第8話 ノース・サンズへ 1


「凄い近未来な車ですねえ……」


 多目的機動戦闘車の車内を物珍しげに見まわる桐山が感嘆の声を漏らす。

 現在俺達はノース・サンズを目指し、多目的機動戦闘車を走らせている。


 記憶を頼りにひび割れたアスファルトの道路を走っていると新たなロケーションを発見した音が頭に響く。


「桐山、今ロケーションが見つかったって知らせ来たか?」

「うん、ノース・ダイナーを見つけた時と同じように音が鳴った」


 今回新たに見つかったのはサンズ工場跡地。

 戦前はこのエリア一体に巨大な工場群があり、周辺地域の働き口だったという設定が公式サイトに載っていた。

 現在は核戦争の影響で破壊されており、崩壊した工場跡が乱立する場所になっている。

 ゲームではクエストで機械部品を探しにやってきたり、ジャンクを漁りに立ち寄ったりしていた。


「現在地が工場跡地だと……ノース・サンズはこっちか?」

「私が入れたMODのせいでごめんなさい……」

「気にするな」


 マップ画面を開いて大まかな方角を測量し直してノース・サンズへと向かう。

 不意に桐山が謝るが、気にしても仕方ない。ジョーク系MODだと思っていた異世界トリップMODが本当に異世界トリップするなんて予想できるわけがない。


「お、川か?」

「あっ! 何かいるよ!!」


 サンズ工場跡を出て走っていると右手に川を見つける。

 車載カメラ越しに見る川は奇麗に見えるが、川は放射能で汚染されており、足を踏み入れると徐々に被爆していく。


 そんな汚染された革の水を飲んでいる生物がいるのに桐山が気づいた。

 車載カメラのズーム機能を使うと、皮膚病で全身の毛が抜けたようなただれた皮膚がむき出しになった犬が川の水を飲んでいた。


「モルグか……」


 モルグ、エンドレスホライズンの世界に出現する放射能によってミュータント化した犬型クリーチャー。

 ミュータント化したことで自我を失っており、同族にすら攻撃を仕掛ける狂暴なクリーチャという設定だった。


「まだ気づいていないし、狩るか……」

「うわっ……漫画みたい……」


 車を停めてバックパックからネオスナイパーというサイレンサー付きのユニーク系スナイパーライフルを取り出す。

 明らかにバックパックのサイズより大きいスナイパーライフルが出てくるのを見て桐山はドン引きしていた。


「撃ってみるか?」

「私……銃使ったことない」

「何事も経験だ。それにレベルアップするということは命を奪うということだ。慣れろとは言わないが、経験はしろ」


 車から降りるとスナイパーライフルのバイポットを設置し、スコープのゼロイン調整を終えると桐山に撃ってみないかと提案しする。

 桐山は最初は経験がないと断るが、俺はレベルアップするのに必要な行為だと諭す。


「そっか……レベルアップするには敵を倒さないといけないんだったね……」


 桐山は震える拳をもう片方の手で抑え込むように握り締めて呟く。

 クエストをクリアしたり、ロケーションを発見すれば経験値は入る。

 だがそれだけだと、いざ戦闘になった時桐山は動けないだろう。


「ここは日本じゃない。戦わなきゃ奪われるだけだ。奪われるのは尊厳か、自分の命か……俺の命かもな」

「っ!? ……わかった……やり方教えて」


 俺の一言で桐山は覚悟を決めたのか、銃の撃ち方を聞いてくる。


「スコープを覗け、まだモルグはいるか?」

「うん……水を飲み終えて寛いでるっぽい」


 双眼鏡で確認すれば桐山の言う通り、モルグは川辺で寛いでいる。


「スコープの中心に点があるのが分かるか? その点をモルグの頭に合わせろ」

「……できたと思う」

「あとは引き金を引くだけだ。それで終わる」


 ネオスナイパーというユニーク武器の特性は命中補正上昇とヘッドショットダメージが4倍になるというのがある。

 エイムMODが桐山にも適応されているかわからない今はこの銃のユニーク特性に頼ることにした。


「……ごめんなさい」


 桐山は小さく謝罪の言葉を述べると引き金を引く。

 サイレンサーの効果で缶ジュースのプルタブを開ける程度の銃声がすると、モルグの頭が弾け、着弾の衝撃によって胴体が吹っ飛び、川に沈んで川を赤く染めていった。


「うぷっ!?」


 桐山はモルグの死にざまをスコープ越しに見てしまったのか吐く。

 俺は背中をさすって桐山が落ち着くのを待った。


「落ち着いたか?」

「……うん……」


 桐山は出せるもの出し切るとやっと落ち着きた。

 ミネラルウォーターを与えてしばし休息する。


「命を奪うって……こんなにきついんですね……」

「それが普通だ。しばらく休憩したら出発するぞ」


 しばしその場で休憩した後、車で川沿いに走りノース・サンズを目指す。


「深山さんって本当にサラリーマンですか?」

「いきなりどうした?」


 運転中助手席に座っていた桐山が唐突に話しかける。


「だって……ダイナーの時もそうですけど、なんか荒事に慣れすぎていて……」

「俺はちゃんと企業に勤めて毎日出勤して、お給料もらってた。ほら、ちゃんとしたサラリーマンだろ?」

「うーん……なんて会社にいたんです?」


 桐山は俺が本当にサラリーマンか疑っている。

 ちゃんと働いていたと言ってもなぜか疑いの眼差しを向けてくる。全く失礼な。


「ガルーダ・ワールドっていうカナダに本社がある外資系の人材派遣会社だよ」

「業務内容は?」

「ん? 複雑な顧客情報の管理や危機管理等様々なリスクの調査や分析、対応をする総合リスクマネジメントコンサルタントだよ」

「うーん……ちゃんとした仕事っぽいなあ……今は信じます」

「今はって……」


 桐山が俺が務めている会社名と業務内容を聞いてくる。

 それにこたえるとなぜか納得いかないよう顔で今は信じるといわれ俺は苦笑する。


「あとはこの橋を渡ったら……」

「あっ! 深山さん、あっ、あれっ!」


 川を渡る橋が見えてくる。

 ゲームではこの橋を渡った先にノース・サンズがあった。

 車載カメラが橋の様子を映し出すと、桐山がモニター画面を指さし、叫ぶ。


 カメラモニターに映る映像には橋の向こう側の岸でクリーチャーと戦っている集団がいた。


「サブクアンか! 数が多いな」


 サブクアンとは一言でいえば半魚人のクリーチャー。川底や海底に沈んだ船などの部品から作った原始的な槍で武装し、時折地上に出ては人間などを襲って食料として海に引きずり込む。


 サブクアンの数は5……だったが1体が倒されて4になった。

 対岸側の岸辺で戦っているのは10人ほどの人間で、粗末な服に粗末な槍で武装している。

 槍を並べて槍衾にしてサブクアンの侵入を防ぎ、猟銃を持った人物が援護射撃して攻撃している。

 弾が少ないのか、銃の性能が悪いのか長い時間狙いをつけて撃つという行動を繰り返してる。


「助けに行かないと」

「まった! あの人間たちが味方とは限らない。レイダーの可能性もあるし、ハンターが獲物を狩る為にやっているかもしれない。しばらく様子を見るぞ」


 戦闘はそれから20分後、人間側の勝利で終わった。

 人間側に怪我人はなし、倒したサブクアンを解体して肉を回収している。


「うーん……ゲームではよく食べてたけど、こっちではあまり口にしたくないなあ……」

「とりあえず、コンタクトとってくる。お前はここにいろ」

「……何かあったらすぐ助けに行きますから」

「頼りにしてるよ」


 サブクアンの解体シーンを見て桐山は口を押え、顔を青くして画面から目をそらす。

 俺はコンタクトとるために車から降り、両手を上げながら端に向かう。


「そこで止まって! この銃にはまだ弾が残っているわ。何者かしら?」


 橋に近づくと猟銃を持った人物がこちらに銃口を向け、誰某を行う。

 猟銃を持った人物は女性だった。赤髪の日に焼けた肌の西部劇に出てきそうな女ガンマンといったいでたちの女性だった。


「旅の傭兵さ。ラジオ放送でノース・サンズで傭兵を募集してるという放送を聞いてやってきた」

「傭兵? 随分と身綺麗だし、あんな新品同様の車を持った傭兵なんて聞いたことないね。サンアンジェルスのメガシティ軍じゃないの?」


(そういえばクエストの一環でノース・サンズはメガシティ・サンアンジェルスに服従を迫られていたな)


 メインクエストの流れでノース・サンズの集落はさらに北部にあるメガシティ・サンアンジェルスの南部拡張政策の一環として服従を迫られ、プレイヤーはノース・サンズに協力して独立を保つか、サンアンジェルスに味方してノース・サンズを植民地にするどちらかのルートを選べた。


「車も服も遺跡で掘り当てたのさ。前にいた集落はいきなり発掘品は全部集落の所有物だ、全部よこせと難癖付けてきてな、こっちまで逃げて来たのさ。金と寝床と食料を用意してくれるならもめ事解決するぜ?」


 魅力10の能力値を信じて口から出まかせを言う。

 ゲームでは魅力値が高いと売買に有利になったり、会話の選択肢が増えて裏設定が聞けたり、戦闘や面倒なイベントを回避することができたりする。


「……今、伝令を走らせる。少しだけ待って。あたしはマーサー・ジェーン・キャナリー、ノース・サンズに雇われている、食料調達部隊の指揮官よ」

「ジェーン・キャナリー? カラミティー・ジェーンか?」


 女ガンマンが名乗った名前に驚く。

 マーサー・ジェーン・キャナリーはアメリカ西部開拓時代にいた男装の女ガンマンの名前だ。

 俺は西部開拓時代のカラミティ・ジェーンと同姓同名の女性を見ておもわず異名を口ずさむ。


「あら、私の異名を知ってるの? そんなに有名だったかしら? 貴方の名前聞いてもいいかしら?」

「あっ、ああ……俺は深山裕次郎だ。車には仲間を乗せている」


「深山ね、覚えたわ。夜になる前にはノース・サンズに案内して、話をする事が可能だと思う。セイ、首長に見たまま聞いたままを伝えて」

「ん。返答は放送する」


 ジェーンはセイと呼んだ副官と思われる背の低い女性に伝言を頼むと、セイは頷いて集落があると思われる方角に走っていった。


「助かるよ。タバコ、やるかい?」

「いただくわ」


 バックパックから新品の煙草を取り出し、一本ジェーンに渡すとお互いの煙草に火をつけて一服する。

 あとは首長と呼ばれる人物が俺達を受け入れてくれるかだ。


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