第4話 ブレイクアウト -3


「……何かのMODで置き換えになったか?」


 特殊車両用区画にあったのはジープではなく、小窓付きのコンテナだった。

 小窓からコンテナの中身が見え、一台の大型の装甲車の様な車両のシルエットが見えた。

 他に目に付くのは機材運搬用の大型ケースぐらいで、もちろん人の姿はまったく見られない。


 MODの中には本来置いてあるアイテムを別のアイテムに置き換えるタイプのMODがあり、おそらくは目の前のコンテナの中にある装甲車両もジープの代わり置き替えられた車両MODの車かもしれない。


 エンドレスホライズンのゲームでは核戦争を運よく免れた車両を見つけたり、設計図を手に入れてヴィーグルをクラフトすることができる。

 移動用から戦闘用と多義にわたり、DLCやMODでその種類もたくさん増えている。


「このコンテナ鍵かかってるし、筋力で開かねえ……」


 コンテナは鍵が掛かっており、マッスルアンロックでも鍵が解除できない。

 どうしたものかと思ったが、解除方法はすぐに見つかった。

 コンテナ近くの道具箱の中に車とコンテナの鍵、操作マニュアルが入っていた。


「多目的機動戦闘車?」


 道具箱の中に入っていたマニュアルに目を通すと、マニュアルには保管されている車両の名称が表示されていた。


 文明が崩壊する前の国の軍隊が時代に開発された機動戦闘車を再設計。


 まず主砲を105mm砲から対戦車レールガンへ変更。

 主砲塔側面にも25mmの実弾式のガトリンク砲からレーザーガトリング砲をに換装、対空攻撃にも対応可能……とマニュアルには書いてある。  


「……こんなMOD入れたっけ?」


 車両スペックを見てレールガン搭載の装甲車両なんてバニラ状態のゲームにはなかったし、MODで入れた記憶はない。もしかしたら、まとめて入れて気づいていないだけかもしれないが……


 カードキーをコンテナについているカードリーダに読み込ませることでロックが解除されコンテナが解放され、収納されていた車両が露になる。


 8輪の装甲タイヤ、ハウジング化(内部に収納)されたレーザーガトリング。そして旋回式の対戦車レールガン。


 搭乗は後部ハッチから乗り込むようになっており、乗員は運転席含めて最大10人までが搭乗可能とマニュアル上ではそうなっている。


「なぜか操作方法が分かる……」


 多目的機動戦闘車の運転席に向かうと、見たこともない操縦席が見えた。

 運転席にはハンドルはなく、座席の上部にヘッドセットが搭載されているだけだった。初めて見る操縦席だというのに運転方法が分かる。


「まあいいや、動かせれるなら、さっさとこいつで脱出しよう」

 

 俺は運転席に座り、シートベルトがちゃんと機能していることを確認すれば、カードキーでエンジンを起動させて、ヘッドセットを装着する。 

 運転方法は思考制御型になっており、ヘッドセットを装着して思考するだけで運転ができる。


「よし、出発!」


 軽快なエンジン音と共に多目的機動戦闘車は走り出す。

 赤いランプで照らされた搬入口を走り続ける。


<ビーッ! ビーッ!>


 どれぐらい走り続けただろうか、代り映えのない搬入用の地下通路を走っていると唐突に警告音が車内に響き渡る。


『警告:ミサイル接近探知』

「んなっ!?」


 車両に搭載されている火器管制システムの電子音声がミサイルが後方から迫っていることを知らせてきた。

 突然のミサイルによる攻撃。

 大型車両も悠々通過できる規模とはいえ1本道のトンネル――逃げ場がない。


「くそっ! 迎撃!!」


 俺の声に反応して戦闘システムと脳がリンクする。


『レーザーガトリンク砲、迎撃モード』


 電子音声が車内に響くと、カコンと車体内から出現した四角い装置から放たれた超高熱のレーザーガトリング砲がミサイルを貫き、着弾するより先に強制的に車列の後方で自爆させる。


「ぐおっ!? くそおお!!」


 ミサイルの爆発による衝撃波で車体が揺れて、バランスをとる様に運転する。


「まだ追ってきたか!」


 密閉空間で反響した衝撃波によって車内でシェイクされながら、車載カメラで追跡者の姿を確認すると——— 4輪無限軌道で走行する異形の大型装甲車両が、猛烈な勢いで後方から接近しつつあった。


「だから初期エリアで出る敵じゃねええっつのっ!!」


 車載カメラの画面内でどんどん大きさを増す追跡者……いや、この場合は追跡車か? とにかくその大型装甲車両の正体を俺は知っている。


 可変式大型戦車。ジャンクヘッド。

 エンドレスホライズンのメインストーリーのかなり後半に出てくるボスだ。

 大本の研究所脱出クエストではその存在の情報すら出てくることはない。


「MOD導入によるバグか!? リアルで見るとめちゃくちゃでかし、あんな図体なのに意外と早いぞ!?」


 カメラモニター越しに映るジャンクヘッドは徐々に距離を詰めてくる。俺は多目的機動戦闘車の速度を限界まで上げて逃げる。


 1本道では追われる側より追う側の方が圧倒的に不利だ。逃げ場のないトンネルなら尚更である。

 ジャンクヘッドが今度は搭載された機関砲を多目的機動戦闘車へ向けようとしていた。

「ジャミングっ!」

『ジャミングシステム起動』 


 ギリギリのタイミングだった。ジャミングシステムを起動させて1秒後、多目的機動戦闘車のすぐ横を機関砲弾の雨が通過していった。


「あっぶねえ……ジャミング間に合わなかったら、穴だらけのチーズになってたかも」


 スレスレを掠めていった砲弾の衝撃波で、またも多目的機動戦闘車の車体がビリビリと振動する。

 強力な電波干渉によって照準を狂わせるのがあと1秒遅ければ、間違いなくもろに砲火を浴びていただろう。 


「砲塔展開!!」


 俺は怒鳴りながら火器管制システムに命令し、砲口を真後ろへと旋回させていく。

 ジャンクヘッドも次の攻撃準備を整えようとしている。


「対戦車レールガン発射!」

『発射します』


 引き金を引くとほぼ同時に――ジャンクヘッドの胴体に大穴が生まれた。

 レールガンによってぶち抜かれた部分から、破片を撒き散らしながら派手に横転した直後、搭載していた弾薬が誘爆を起こす。

 どれだけ弾薬を積んでいたのかは知らないが、かなりの規模の爆発を起こす。


「ってっ! どこのB級アクション映画だよ! ちくしょおおお!!」


 今度はトンネルという密閉空間で逃げ道を限定された場所で、ジャンクヘッドの弾薬庫から発生した爆発の炎の波が後方から迫りつつあった。


「限界までスピード出せ!!」

『警告:前方に障害物』


 限界まで多目的機動戦闘車のスピードを出すように命令していると、電子音声が前方の進行方向に障害物があることを知らせてくる。


 車載カメラで確認すると、ようやく出口が見えてきたのが確認できた。

 問題はその出口が隔壁によって固く閉じられているという点だけだった。

 後方から爆発が迫っている状況で悠著に隔壁を開閉している余裕などこれっぽっちも残されていない。


「くそったれがあああ!! もう一発レールガン発射!!」

『警告:レールガンの連続使用はオーバーヒートを誘発します。冷却されるまで使用されませんがよろしいですか?』

「いいから撃てええええ!!」 


 再度レールガンを発射するように叫ぶと、火器管制システムがレールガンの連続使用に関して警告を促すが、俺はキレ気味に再度発射するように怒鳴る。


 もしこの出来事を地上から目撃した者が居たならば大口を開けて呆気にとられただろう。


 放置された工事現場跡地の地面が爆発したかと思うと、爆炎と共に多目的機動戦闘車が飛び出してきたのだから。


 車両が出現した穴は、周囲にあった偽装用の廃屋が爆発の衝撃で地面が陥没し崩れ落ちて瓦礫の穴の中に消えた。


「隔壁がレイルガンに耐えられるほど頑丈じゃなくて助かった………」

『主砲レールガン、オーバーヒート、強制放熱を始めます。再稼働まであと———』


 短時間で主力戦車を正面装甲もろとも貫通できる威力の砲撃を連発した事で、強制放熱のためレールガンの砲身を覆っていたカバーが展開し、スリットからは白い煙が立ち上っていた。


 従来の戦車の主砲を上回る連射性能も持つ車載用レールガンだが、やはり撃ち過ぎるとこのような冷却シーケンスが必要になってしまうようだ。

 電子音声が再稼働までの必要な時間を延々とカウントしている。


「………」


 俺は車載カメラから送られてくる外の映像を見る。

 そこに映っていたのは、錆びた車の残骸にひび割れたアスファルト、伸び放題の雑草に、これまた錆びて赤茶けたガードレール。

 遠くには昔テレビで見た何十年も内戦が続く国の街並みのような倒壊したビルが並ぶ朽ち果てた都市が見えた。

 

(ああ………本当にエンドレスホライズンの世界に来たんだな)


 心のどこかではまだこれが夢じゃないかと思っていた。

 車から下車すれば乾いた風が頬を撫で、平和な日本では嗅いだことのない例えようのない臭いを感じた。


 廃墟となった都市を見つめながら俺は茫然と佇んでいた。


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