたちは全員塩素系ガスによって死滅しており、生き残っている個体は見当たらない。


「あ! カードキー見っけ!」


 蟻の巣内を探索していると、地上に出て行った蟻が拾ってきたガラクタを集める部屋に辿り着く。

 工藤がガラクタの山から拠点に入る為のカードキーを見つけ、高らかにカードキーを掲げる。


「よし、目的の1つは達成できたな。後は巣を見回って残党がいないことを確認したら工藤の拠点に向かうぞ」

「はい! 早く地上に戻ってこれ脱ぎたいです。暑くてたまりません」

「あたいも早く脱ぎたいし」


 密閉服は外部の空気を遮断するようにできている。つまり、内部の空気も外には漏れにくく、熱がこもりやすい。

 二人の文句を聞きながら俺は蟻の巣を探索し、蟻たちの死骸を確認すれば肉を採取する。


「卵か……こいつも駆除しておかないとな」


 バックパックからモトトフカクテルを取り出すと火をつけて卵に向かって投げる。

 ガラス瓶が割れて中の液体が広がると引火し、卵を焼き尽くしていく。

 それを数度繰り返し、蟻の全滅を確認すると最後に入り口を爆破して崩壊させ、巣穴を埋める。


「あっつーい! 深山さん、お水ください!」

「うへぇ、汗だくだし。シャワー浴びたいし!」


 巣穴から出ると桐山と工藤が気密服を脱ぎ捨て、暑いと連呼しながら俺が手渡したミネラルウォーターをごくごくと飲む。


「それじゃあ、工藤の拠点見てみようか」


 気密服を脱ぎ終えて休憩を終えると、工藤がインストールした完成拠点MODの拠点に入ることにする。

 地下鉄構内の頑丈そうなコンクリートの壁の中央に不自然な扉があり、カードキーを読み込むリーダーがある。


「おっけー! 開けゴルゴンゾーラ!」

「そこは開けゴマじゃ?」


 どこからか電源を引いているようでカードキーリーダーは点滅しており、工藤がカードキーを通して磁気を読み込ませると、電子ロックの開錠音と共に施錠の赤ランプが開錠の緑ランプに代わる。


「へえ、こうなっているんだ」


 扉を開けると、工藤の拠点はむき出しのコンクリート壁の倉庫を居住区に改装したような内装で人1人が住むには十二分なスペースと物資があった。


「深山ッち、こっちこっち!」


 居住スペースを抜けると巨大な空間が広がっており、保管している品々が並べられた棚の数々。天井には相応の数のライト。


 その品揃えたるや、拳銃からミサイルランチャー、なんでもござれの品ぞろえ。

 実弾系のみならず、光学系、近接用の刃物や鈍器、更には爆発物に棚に陳列されてはいないが壁際には、各種弾薬の入った弾薬箱が置かれている。

 人員さえ揃えればここの物資を使ってメガシティとも戦争ができそうだ。 


「おいおい……オートプロテクターまで揃っているのかよ」


 オートプロテクターとは公式のDLCによって追加されたパワードスーツの事でメインクエストクリアボーナスで手に入る最強装備の一つだ。


 俺は今回インストールした一部のMODとオートプロテクターDLCが競合しあい、泣く泣くDLCを諦めた。


 専用の整備設備であるオートステーションによって全種類のオートプロテクターが陳列されていた。


「深山っちと桐山ッちはどれにする? あたいはこれ一択!」


 工藤が選んだのは平安時代の侍が着ていた大鎧と呼ばれる武者鎧をベースにしたオートプロテクターで、顔の部分が鬼面になっている鬼神童子。

 格闘戦に特化したオートプロテクターで右腕にパイルバンカー、左腕に単分子クローがついており短時間だけ着用者の筋力を二倍にする。


「いいのか?」

「だって、あたい一人じゃ一個だけしか選べないし、深山ッち達がいないとここまで来れなかったし」


 持って行っていいかと聞くと工藤は何当たり前のこと言っているのと言いたげに返す。


「私は何がいいですかねえ?」

「そうだな……このジャバウォックを装着してくれると嬉しいかな」


 桐山はどのオートプロテクターがいいかと聞いてきたので、十字型モノアイと背中に積んだアンテナが特徴のオートプロテクター【ジャバウォック】を指差す。


 ジャバウォックは電子戦、戦術支援に特化したオートプロテクターで、ゲームでは着用して突っ立ってるだけで味方の攻撃の命中率の上昇やミニマップの敵感知範囲増強された。


「じゃあ、それで」

「深山ッちは?」

「おれはこのプレデターを」


 俺が選んだのは漆黒に染め上げられたオートプロテクターの肩に手を置く。

 軍用野戦型オートプロテクターの後継機という設定で癖がなく使いやすいオートプロテクターだ。


「着用の仕方は分かるよね」

「専用のエネルギーコアを入れて背中のバルブを回すんだろ」


 棚に大量に置いてあったエネルギーコアをオートプロテクターの背後にあるソケットに差し込み、背中についているバルブを回すとオートプロテクターの背面装甲が開き、中に入り込めるようになる。


 着ぐるみの中に入り込むような要領でオートプロテクターを装着すると、自動的にオートプロテクターが収縮して体に密着し、背面装甲が閉じる。


『システム起動します』


 電子音声と同時にカメラアイが起動し、周囲の風景がカメラ越しに見える。

 視界の下の方には計器が表示され、エネルギーの残量やオートプロテクターの装甲が正常であると知らせてくる。


『フットロック解除します』


 オートプロテクターの足がオートステーションにロックされていたが、ロックが解除され歩けるようになる。


「よし、問題なく起動できたな」


 オートステーションから降りて、異常がないか体を動かすが特に問題がない


「うわぁ……全然着ている感覚ないです」

「あたいも問題なし! むしろ暴れたいぐらいだし」

「よし、装備を回収したらノース・サンズへ戻るぞ」


 新しい装備を手に入れた俺達は回収作業を終えるとノース・サンズへ戻ることにした。

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