第6話 ファーストコンタクト2


「はぁ~~、軍用レーションてこんなにおいしかったんだぁ~~……ふう、ごちそうさまでした」


 腹を空かせていた桐山は俺が提供した軍用レーションを食べ終えると手を合わせてごちそうさまと述べる。


「さっきの質問の続きだが、桐山はMOD何を入れたか覚えているか?」

「えーっと……ゲーム環境系MODが多かったような……」


 桐山は指折り計算で自分が導入していたMODを述べていく。

 そのほとんどがゲーム内グラフィックの向上系が多い。


「あと、敵が強くなるのと、サバイバルモードと……あ、クエストが見れなくなるやつ!」

「おまっ!?」


 一瞬お前が犯人かと叫びたくなったが、気合で言葉を飲み込む。

 研究所で本来出現しないはずのガーボットやジャンクヘッドが現れたり、クエストログに何も表示されなかったのは桐山が導入したMODのせいだろう。

 文句を言いたくなるが、彼女も被害者だ。異世界トリップMODが本当にエンドレスホライズンの世界に異世界トリップするなんて思ってもいなかっただろう。


 桐山が導入したMODは俺とは真逆で全体的にゲーム難易度を高める縛りプレイ用のMODが多い。


「何? どうしたの?」

「いや……なんでもない。ところで能力値は見れるか? レベルは?」


 俺は深呼吸を繰り返して感情を落ち着かせると桐山の能力値を聞く。


「えっとね……レベルが1で……筋力5、知覚4、耐久3、魅力3、知力3、敏捷5、運1だよ」

「レベルマックスの能力値全部10じゃなくて?」

「なにそれ? チートじゃないんだし」


 桐山は虚空に視線を向けて読み聞かせるように能力値を紹介していく。

 どうやら他のプレイヤーの能力値とかは第三者には見えないシステムになっているらしい。レベルと能力値を聞いて、俺は一つの仮説が浮かんだ。


「俺はレベルと能力値とスキルパーク全部マックス、バニラアイテム全部所持できるMODを導入して適応されている。仮説だが、どうやらこの世界は環境と言ったゲーム全体にかかわるMODは共用され、俺のチートMODといったプレイキャラクターに関するMODは個人のみに適用されるようだ」

「え? なにそれ……意味わかんない!」


 俺が仮説を述べると桐山は意味が分からないと叫ぶ。


「研究所から脱出する時、クエストログには何も表示されなかったが、脱出クエストと同じ出来事が起こった。カーラジオでノース・サンズという集落のラジオ放送で傭兵を募集している通信を傍受もした。だがクエストログには変化はない」

「深山さんはクエストが表示されないMODは?」

「もちろん入れていない。だから世界環境に携わるMODは共有されるのではと仮説を立てた」


 しばし桐山は無言になる。


「俺ばかり質問して申し訳ないが、ノース・ダイナーというロケーション。記憶にあるか?」

「……バニラ状態ではなかったと思う。私バニラ状態でクリアしてからMOD入れて遊んでたから……多分ロケーション追加MODで増えたロケーションだと思う。それがどうかしたの?」



 俺がノース・ダイナーという廃墟のロケーションに心当たりないか桐山に質問する。

 桐山はバニラ状態ではノース・ダイナーというロケーションはなかったと答える。


「俺はロケーション追加MODを入れた記憶はない。不確定情報だが、俺たち以外にも異世界トリップMODでこの世界に来た別のプレイヤーがいる可能性がある」

「え……? あっ、そっか! 私も深山さんもこのノース・ダイナーという追加ロケーションMODを入れてないってことは、これを入れた第三者がいるってことね!」


 桐山はパンっと手を叩いて自分たち以外のプレイヤーがいる可能性に気づく。


(研究所で警備ロボットに殺された5人がプレイヤーじゃないことを願いたいな……)


 研究所を脱出する時に俺以外に5人の侵入者がいることを警報は知らせていた。

 最初はクエスト上の顔も知らないNPCかと思っていたが、俺と同じく研究所で目を覚ましたプレイヤーの可能性もある。


(今となっては確認しようがないがな)


 脱出に使った搬入口は崩落しており、ゲームでも研究所に戻る方法はなかったし、侵入してきた5人がどこの誰だったかという情報はない。

 ただクエストログで別ルートから侵入してきたスカベンジャがーが警報装置に引っかかったようだという文面のみだった。

 今となっては研究所で殺された5人の侵入者がプレイヤーだったかどうかは調べようがない。


「それでだ、今後の事なんだが……桐山はこれからどうしたいか、考えてるか?」

「ううん……いきなりこんな世界に飛ばされて途方に暮れてる。深山さんは?」


 今後について桐山に聞くと、桐山はそんなことを考える余裕もなかったようだ。


「ゲームのようにエンドレスホライズンの世界で起きるクエストに首突っ込みながら元の世界に戻る方法を探す。もしかすれば元の世界に戻る為のクエストが存在しているかもしれないからな」

「深山さんってやっぱり大人ですね、こんな状況なのに落ち着いてて、帰る方法を探すなんて………私、パニックで元の世界に戻る方法とか全然思いつかなかった」


 逆に桐山からどうするのか聞かれ、俺は元の世界に戻る方針を伝える。

 方針を伝えると、気のせいか桐山は俺を尊敬するようなまなざしを向ける。


「仕事柄、こういった突発的なトラブルに離れているからな」

「へえ……深山さんって、この世界来る前は何の仕事してたの?」

「ただのサラリーマンさ。外資系の人材派遣会社で、インドやら中東やらミャンマーやら少々治安の悪い地域のあちこちに飛ばされたよ。久々に日本に帰れたらちょうど大型連休前だったからエンドレスホライズンで遊ぼうとして、この世界に来た。桐山、お前は?」

「私? 私は 聖パルセーナ女学園っていう女子高等部に所属していたんだよ。同じく大型連休前で夜更かしして遊ぼうとしたら……ね」


 桐山は自分が通っていた学校名を述べてふふんと胸を張る。

 聞いたことのない学校名だったが、おそらく中高一貫とかのお嬢様学校か何かだろうか。


「あれ? あの 聖パルセーナ女学園だよ? もうちょっとリアクションとかあるでしょ?」

「すまん、海外暮らしが長くて全く知らない」

「結構有名な学校なんだけどさー、海外にいたら知らないかー、そっかー……」


 桐山が学園名を述べても俺が無反応だったのが気に喰わないのか、何度も自分が通う学校名を連呼する。

 俺が申し訳なさそうに 聖パルセーナ女学園がどんな学校か知らないと述べると桐山は机に突っ伏して不機嫌そうに文句を垂れて頬を膨らます。


「おいおい……すねるなよ……それよりも、桐山はどうする? 俺とノース・サンズ目指すか?」

「え、いいの?」


 桐山に一緒に来るかと提案すると、桐山はがばっと机から起きて聞き返す。


「こんな水と食料を求めて殺し合ったり、弾丸一発が命よりも重いかもしれないポストアポカリプスな世界に平和な日本で育った女子高生を置いていけるかっての。それともレベル1で水も食料も武器も防具もないまま、一人で荒野を歩きたいのか?」

「一緒に行きます!!」


 冗談半分に一人で旅するかと聞けば桐山は泣きそうに整った眉をハの字にしながら、一緒に行くと叫ぶ。


「あ、でも変な事したら責任取ってもらいますよ!」

「俺はガキに興味ない」


 桐山は両腕で胸を隠す仕草をして変なことをすれば責任をとれと言ってくる。

 俺は鼻で笑いながら子供には興味がないと返す。俺のストライクゾーンは20代後半から30代、美魔女といわれる類なら40代もOKだ。


「ガキって……私はこれでも16ですよ!」

「未成年なら十二分にガキだろ。下手したら娘と言っていいくらいの歳の差じゃねえかよ」


 桐山の年齢を聞いて更に手を出す可能性は遠のいた。


「とりあえず、今日はここで一泊するぞ。少し話過ぎた」

「え……ここで?」

「もうすぐ夕方だ、クエストビーコンも表示されないからノース・サンズの正確な位置もわからない。ここで夜を明かして早朝から移動した方がいい」


 外を見れば太陽はそろそろ夕日に変わろうとしていた。

 今からノース・サンズを目指して日が暮れる前に辿り着けるかわからない。

 街灯なんてものがないポストアポカリプスの世界の夜はどれほど暗く危険かわからない。


(それにこいつ、天候系MODで夜が暗くなるのいれてるし……)


 桐山が導入していたMODの一つに夜の暗さを調整するMODがあり、それを導入すると大光量のライトかナイトゴーグルといった暗視装置がないとほとんど周囲が見えない暗闇に包まれる。

 そんな状態で車を運転したくないし、エンドレスホライズンの世界では放射能によってミュータント化したクリーチャーや野生化した生物兵器が夜間は活発に動く設定だった。


「うん……そうだね。深山さんの判断に任せるよ」

「このままじゃ心細いしな、拠点モードが適用されるか試してみよう」


 俺はインターフェイス画面を開いて拠点モードを選択する。

 拠点モードとは特定のロケーションで自分で建築物をクラフトできるシステムの事だ。


 エンドレスホライズンの目玉の一つで動画投稿サイトでは僕が作った凄い拠点を紹介する動画や拠点を作る際の小技などを紹介する動画が多数ある。


「よーし、どこでも拠点MODと拠点容量無制限MODも適用されているな」

「うわぁ……チートだぁ……」


 どこでも拠点MODは本来特定のロケーションしか拠点を立てることが許されてないのをエンドレスホライズンの世界のどこでも自由に拠点を立てれるようにするMOD。


 拠点容量無制限MODは本来拠点エリアには建築容量という制限があるのだが、それを取っ払って好きなだけ建築物を作れるようにするMODだ。

 ただ、やりすぎるとメモリを食いすぎて読み込みに時間がかかり、下手するとそのままフリーズしたり、グラフィックボードがクラッシュする。


 両方が適用されていると呟くと、様子を窺っていた桐山がチートだと呆れる。

 俺は桐山の言葉を無視しながらノース・ダイナーを拠点改造を始めた。

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