第12話 クエスト:浄水器修理 2


「反撃って……」


 セイは絶句しながら俺と今にも破られそうな窓をあわただしく交互に見る。


「射線よし、展開!!」


 俺の目にだけ見える設置実行ボタンを押すと、制御室に横一列に並ぶマシンガンターレットが出現する。

 マシンガンターレットが出現すると同時に制御室の窓ガラスが破壊され、大量のサブクアンが制御室になだれ込もうとする。


 下水処理場に響く轟音。

 並列されたマシンガンターレットが制御室になだれ込もうとするサブクアンを敵と認識し、マシンガンターレットが火を噴く。

 マシンガンターレットから12.7mmの弾丸が1,200発/分の速度で吐き出され、制御室へと雪崩れ込んできたサブクアン達が銃弾の雨霰をまともに浴びる。


 あまりの轟音に一時的に聴覚が不調になり、キーンという耳鳴りが響く。

 制御室に殺到していたサブクアン達は肉塊へと変貌し、後方の下水装置や壁に大量の弾痕ができていた。


「ぐあ……駆動音を抑えるMODは発射音には適用されなかったか……」


 大量の弾丸が吐き出されたことで排熱と硝煙が制御室内を包む。


「いっ……今のは何? あなたは一体何者?」


 耳を抑えふらつきながらセイは怯えた様子で俺を見る。


「流れの傭兵。こいつはとっておきの切り札さ……今回は完全に赤字だな……」


 赤字覚悟の切り札を切ったという体でセイに説明するがセイは疑いの目を向けている。


「みっ……耳が壊れるかと思いました……まだキンキン言ってます……」


 聴覚が戻ってきた桐山も両耳を抑えてふらふらしている。


「脅威は去ったし、修理に使える部品探さないか?」

「貴方は……敵じゃ……ないよね……」

「あの……なんでセイちゃん、怯えているんですか?」


 俺がセイに手を差し向けると、セイはビクッと身を強張らせ後ずさる。

 先ほどまで耳が聞こえていなかった桐山は状況がつかめずおろおろしている。


「俺の切り札が理解できなくて怖いんだとさ」


 そう言って横一列に並ぶマシンガンターレットを指さすと桐山は何でと言いたげに小首をかしげる。

 桐山からすればこれがゲームの能力だと理解しているから怯えることはない。

 だが、この世界の住人であるセイからすれば何もない場所からいきなり兵器を生み出せる人間がいるということだ。


「セイちゃん、深山さんは怖くないよ。見ず知らずの私を助けてくれたいい人だよ」

「今は………信じる……貴方がいないと、ここから出れない……皆救えない」


 桐山はセイに俺は怖くないと語り掛ける。

 セイはしばし無言で俺と桐山を交互に見てそう呟いた。


「まだ生き残りがいるかもしれないから離れるなよ」


 アサルトライフルを構えて制御室を出ると周囲を警戒しながら修理部品がある機械の場所まで行く。


「ここなら部品があるかも……」

「よし、俺達が護るから、セイは部品を回収してくれ。桐山、そっち側を警戒してくれ」

「任せて!」


 俺と桐山が周囲を警戒している間、セイは修理に使えそうな部品を回収していく。


「終わった」

「よし、撤収……の前に」


 セイが集落の壊れた浄水装置を修理するのに必要な部品の回収を終える。

 あとは帰るだけだが、俺はバックパックから大量のC4爆弾を取り出す。


「深山さん、何する気です?」

「ここを破壊する。この産卵場を放置したら、下手すればノース・サンズの集落が壊滅する可能性が出てくる」


 見渡す限りの卵の山。これが全部孵化すれば千は超えるサブクアンが誕生してしまう。

 そしてそんな大量のサブクアンの食料を維持できる餌場がどこかと言えば、ノース・サンズの集落だ。


 ゲームではこの下水処理場はサブクアンの産卵場所ではなかった。

 ゲームと違う行動が何を起こすかわからないが、問題が起きるのが分かっていて放置するのは俺の性分が許さない。


「深山さん、私も手伝う」

「どこにどう設置したらいいか、わかるのか?」

「……深山さんは分かるんですか?」


 桐山が手伝いを申し出る。

 申し出はありがたいが、素人が適当に爆発物を置いても危険なだけだ。

 俺なりにやんわりとした言葉を選んで断ったつもりだが、桐山は頬を膨らまして不機嫌になる。


「仕事柄爆発物には詳しくてな」

「深山さん、サラリーマンですね? サラリーマンが爆発物に詳しくなる仕事って何ですか!?」

「そういう仕事だよ」


 ぼそりと爆発物に詳しいと呟くと桐山は食いついてくる。

 どういう仕事だといわれてもそういう仕事だったとしか言いようがない。


「絶対深山さんはサリーマンじゃないと思います」

「元の世界に戻れたら俺がサラリーマンだって証明してやるよ……設置完了、撤収するぞ」

「………」


 C4を設置し終えると下水処理場から脱出する。

 地上に出るまでセイは終始無言だった。


「全員車に戻れ、爆発させるぞ」


 下水処理場を脱出すると多目的機動戦闘車に乗り込み、工場跡地から離れる。

 ある程度の距離まで離れると俺は爆破スイッチを入れる。


 轟音と共に下水処理場が崩落し瓦礫になる。粉塵やコンクリートの欠片が四方に飛び、かろうじて原型を止めていた工場の廃墟が爆破の余波で崩壊する。


「深山、一つだけ言っておく」

「ん? なんだ?」


 爆破の様子を車載カメラで確認しているとずっと黙り込んでいたセイが口を開く。


「ノース・サンズが依頼したのは部品回収のみ。サブクアンの巣の爆破は契約外、報酬は出ない」

「あー……アフターケアの一種だと思ってくれ」


 セイはサブクアンの巣の爆破は俺が勝手にやったことでノース・サンズは関与していないと宣言する。

 巣を爆破したことで事前に脅威を追い払ったから報酬をよこせといわれるとでも思ったのだろう。


「報酬は求めないのか?」

「求めたらくれるのか?」

「……首長には知らせる。払うかは首長が判断する。だが我々は頼んでいない」


 ノース・サンズが巣の排除は依頼していないとセイは釘をさすように伝える。


 ノース・サンズの集落に戻る頃には空は夕日に染まり始めており、集落のゲートには人々が集まっていた。


「セイは無事かっ!?」

「ん、ちゃんと部品とってきた」

「……無事でよかった」


 俺達の車を見つけるとジェーンが駆け寄ってくる。

 セイが下車して部品を積めた鞄をジェーンに見せるが、ジェーンは鞄を無視してセイを抱きしめる。


「随分と人が集まっているが……何かあったのか?」

「大ありだっ! お前たちが向かった工場跡地で爆発があったんだぞ! 心配してたんだぞ!!」

「あっ……」


 あわただしい様子に何かあったかとジェーンに聞くと、逆切れ気味にジェーンは工場跡地が突如爆発を起こしたと言い。修理部品を探しに工場跡地に行っていた俺達を心配していたらしい。

 ジェーンの報告を聞いて桐山があっ……、と声を漏らす


「……あの爆発に心当たりあるのか?」

「あ、あははは……えーっと……深山さん、説明任せました!!」


 桐山の漏らした声に気づいたジェーンがジト目で桐山を睨む。

 桐山は最初笑ってごまかそうとするが、ジェーンは追求を諦める様子がないとわかると俺の後ろに隠れた。


「深山、あの爆発は何だ?」

「部品を取りに工場跡地の下水処理場に行ったら、サブクアンの巣になっていた。C4爆薬を持ってたので爆破処理してきた」

「……は?」


 ありのままに報告したらジェーンは目が点になる。


「セイ……」

「ん、本当。工場跡地の建物が巣になってた」


 ジェーンはセイの方に振り向き、セイは一度こくんと頷くと俺の報告が事実であると伝える。


 ジェーンはいったん状況を整理しようとちょっと待てと手でジェスチャーして、目を閉じて俺とセイの言葉を思い出して再確認している。


「あたしの聞き間違いでないなら、工場跡にサブクアンの巣があって、深山がたまたま持っていたC4で巣を吹き飛ばした、OK?」

「ああ、あってるぞ」

「ん、あってる」

「ジーザス……」


 ジェーンは再確認するようにゆっくりとした口調でなぜ工場跡地で爆発が起きたか聞き返す。

 俺とセイが肯定するとジェーンはテンガロンハットを深くかぶって顔を隠し、小さくジーザスと呟いた。


「あたしじゃ対処できない……首長に報告してくれ。とりあえず、無事に帰ってきてくれてよかったよ、おかえり」

「ああ、ただいま」


 俺達は無事クエストクリアできたようだ。

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