第11話 クエスト:浄水器修理 1


「ねえ……貴方達、本当に流れの傭兵?」


 翌朝、多目的機動戦闘車の中でラミネートアーマーに着替え、武装した姿で下車してきた俺と桐山の姿を見てジェーンが怪訝な表情で述べる。


「見ての通りごく普通の流れの傭兵だが?」

「ごめん、普通の流れの傭兵ってのは、そんな砲塔の付いた奇麗な車両やメガシティの精鋭部隊が着ているような奇麗なアーマーや状態の良い武器なんて持たないから」


 冗談交じりに普通の傭兵だと返したら、ジェーンに真顔で突っ込まれた。

 防衛隊および、食料調達部隊のメンバーもジェーンに同意するようにうんうんと激しく頷いていた。


「頼りない傭兵よりましだろ? こんな装備をしている俺達ならセイを預けても心配ないだろ?」

「……セイはあたしにとって妹みたいな子なんだ……あたし個人としちゃ修理部品よりセイの命の方が大事なんだ……」

「なるべく考慮するよ」


 ジェーンと話していると準備を終えたセイが地上連絡口の階段を上ってやってくる。

 サブクアンの皮と鱗で作ったレザースケイルアーマーにポンチョ、右手に小型の二連式ショットガンを持ち、たすき掛けの鞄にはドライバーなどの工具類が見えていた。


「よし、出発するぞ、乗れ」

「はーい、セイちゃんよろしくね」

「ん」


 多目的機動戦闘車の後部ハッチを開けて桐山とセイに搭乗するように指示する。


「これは何? こっちは? これ分解していい?」


 多目的機動戦闘車に搭乗したセイは目を輝かせて、車内に搭載している機械類を指さして質問したり、分解していいか聞いてくる。


「こいつに車両のスペックが書かれているから読んでおけ。あと分解は禁止だ」


 研究所で拾った多目的機動戦闘車のマニュアルをセイに手渡し、俺は運転に入る。

 セイは穴が開くほどにマニュアルを凝視して読んでいた。


「セイちゃんは機械いじりが好きなのかな?」

「………」

「えーっと……ノース・サンズではどんな暮らしてるの?」

「マニュアル読んでる、邪魔しないで」

「あ、ごめんね……あははは……はぁ」


 桐山はセイとコミュニケーションを取ろうとするが、セイはマニュアルを読むのに夢中で逆に話しかけないでと桐山を拒絶する。

 桐山は申し訳なさそうに謝ると工場跡地に到着するまで黙っておくことにしたようだ。


 車を走らせて1時間、目的の工場跡地につく。

 核戦争の影響と経年劣化でほとんどの建物が朽ち果てていたが、まだかろうじて工場の原型を残している所もあった。


「まず下水処理場を調べるぞ。こういった工場は工場排水を浄水してから排水することが義務付けられていたはずだ」

「ん、指示に従う」


 俺はもっともらしいことを言ってクエストの目的地である下水処理場へ向かう。

 下水処理場は川に面した場所にあり、建物もほとんど損壊がない状態で原形を止めていた。


「俺が先頭を行く。俺の後ろをセイ、セイの後ろを守る様に桐山がついてくれ。極力戦闘は避けるぞ」

「ん」

「任せてください」


 ポジションを決めると車から降り、下水処理場の入り口に近づく。


「鍵が掛かっているが……ふんっ!」


 入り口のドアを確認すると鍵が掛かっていたが、筋力で強引に開ける。

 電気は完全に止まっているのか、建物内は真っ暗だ。


 ガンライトを点灯させ、中腰の体勢で建物内へと入る。


「クリアっ! 入ってきていいぞ」


 入り口付近を探索して敵影がないことを確認するとセイと桐山の二人を呼ぶ。

 セイは足早に入ってきて、桐山は小声でお邪魔しますと言いながらおっかなびっくりな足取りでやってくる。


「……この付近にはない。もっと奥かも」


 セイが入り口付近をぐるりと見まわして浄水器を修理するのに必要な部品がないと伝えてくる。

 ただ何か別の事に使えるのかセイは下水処理場にある廃材や機械の配電盤を開けて基盤や配線を回収していく。


「よし、先行する。合図するまで二人は待機だ」


 二人に待機するように指示して俺は先行する。

 壁や障害物を利用しながらカバーリングに使い、ゆっくりと進み、周囲を確認して安全を確保してから二人に来るように指示する。


「敵がいないな……」


 ゲームではこの下水処理場には放射能によって狂暴化したネズミや巨大ゴキブリが出てきた。

 だが今の所そういったクリーチャーが出てくる様子もなく、床などにもクリーチャーの糞や捕食された死骸も見つからない。


「んっ!」


 セイが俺の肩を叩いて指さす。

 セイが指さす方向には工場汚染水を浄水する浄水層エリアに続く道案内の看板があった。


「このまま何事もなく終わるといいですねえ」

「それが一番なんだがな……残念ながらそうはいかない」


 浄水層エリアへ向かう途中、桐山が何事もないようにと願うが、残念ながらそれはフラグ発言だったようだ。

 看板の案内通りに進むと浄水層エリアの上を通るキャットウォークの通路に辿り着く。

 キャットウォークから下の浄水層エリアを覗き込むと、浄水層エリアはサブクアンの巣ができており、多数のサブクアンが徘徊している。


「こんなところに……」

「川から排水溝を這い上って巣を作ったってとこか? 卵を産むには安全だもんな、ここ」


 川に続く排水溝の入り口からサブクアンが出入りしていることから、そこが外部との出入り口になっていることが簡単に予想できる。


 更に浄水層エリアの周囲をよく見まわせば、下水処理装置に巻き付けるように魚卵のようなものが粘液と共に大量に張り付いており、この下水処理場がサブクアンの産卵場も兼ねていることが分かる。


「……ここは危険、諦めて別の場所を探す」


 セイはサブクアンの数を見て探索を諦めることを提案する。


「……ふむ……」


 これがゲームなら高い位置から手榴弾など爆発物を投擲してサブクアンを排除するという方法がとれる。

 だがここは現実。下手に爆発物を使えば施設を破壊して目的物である修理部品が手に入らない可能性もある。

 ゲームと違ってここにクエストの目的物が必ずあるとは限らない。


「よし、一旦引くぞ」

「ん」

「わかりま———」


 元の道に戻ろうとした時、老朽化していたのかバキンという金属が折れる音と同時にキャットウォークを支える支柱の一つが折れる。

 一つの支柱が折れると残りの支柱も連鎖するようにバキバキバキッと音を立てて崩れ折れ、キャットウォークが滑り台のように傾く。


「きゃあああーっ!?」

「うわああああっ!!」

「俺にしっかり捕まってろ!!」


 とっさに二人を抱き寄せて、支柱が折れて滑り台になったキャットウォークを滑り、落下に備える。

 キャットウォークから浄水層エリアの床まで軽く5mの高さはあったが、落下ダメージ無効MODのおかげで奇麗に着地することができ、足には骨折どころか一切痛みもない。


「逃げるぞっ!」


 キャットウォークの支柱が折れる音、セイと桐山の悲鳴、俺が着地する時の着地音。これだけ盛大に騒音を起こせば、サブクアンも気づかないわけがない。

 俺はセイと桐山、二人を抱き抱えたまま逃走を試みる。


「ギョケエエエエエ!!!」


 仲間に襲撃を知らせる叫び声をあげてサブクアンたちがパイプの支柱や角材を武器に追いかけてくる。


 本来人間二人、しかも片方は重装の鎧を着こんだ女性を抱きかかえてそんなに速度を出して走る事なんて不可能に近い。

 チートMODによって強化された身体能力と加重状態でも走れるといったスキルパーク取得のおかげで俺は追いかけてくるサブクアンとの距離を広げていく。


「制御室に立て籠もるぞ!」


 下水処理装置を操作する制御室に滑り込むとドアを閉めて、制御室内にあったスチール棚などをバリケード替わりにドアに積み上げる。


「このままじゃじり貧」

「どうするんですか深山さん!?」


 セイと桐山は腰が抜けたままのかその場にへたり込んでいる。

 サブクアン達は制御室前に群がり、ドアを叩いたり、窓を叩いたりしている。

 特に窓は今にも破られそうで、サブクアン達が窓を叩くたびにヒビが入り、セイと桐山が悲鳴を上げる。


「無論、ここから反撃だ」


 俺はインターフェイス画面を開き、拠点モードを起動させた。



 

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