第5話 ファーストコンタクト 1


「これからどうするかな……メインストーリー通り進んでみるか?」


 ゲームでは研究所から脱出するとジープのカーラジオからノース・サンズという集落のラジオ放送で傭兵を募集している通信を傍受する。

 ノース・サンズの集落で便利屋としていくつかのクエストをクリアして世界観と生活拠点を得る流れになっていた。


「こいつにもカーラジオ……お、ちゃんとついてるな」


 車に戻ってカーラジオをつけると最初はノイズしか聞こえなかったが、周波数を調整するとゲームと同じようにクラシック音楽や版権の切れたジャズ音楽、そしてなぜか日本のアニメ主題歌やゲームミュージックが流れてくる。


「何でアニメが? あ、MODか!」


MODのひとつにプレイヤーが取り込んだ音楽を放送するラジオチャンネルを追加するMODがあった。


更に周波数を調整するとゲーム進行と同じくノース・サンズの放送を受信し、傭兵を求めていると放送を繰り返している。


「やはりクエスト表示はされずか……というか研究所脱出クエストもクリアしたがクリア済み一覧にも表示されない……レベルカンストしているから経験値はいいが、クリア報酬とかどうなるんだ?」


 クエスト画面を開いてクエストが開始していないか調べるが、やはりクエスト画面には何も表示されない。

 クエストの中にはクリアした瞬間、経験と報酬が手に入るタイプがあったが、この世界ではどう作用されるのか予測がつかない。


「クエストビーコンが出ないのがかなりきついな……ノース・サンズの正確な位置が分からないぞ」


 ゲームならクエストビーコンで大まかな距離と方向、マップ画面では実際に出歩くまでマップは黒塗りされている仕様で、自分のアイコンが表示されるだけだった。


「うろ覚えだけど、確かあっちの方角だったよな?」


 記憶を頼りにゲームと似た風景の中、車を走らせる。

 

 マップ画面を見ながら車を運転し、ノース・サンズを目指す。


 ひび割れたアスファルトの道路を走り、原型を留めているものから半壊しているもの、さらには完全に破壊されているものなどが点々と存在する住宅街を抜ける。

 記憶の中にあるノース・サンズに向かう道とよく似たルートを選んで走り続けていると不意にロケーションを見つけた時の効果音が頭の中で響き、視界に巨大な文字が現れた。

 

「ロケーション、ノースダイナー発見? ロケーション発見はゲームに沿う感じか……」


 車を停めて車載カメラで周囲を見回せば、窓ガラスとかは割れているがファミレス風の建築物がある。


「こんなロケーションあったかな?」


 エンドレスホライズンでは人が住む集落や探索できる建造物に観光地などがロケーションとして100以上存在し、追加DLCやMODで増やすこともできるのでよく利用した場所でもないと覚えきれるわけがない。


「とりあえず、探索するか……」


 ロケーションを見つけたらついつい足を止めて探索してしまう。エンドレスホライズンユーザーあるあるだと俺は思う。


「お邪魔しますよ」


 ガンライトをつけたアサルトライフルを構えてノースダイナーに足を踏み入れる。

 店内は食事中に核ミサイルの爆破を受けたのか、客や店員だったと思われる白骨死体が散乱している。


「配膳トレイにコーヒーカップに……お、これはジュースかな?」


 開封されていないガラス瓶のジュースを見つける。舌を出したカエルがプリントされたガラス瓶には、フロッグサイダーというエンドレスホライズンの世界にあった戦前の飲料メーカーのジュースの名前が書いてあった。


 カウンターの角に王冠をひっかけ、勢いをつけてビンを引く。

 すると炭酸が噴き出してカウンターを濡らし、甘い匂いが鼻に届いた。


「温いけど飲めるな……」


 試しに一口口をつけるとサイダー特有の炭酸の刺激と甘さがあった。

 汚水を飲んでも大丈夫になるスキルパークを信じて飲み干す。

 万が一病気になっても研究所の医務室から回収した医薬品がある。


 ———ガタン———


「っ!?」


 店内を探索していると厨房方面から物音がした。

 とっさにアサルトライフルに装着させたガンライトで厨房を照らすと厨房の奥に逃げる人影を見つける。


(クリーチャーか? くそ、ミニマップがないから敵かどうかもわからないぞ)


 ゲームではプレイ画面の右上にミニマップが現れ、敵や味方をマーカーで大まかな数や距離を表示する。

 この世界に異世界トリップしてからそういったミニマップという便利なものはない。


 無言で中腰になり、すり足で厨房へ近づいていく。

 厨房内は暗く、ライトを向けると徘徊していた虫が明かりから逃れるように逃げていく。

 裏口のドアは開いていない。ということは先ほどの人影はこの厨房のどこかに潜んでいる。


 耳を澄まし、周囲を見回す。

 厨房内を探索していると人ひとり隠れられそうな大型の業務用冷蔵庫を見つける。

 冷蔵庫のドアは半開きになっており、慌てて入ったのか片方の靴が落ちていた。

 ゆっくり冷蔵庫の取っ手に手を伸ばすと……


「えーい!!」


 背後から女性の掛け声と共に鉄製の鈍器で頭部を殴られ、パコーンと軽快な打撃音が厨房に響いた。


「レイダーめ! まいったか!」

「誰がレイ……女子高生!?」


 叩かれた場所を抑えながら振り向くと、そこにはフライパンを構えてこちらを睨む日本のどこかの高校の制服を着た日本人女性がいた。

 

「もしかしてプレイヤーか?」

「え? あなたもプレイヤーなの?」


 女子高生の姿を見て俺は思わずプレイヤーと呟く。

 目の前の女子高生も驚いた顔して貴方もプレイヤーかと聞き返してきた。


「俺の名は深山裕次郎。異世界トリップMODと言うのを入れてゲームを起動してこの世界に来たと思う」

「私は桐山環。私もその異世界トリップMODを導入してゲームを起動させたら、この世界にいたの」


 俺と桐山は店側の比較的マシなテーブル席に座り、お互いに自己紹介をする。

 俺がこの世界にやってきたと思う原因だと思う異世界トリップMODの話をすると桐山も同じMODを導入してゲームを起動させたらこの世界に異世界トリップしたという。


「元の世界に戻る方法知ってますか?」

「同じ質問を俺はいましようと思ってたよ」


 桐山は俺に元の世界に戻る方法を聞いてくる。

 同じ質問をするつもりだったと返すと、桐山は泣き出してしまった。


「落ち着いたか?」

「ぐすっ……うん……」


 比較的奇麗なナプキンを桐山に渡すと桐山はそれで涙を拭く。


「いくつか質問させてくれ」

「私も質問あるの」

「OK,お互い交互に一つずつ質問しあおう。答えられないのは答えなくていい」

「うん」


 質問があると桐山に言うと桐山も俺に質問があるという。

 お互い交互に一つずつ質問しあって答えるという形で質疑応答しあう。


「まず俺からだ。君は研究所から脱出したのか?」


 ゲーム開始するとあの地下の研究所から始まる。

 ゲーム開始場所には俺しかいなかった。もしかしたらあの研究所にいた俺以外の侵入者と言うのは同じ異世界トリップMODでこの世界にやってきたほかのプレイヤーだったかもしれない。


「ううん、私はこのダイナー近くの廃墟で目が覚めたの。研究所スタートじゃなかったのは多分MODのせいだと思う。ここに来たのは水と食料を探すため。貴方がやってきて厨房に逃げて冷蔵庫に隠れたふりをして撃退しようと思ったの、ごめんなさい」


 桐山は研究所にはおらず、このノースダイナー近くの廃墟で目が覚め、彷徨っている時にこのダイナーを見つけ、水と食料を探索中に俺がやってきたという。

 探索中に俺がやってきて、レイダーだと勘違いして攻撃したという。


「MOD? あ、オープニング設定MODか」

「うん、それ」


 オープニング設定MODとは、一言で言うと主人公の設定を変えるMOD。

 これを導入することでメインストーリー、入植者、レイダーなど初期設定を変えてゲームを遊ぶことができた。


「私、放浪者という設定でゲームを組んだから研究所スタートにならなかったのかも……私が質問する番ね。食べ物とか持ってないですか? 丸一日何も食べてないし、この世界の食事はちょっと口にしたくない……」


 桐山はお腹を鳴らしながら食料を持っていないか聞いてくる。


「軍用レーションでいいか?」


 質疑応答は一旦中断して食事タイムになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます