第9話 ノース・サンズへ 2


「ノース・サンズってどんな集落だ?」

「北のメガシティ、サンアンジェルスが住みにくいと思った連中が集まって来る集落さ。治安はあたしから見て悪くないね。銃を持ってるのなんてたまに来るトレイダーとその護衛か、さらに珍しい君のような流れの傭兵だけださ。素行の悪い住人は、すぐに追い出してしまうんだ」


 首長からの連絡が来るまでの間、ジェーンからノース・サンズについて情報を聞き出す。

 ゲームでのノース・サンズの設定は知っているつもりだが、この世界のノース・サンズと設定が一緒という保証はない。

 それどころか、俺達異世界人が様々なMODを導入してやってきたことでめちゃくちゃになっている可能性も否定できない。


「メガシティ・サンアンジェルスはどんなとこだ?」

「いち早く核戦争から復興した場所さ。今じゃ首都を自称して、正しい時代に世界を戻すと言ってあちこち拡張政策を続けているよ」


 メガシティ・サンアンジェルスについて聞くとジェーンはそう答える。

 ゲームではメガシティと呼ばれる巨大都市が3つ(DLCを導入することで5つに増える)あり、それぞれが旧時代の失われたテクノロジーなどを確保して豊かな生活を送っている。

 サンアンジェルスは都市代表者が旧世界信奉者(戦前の豊かな時代に戻すことを主張)で自分こそが世界の代表者だと妄執している。


 実際ゲームプレイでサンアンジェルスルートを選んだ時はこの都市代表者にはうんざりした。

 クエストのほとんどがただ働きで、良いところは自分の手柄、悪い事は全部部下に押し付けるというクズ。

 報酬に対して文句を言う選択肢を選んでも崇高な任務に携われて光栄に思えと返してくる。

 重要NPCなので不死属性がついている為、殺すことができず、プレイヤー達はストレスを貯めた。


 後にこの代表者の不死属性を無効化するMODが紹介されると、皆嬉々としてMODを導入し、様々な殺害方法で代表者を殺す動画が上がった。

 ただ、代表を殺すとクエストが進行しなくなってゲームがバグッてしまう。バグッてでも殺したくなるのが都市代表者の特徴ともいえる。


「ノース・サンズは色々問題を抱えているとか?」

「ああ、食糧問題に、北のサンアンジェルス、西のレイダーに、言い出したらきりがない。あんたがちゃんと仕事してくれるなら寝床も食料もきれいな水も用意してくれると思うよ」


『ザザッ……首長の許可、出た。傭兵を首長邸宅に案内』


 10分ほどそうして立ち話をしていると、不意にスピーカーのノイズが聞こえた。

 淡々とした口調で首長の許可が出たから、俺達をノース・サンズの首長邸宅まで案内するようにと伝える。


「お前たちは解体作業が終わったら帰還しろ。あたしは客人を案内する。では、行こうか」


 ジェーンは舞台に指示を飛ばすと俺の右腕に絡みついてくる。

 第三者が見ればジェーンが胸を押し付けるように腕を組んだように見えるが、実際は利き手を封じて即座に行動できないようにしている。


 まあ、役得感もあるので俺はそのまま車へと戻った。


「ずいぶんと話が盛り上がってたみたいですね」


 車に戻ると桐山がすねたように頬を膨らませていた。


「可愛いお嬢ちゃんだね、あんたの娘かい?」

「同郷の同行者だ」

「初めまして、同郷の同行者の桐山と申します」


 桐山は反対側の腕に組み付き、俺を間に挟んでジェーンに自己紹介をする。


「あたしはマーサー・ジェーン・キャナリーよ、よろしくね」

「はーい、よろしくおねがいしまーす」


 ジェーンはウィンクしながら自己紹介し、桐山は棘の籠った声で返事をする。


 ジェーンの案内でノース・サンズの集落へと向かう。

 橋を渡ると道路を封鎖するように廃材で作ったバリゲードがあり、その中央の錆びた金網が開いて、俺達を迎え入れる。


「車はここに停めて頂戴」

「盗ったら承知しないから」

「安心しろ、この車にはセキュリティが搭載されている。登録した人物以外が強引にドアを開けたり車を動かそうとすると黒焦げになるくらいの電流が流れる」


 ジェーンが指定した場所に車を停めると、桐山がジェーンに噛みつくように盗るなと伝える。

 俺は周囲に聞こえるような大きな声でセキュリティ装置が設置してあることを知らせる。


 ゲートの周囲には暗くなり始めた空の下にテーブルと椅子がいくつも並べられ、槍やクロスボウ、鉄パイプを組んで作ったと思われる単発式のパイプ銃を持った男女が腰を下ろしていた。


 金網のフェンスを開けた連中とこいつらは、食料調達部隊ではなく集落の防衛部隊なのだろう。

 防衛隊員は小汚く少し匂うが、若者が好みそうな派手な洋服を着ていた。

 その服装もよく見れば何日も洗濯をしていないように見えて、あちこち敗れていたりほつれが目立っていた。

 

「若い連中が多いんだな」

「防衛部隊は、どうしてもな。でも指揮は、そこの爺様だよ」

「おかえり、ジェーン。客人とは珍しいなあ」


 椅子に座ってテーブルに足を乗せたまま言ったのは、頭髪がほとんど白くなっているオールバックの西洋人の老人だ。

 なぜか黒いスーツにホンブルグと呼ばれる中折れハット姿で、日本刀を抱くように持ってニヤついている。


「失礼のないようにね、グランパ」

「娘っ子はめんこいが、おっぱいが残念だのう」

「ま、まだこれからなんですっ! 成長期なんですっ!」


 グランパと呼ばれた老人は桐山を見ると胸を揉むような仕草をしてセクハラをする。桐山は自分の胸を隠し、成長期だと抗議する。


「男はそれなりに使えそうじゃの、酒場は朝までやっとるし、相手を求めて飲みに来る女達もそれなりにおる。商売女が少ないのが難点じゃが、いい店じゃ。しばらく滞在するなら、ワシが飲みに連れてってやるぞ」

「奢りの酒は大歓迎だ、落ち着いたら甘えさせてもらいますよ」

「うむ」


 破顔して頷く老人には、何とも言えない愛嬌があった。


 ノース・サンズは地下街と地下鉄の駅を再利用した集落だ。


「う……なにここ……臭い……」


 地下連絡通路にはいると汗や大衆の混じった匂いが漂い、桐山は思わず鼻をつまむ。

 地下通路には寝袋が並んでいたり、汚れた洋服がうずたかく積まれたりしているので酷く臭う。


「水は貴重なのか?」

「浄水装置があるんだけどね……最近調子が悪くて節水制限が出ているんだ」

「なるほどね」


 ノース・サンズで受けられるクエストの一つに子の浄水装置を修理するクエストがあった。


「ここに来る途中工場跡地を通らなかったか? あそこに浄水器の部品があると思うんだが……そこに向かわせるほど人員に余裕がないんだ」


 ジェーンはそんなことを言いながら俺達を案内する。

 地下道を抜けると駅の改札のようなゲートの先に、伝令に走ったセイという少女が立っていた。


「首長待ってる。こっち」


 セイはそう言うと案内するように駅の改札を飛び越えて、駅構内へと入っていく。

 駅構内にはバラック小屋が乱立し、煩雑とした雰囲気があった。

 電気は貴重なのか駅構内の明かりは焚火やランタンが多く、少し煙臭い。


「さあさあ、新鮮な地下ネズミの串焼きだよ! 一つたった5チップだ!」

「脳みそキノコのシチューはいかが? 1杯3チップ、5チップくれるなら肉も入れるよ!!」


 駅構内を進むと屋台街にでる。

 あちこちで料理やスカベンジャーが拾ってきたと思われるジャンク品を売っており、呼び込みの声がそこら中に響いている。


 エンドレスホライズンの世界で使われる通貨はカジノのチップ。

 屋台で取引をしている人達もカジノのチップを通貨として扱っていた。


「深山さん、お金ってもってます?」

「MODのおかげで所持金マックスまでな。だが、この金はなるべく使わない」


 桐山が屋台でのやり取りを見て小声でお金を持っているか聞いてくる。

 アイテムMODの一環で所持金も最大値まで持っているが、なるべく使わないと答える。


「え、なんで?」

「ここはゲームと違って現実だ。下手に俺達の金を持ち込むとインフレ、デフレが起きる可能性がある。切羽詰まった時以外は稼いだ金で暮らすぞ」


 持っていいるのに使わないといわれて桐山は理解できないという顔をする。

 急な通貨の増加はインフレデフレを起こす。特に法も秩序も欠落したこの世界じゃインフレデフレが何を起こすかわからない。


「ついたよ、ここが首長の家」


 そんな会話を桐山としていると、このノース・サンズの代表である首長の家に到着する。


 首長の家は駅長室を改造した家だった。

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