第13話 クエスト:浄水器修理 3


「まずは皆さんが無事に帰って来てくれてよかったです」


 工場跡から壊れた浄水器の修理に必要な部品を手に入れて戻ってきたことを駅長室にいた首長のマリアが笑顔で出迎えてくれる。


「首長、修理部品手に入った。修理してくる」


 セイは修理部品が入ったカバンをマリアに見せると、自分の用事は終わったとばかりに駅長室から出ていく。


「ごめんなさい、あの子機械いじりが趣味で」

「あー……車に乗せた時も車内を色々見まわしてたなあ」

「車のマニュアル渡したら食い入るように見てましたもんねえ」


 マリアが苦笑しながら俺達に謝罪する。

 出発時にセイは多目的機動戦闘車についてあれこれ聞いてきたし、マニュアルを読んでいる時に桐山が話しかけたら怒っていたな。


「それから、ジェーンから報告がありましたが……工場跡を爆破したとか?」


 ジェーンから工場跡地の爆破の報告を聞いていたのかマリアは慎重に言葉を選ぶようなそぶりで爆破した理由を聞いてくる。


「ああ、工場跡にあった下水処理場の中にサブクアンの巣ができていた。かなりの数の卵が産みつけられていたし、あれが全部孵るとノース・サンズが洒落にならないと思ったからな、自己判断で処理させてもらった。何か不都合でもあったか?」

「いっ、いえ……こちらとしましては脅威を取り除いていただいたので大変ありがたいのですが……正直お支払いできる対価がありません」


 俺が爆破した理由を述べて、不都合でもあったかと言うと、マリアは慌てた様子で頭を下げて礼を述べて、今回の行動に対する対価が支払えないと暴露する。


「んじゃま、あの部屋の永久使用権でどうだ?」

「それで……よいなら、そうしますが……正直対価に見合っているとは……」


 巣の爆破の報酬に寝泊まりに用意された部屋の永久使用権を要求するとマリアは苦笑する。


「しばらくは世話になる予定だしな、まあこっちがそれでいいって言っているんだ。とりあえず最初に契約した修理部品回収分の300チップの報酬だけはちゃんと貰おうか」

「ええ、それはもう用意しています」


 本来の目的だった修理部品回収分の報酬を要求するとマリアは近くにいたジェーンに目くばせし、ジェーンが100という数字が刻まれたカジノチップを三枚渡してくる。


「確かに貰ったぜ。ほれ」

「え?」


 チップを受け取り、そのうち一枚を桐山に渡す。

 桐山はいきなりチップを渡されて驚いている。


「お前の取り分だ。女には色々必要なものがあるだろう? 下着とか俺に買わせる気か?」

「え? あ、うん……貰っておくね……というか深山さん、もっとデリカシーとか気を付けた方がいいですよ」


 桐山はチップをポケットにしまう。


「さて、他に用事がないなら部屋に帰らせてもらうよ……」

「ええ、ありがとうございます。これでまた綺麗な水が皆さんに行き届きます」


 部屋に戻ることを伝えるとマリアはもう一度頭を下げて仕事を受けたことにお礼を述べる。


「他にも仕事があったら言ってくれ。じゃあな」

「お疲れさまでした」


 俺と桐山が駅長室を出ると、駅構内がざわついているのが分かる。

 何事かと様子を窺っていると、駅長室に向かってノース・サンズの住民が走ってくる。


「首長! 浄水器が直りました! 正常に稼働しています!!」


 セイが浄水器の修理を終えたらしく、それを知らせにこの住民は走ってきたようだった。

 あてがわれた部屋に戻る途中、あちこちで浄水器が直ったことを喜ぶ住民たちで溢れており、ノース・サンズは一種のお祭りムードだった。


「おい! 早速きれいな水が配布されるらしいぞ!!」


 住人の一人がそう叫ぶと、住人たちが我先にと水を貰いに走り出す。


「すっ……凄いですね……」

「日本にいたら実感ないかもな……綺麗な水が飲めるのがどれだけ凄い事かってのは」


 水が豊富な日本にいた桐山は水一つに大騒ぎするノース・サンズの住人達を見て引き気味である。

 海外のインフラ整備が未熟な場所で働いたことがある俺からすれば綺麗な水が飲めるということがどういうことなのか、彼らの喜びようはよく理解できる。


「あ……深山さん、私レベルアップしました」


 あてがわれた部屋に辿り着くと唐突に桐山がレベルアップしたと報告してくる。


「いつの間に?」

「えっと……さっきの浄水器の修理が終わったって報告が来た時に」

「クエストが終了したことによる経験値だな。2レベルになったか?」


 いつレベルアップしたのかと桐山に聞くと、桐山は駅長室を出てノース・サンズの住人がマリアに浄水器の修理が終わったことを報告したころだと告げる。


「えっと……あれ? 5レベルになっています」

「は?」


 桐山が自身のステータス画面を確認する仕草をしていると、5レベルになったと報告してくる。


「誰かが経験値増加MODでも入れたか?」

「いやでも……私レベルアップに必要な経験値倍増MOD入れてるんですよ?」


 MODの中にクエスト終了時や敵を倒した時に得られる経験値を倍増させるMODがある。

 まだ見ぬ第三の異世界トリップしてきたプレイヤーが導入したMODの影響かと思ったが、レベルアップに必要な経験値が倍必要になるMODを入れている桐山の急激なレベルアップの説明がつかない。


「……もしかして……」

「深山さん、何か心当たりが?」


 ふと頭に仮説が過る。


「仮説だが……あの下水処理場で大量のサブクアンや巣を破壊しただろう? もしかしたらその時の経験値が入っているかもしれない」

「え? で、でも……私何もしていませんよ? 全部深山さんのタレットと爆弾で……」

「一種のチームを組んだ状態なのかもしれない。ゲームでもコンパニオンを連れて冒険すれば一緒にレベルアップしただろう?」


 エンドレスホライズンは基本は三人称型FPS風RPGで主人公一人で旅をする。

 道中コンパニオンという仲間になるNPCがおり、一緒に冒険すると経験値が共有されてレベルアップするシステムになっていた。


「うーん……そういわれるとなんとなく納得しますねえ」

「調べようにもどうすればいいかわからないがな。とりあえずスキルパーク覚えられるか確認してくれ」

「あ、はい」


 エンドレスホライズンではレベルアップすると能力値を上げるか、スキルパークという特殊能力を得るかどちらか一つを選べる。

 桐山は、自分にしか見えないステータス画面をスライドさせてスキルパークが取れるか確認している。


「4つ取得することができますけど……何がいいですかねえ?」

「予防接種を3レベルまで上げてくれ。ゲームなら病気は無視できるが、この世界ではどうなるかわからん」


 スキルパーク:予防接種は飲食やクリーチャの攻撃、様々な要因から病気になる可能性を低下させるスキルパークで、最大値の3レベルになると病気無効になる。

 ゲームでは病気は一種のデバフで一時的に能力値が下がったり、ヒットポイントの最大値が下がったり、視覚系の病気を患うとモニターの画質が悪くなって物がよく見えなくなったりする。


 この現実世界となったエンドレスホライズンの世界だと病気は致命的になるかもしれない。

 ゲームではグラフィックの関係で外見が変わることはなかったが、この世界だと病気の影響で外見が変わる可能性だってある。


「あっ! そ、そうだねっ! 絶対取る!!」


 桐山はこの世界で病気がどう作用するかわからないと聞くと慌てた様子で予防接種のスキルパークを最大値まで習得していく。


「んー……最大値まで上げたけど……体には特に変化ないね……」

「本当にスキルパークが作用しているか試すわけにもいかないしなあ……」


 習得を終えると桐山は自分の体に何か変化が起きていないか確認する。

 効果があるかどうか調べるには病気になるのが一番手っ取り早いがこの世界ではリスクが高すぎる。


「あと1つスキルパーク取れるけど何がいいかな?」

「ふーむ……俺個人としてはランニングマンを取ってほしい。今日みたいな敵から逃げる時いつもお前を抱き抱えられるかわからない」


 桐山は残ったスキルパーク枠を何にするか聞いてくる。これが普通のゲームでの話なら好きにしろと言えるが、ここは現実。スキルパーク1つが首皮一枚命を繋いでくれるかもしれない。

 俺はスキルパーク:ランニングマンを桐山に勧める。ランニングマンは取得者の走る速度の上昇とスタミナの消費を少し抑えてくれる。

 最大値まで上げれば原付バイクぐらいの速度で長距離走ができる。


「じゃあそれを取るね」


 桐山はインターフェイス画面を操作してランニングマンのスキルパークを取得する。これも同じく実際に走ってみないと適用されているかわからないだろう。


「とりあえず食事を済ませたら休むぞ、ほれ!」


 バックパックからまともな食料を取り出すと桐山に投げ渡す。


「ありがとう、ここの人たちには悪いけど……あの料理はちょっと……」

「絶対住人たちの前で言うなよ」


俺は食事をとる桐山に注意した。

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