第7話 ファーストコンタクト3


「まずは……4方を金網で埋めるか」


 半透明なインターフェイス画面をタッチしながら建築設計図から金網を選び、設置する。


「うわっ!? 何もない場所にいきなり金網が現れた!?」


 俺の後ろで様子を窺っていた桐山が驚いて声を上げる。正直俺も驚いた。


 設置した金網に近づき、軽く押す。

 金網は地面と融合したように固定され、トラックとかが突っ込んでこない限りは破られることはなさそうだ。


 そのままノース・ダイナーを囲むように設置し、東西南北4か所に横にスライドするタイプの金網のゲートを設置する。


「入り口一つだけでよくないです?」

「その入り口を抑えられたら俺達はここに立て籠もる以外手段がなくなるぞ」


 4か所にゲートを設置すると桐山が1つでいいのではと聞いてくる。

 出入り口が一つだけのデメリットを説明しながら、次は設置した金網にトラップの鉄条網をとりつける。


 ゲームでは設置した鉄条網に敵が触れるとダメージと一定時間の移動阻害デバフを与える。この世界ではどういった効果があるかわからないが用心に越したことはない。


「そんなに設置して建築資材とか大丈夫?」

「アイテムMODで大量に建築資材ストックしてある」


 金網を鉄条網で強化すれば、小型の発電機とサーチライト、マシンガンターレットを設置する。

 マシンガンターレットは一定範囲内に敵対存在が近づくと自動で迎撃する。サーチライトはターレットとセットで置くことで、ターレットの索敵範囲と命中精度が上がる効果がる。


「……なあ、消音MOD入れてるか?」

「私は入れてない。深山さんは?」

「俺も入れていない。これでこの世界に来ている俺たち以外のプレイヤーがいることが確定したな」


 本来小型発電機とマシンガンターレットはエンジンの駆動音がかなり五月蠅い。

 だが、今回設置した小型発電機とマシンガンターレットは音が一切しないことから、駆動音を消すMODを導入している俺たち以外のプレイヤーがこの世界に異世界トリップしていることが想像つく。


「問題は何処にいるかだな……今は休むことだけ考えよう」

「うん……」


 ターレットを設置すると金網の内側にコンクリート製の階段を4つ設置する。


「なんで階段なんか?」

「万が一ゲートが壊れたり、ゲートを開けることもできないぐらい切羽詰まった時はあの階段を上って金網を飛び越えて外に逃げるためだ」

「警戒のしすぎじゃ?」

「しすぎぐらいがいいんだよ」


 階段を設置していると桐山がなぜゲートがあるのに階段を設置してくるのか聞いてくる。理由を述べれば、桐山は警戒のし過ぎではとぼそりと呟いた。


「次は中だ」


 ノース・ダイナーの店内に入るとインターフェイス画面を通して店内の机や椅子、廃材を撤去していく。

 拠点モードではこういった元からある物を撤去して建築資材に変換し、好きに内装を変えることもできる。


「これでいいだろう。ほれ、タオルと石鹸に着替えだ」


 店内に最低限の囲いとベッド、ライトを設置、調理場だった場所にシャワールームを作る。

 拠点モードを終えてバックパックから本来ならジャンク品であるタオルと石鹸、アバターファッション用の衣装を取り出し、桐山に渡す。


「シャワールームなんて内装、バニラであったけ?」

「建築系MODだ」


 バニラ状態だとシャワールームなんて設置物はなかった。建築物を増やすMODの一つにシャワールームがあった。


「深山さん」

「なんだ?」

「色々ありがとう……深山さんがいなかったらわたしどうなっていたか……」


 ベッドメイクしていると、不意に名前を呼ばれて桐山の方を向く。

 桐山は気恥ずかしそうにお礼を述べる。


「気にするな。お互い異世界トリップMODを入れてこの世界に来たプレイヤー同士、協力し合って元の世界に帰ろうぜ。さっさとシャワー浴びて来い」

「なんか、シャワー浴びて来いって卑猥だね」

「ガキには興味ない、さっさと行け」


 桐山はそう言って頬染めるが、俺は呆れた顔で興味がないというと、なぜか桐山はベッドに置いてあった枕を俺に投げつけて、足早にシャワールームに向かった。


 お互いシャワーを浴びて夕食を済ますころには外は真っ暗な暗闇に包まれていた。

 ターレットとサーチライトには異常はない、敵対存在がノース・ダイナーに近づいている様子はないようだ。


「お父さん……お母さん……」


 先に休息をとって眠っていた桐山が寝言を呟く。その頬には涙が伝っていた。

 無理もない、彼女はまだ16の子供だ。平和な日本で両親の庇護の下、学園生活を送っていたのに唐突にこんなイカレタ世界に異世界トリップしたら不安に押しつぶされるだろう。


「安心しろ、俺が護ってやる」


 俺はそう呟きながら桐山の涙を拭い、頭を撫でる。

 せめて桐山だけでも元の世界に帰れる手段を見つけてやらないと。

 そう決心しながら、俺は銃を抱いてベッドで休むことにした。


 目覚めたのは、まだ朝陽が昇り切る前だった。

 桐山はまだ眠っており、俺は起こさないように外に出ると日課のトレーニングを始める。


「外にいたんだ、よかった……」


 トレーニングを終えてノース・ダイナーの店内に戻ると桐山が起きており、俺の姿を見てほっとした顔になる。


「なんだ、置いて行かれたとでも思ったか?」

「だって……目が覚めたらいないんだもん」


 俺がからかうように聞けば桐山はすねたようにそっぽを向く。


「朝食食べたらノース・サンズへ向かうぞ」

「うん」


 バックパックから食べやすい食料を取り出して桐山と分け合う。

 エンドレスホライズンの食料にはクリーチャーの肉や内臓を使ったゲテモノ料理もある。いや……訂正しよう、ほとんどがゲテモノ料理が占める。


 戦前の廃墟とか潜れば保全機能によって保護された戦前の食料とかが見つかるが、エンドレスホライズンの世界では戦前の料理は高級品扱いだ。

 海外暮らしの長かった俺ならゲテモノ料理も食べれないことはないが、桐山は多分無理だろう。

 アイテムMODのおかげで戦前料理の備蓄は豊富だが、いつまで持つかわからない。

 元の世界に戻れる算段がつくまでにいくつかの廃墟を漁って食料を手に入れないといけないかもしれない。


「桐山、食べながら聞いてくれ」

「うん?」

「今後の方針だが、まずノース・サンズのメインクエストをクリアする」


 食事をしながら俺は今後の方針を語る。


「元の世界に戻れる方法が分からない。メインクエストをクリアすれば帰れるのか、それとも異世界トリップMODに元の世界に戻る為のキャンペーンクエストが付属されていて、それをクリアすれば帰れるかもしれない」

「………」

「そして……酷かもしれないが、最悪元の世界に戻れる方法が見つからない時は、この世界で暮らしていける方法を探す。まあ、傭兵家業をやりながらメガシティかタウンに家を持つか、どこか安全な場所を見つけて拠点を築くか……覚悟だけはしていてくれ」

「……うん」


 元の世界に帰れない場合の話をすると桐山は今にも泣きそうな顔をする。

 だが、このことはちゃんと伝えないといけない。


「なのでクエストと思われる厄介事には首を突っ込んでいく予定だ。桐山も最低限身を守れるようにレベルアップしてほしい」

「レベルアップしたら私も深山さんのお役に立てますか?」


 桐山の目は真剣だった。


「……そういう事は考えなくていい。役に立つとか立たねえとか、そんなのは他人との関わり合いの時にだけ気にすればいい。俺と桐山はもう仲間なんだからよ」

「うんっ!」

 

 仲間と答えると桐山は嬉しそうに微笑む。


 朝食を終えるとノース・サンズを目指す準備を始める。

 俺は先ず拠点モードを展開し、店内にコンテナ、金網に無地の看板を設置する。


「なにしてるんです?」

「俺たち以外のプレイヤーが来てもいいようにこの拠点とメッセージを残す」


 コンテナには1週間分の水と食料、武器や弾薬を入れ、看板には日本語で他のプレイヤーに向けてメッセージを書く。

 内容は元の世界に戻る手がかりを求めてノース・サンズに向かった事、拠点に武器と食料を置いてあること、ゲートのパスコードはエンドレスホライズンの発売日であることをを書いた。


「ノース・サンズへ向かうか」

「うんっ!」


 元の世界に戻る手がかりを求めて、俺達はノース・サンズへと向かった。

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