第2話 ブレイクアウト -1


「おっし、こっちのMODもちゃんと起動してるな」


 ロッカーの中にはこの世界の軍用野戦服、大型のバックパックが入っていた。

 本来はロッカーを開けても本来は軍用野戦服しか収納されておらず、いくつかの装備系MODを導入することで、ロッカーに追加装備が入っている。


「ゲームでは服だけだったけど、下着もあってラッキー」


 ロッカーには真空パックされた下着一式もセットで入っており、サイズもちょうどよかったのでそれを着用する。


 バックパックには何も入っていないが、これは重量無制限MODのバックパックで、本来プレイヤーは筋力×100までの重量しか持ち歩けず、積載限界量を超えると走行不可、移動力低下、果ては移動不能になる。

 このバックパックがあると無限に荷物を入れることができるが、パソコンのスペックによってはアイテムを入れすぎると読み込みに時間がかかったり、フリーズする。


「能力値オール10の割には特に外見は変わってないなあ」


 ロッカールームに設置されていた姿身の鏡で服装とかを確認する。

 鏡に映る自分の姿はエンドレスホライズンの世界に異世界トリップする前の自分の姿だ。

 筋力10の割にはマッチョボディでもなく、魅力も10だが別にイケメンに顔が変化した様子もない。


「まあ、鍵のかかったロッカーを強引に開けれたから能力値が適用はされているとは思うが……考えても仕方ないか」


 装備を整えるとロッカールームを出る。

 廊下は薄暗く、非常用の明かり以外電気はついていない。


「食堂か……食料と水を確保していくか」


 しばらく歩いていくと英語で書かれた文字プレートが張られた部屋を見つける。

 この研究所職員の食堂だった場所だ。食堂内も非常灯の頼りない明かりのみで、ホラーゲームのような雰囲気が漂っていた。

ゲームでは飲食の必要はサバイバルMODをいれない限り必要なかったが、ここは現実。

腹も減れば喉も乾く。戦前の食品は換金率もいいので回収しないてはない。


「ゲーム設定ではナノマシンによる保全機能で物が劣化しないって設定だったが……大丈夫かな?」


 食堂内を探索する。食堂テーブルの上の配膳トレイは錆びており、調理場の蛇口を捻ると赤錆に染まった水がでる。

 非常灯以外の電気とガスは止まっているみたいで業務用冷蔵庫からは腐敗臭が漏れ、コンロはスイッチを入れても火がつく様子はない。


 装備MODのおかげで食堂の冷蔵庫の中にはエンドレスホライズンに登場する食料や飲料がすべて詰まっている。

 それらを無限バックパックに詰め込み、エンドレスホライズンではまともな食事に該当する軍用レーションと災害用飲料水を取り出す。


 最初にレーションに付属している粉末状のスポーツドリンクの小袋の中身を、ペットボトルの水に溶かす。

 まずは毒味、異常が無いのを確認してから、甘酸っぱく味付けされた水を一気飲みした。エネルギーが体全体に染み込んでいくのがハッキリと伝わってくる。

 軍用糧食は火を使わないタイプで、菱食の袋についてあるペレットを折ると、ペレットが発熱し、糧食を温めてくれる。


「スキルパークで古い食材や生肉、泥水飲んでも腹を下したり病気にならないのを覚えているが、進んで試したくないなぁ……」


 そういった食料系スキルパークを極めると肉食動物のように死体を直接食べるスキルパークもある。

 ゲームでは回復アイテムに頼らずに空腹とHPを満たすスキルパークだったが、リアルではためしたくない。

 

「ふう……意外とうまいな」


 真空パックされたミートボールにソーセージ、エネルギーバーにチーズブレッドを食堂のテーブルで食べ、スポーツドリンクを飲む。


「米……食いたいなぁ……そういうMODなかったかなあ」


 軍用レーションを食べながらぽつりと漏らしてしまう。

 MODの中には食料の見た目を変更するのもあったが、米になるのは記憶にない。


「食堂の通路を確かこっちに曲がると……あった!」


 食事を終えると、記憶を頼りに研究所内を移動すると医務室を見つける。

 バニラ状態だとわずかな回復アイテムのみしかなく、日誌からここで何が研究されていたかうっすらとわかるようになっている。


 この研究所で研究していたのはクローンソルジャーやデザインベイビーを作る実験。

 主人公は当時最強と呼ばれた男女の兵士の精子と卵子からあれこれ弄って僕の考えた最強の兵士を作る通称:パーフェクトソルジャープロジェクトの実験体だった。


 研究中に核戦争が始まって、攻撃を受けて職員が全滅。

 開発中だった主人公はゲーム舞台の時代に偶然目覚めて物語が始まる設定だった。


「医務室の次は武器庫だったな」


 医務室を抜けて武器庫へ向かう。

 武器庫の扉は閉まっており、開く様子はない。


「確か……こっちに……あったあった」


 武器庫のドアの見えにくい場所にメンテナンスハッチがあり、蓋を開けると手動で開けるためのバルブが隠されており、バルブを回すことで武器庫の扉が開き、中に入ることができる。


「うひょー、こっちも装備MOD適用されてるな」


 武器庫の中には様々な武器が保管されていた。

 バニラ状態……MODを一切使わない本来のゲームプレイだと武器庫の武器はほとんど持ち去られているか、保全機能が停止して経年劣化で使用不能になっており、かろうじてハンドガン一丁とわずかな弾薬のみ手に入れる流れになっていた。


「テンプレ異世界トリップ物に出てくるアイテムボックスみたいにサイズも容量も関係なくどんどん入っていくなあ……」


 装備MODによって武器庫にはエンドレスホライズンの世界に登場する全ての武器と防具や衣装が保管されている。それを無限容量のバックパックに次々と収納していく。

 バックパックよりも大きなスナイパーライフルもするりと入り、ハンドガンも10丁以上収納しているのにパンパンになる様子もない。


「うっわっ! 全然重くない」


 武器庫にあった銃器弾薬全てを収納したというのにバックパックは一切重さを感じない。


「取り出すときは……うわっ、気持ちわるっ!?」


 アイテムの取り出し方を確認しようとバックパックに手を入れると何とも表現できない感触が手に伝わり、頭の中に何が入っているか一覧表のようなイメージがわく。


「アイテム名を思い浮かべながらバックパックに手を入れるとアイテムが掴める仕様ね。この感触に慣れないといけないなあ」


 ライアットショットガンをイメージしながらバックパック内に手を入れると目的のアイテムが掴み出せる。バックパック内から取り出すと、銃その物の重量を感じた。


「軍用ライアットショットガンに対戦闘義体用の4番ゲージスラッグ弾……これ撃てるのか?」


 4番ゲージとは4分の1ポンドの鉛玉に相当するサイズの弾丸を発射する銃だということだ。並みの腕力では到底反動を殺しきれない。


<警告 不正アクセス、ならびに侵入者を感知しました>


 武器庫で装備を見繕っていると、唐突に施設内の非常灯が緊急を知らせる赤色の照明に切り替わり、武器庫内を明るく照らし出す。

 研究所全体に電子音声の緊急放送と警報音が施設内に響いた。


「っ!? おいおい、クエストちゃんと進行してるじゃねえかよっ!!」


 突如施設内の明かりが緊急事態を知らせるレッドアラートと呼ばれる明かりに切り替わり、繰り返される警告音。元のゲームでもプレイヤーが武器を手に入れることで始まるクエストだった。


<施設内をスキャン開始……武装した侵入者を6名発見しました>


<施設内スタッフ該当照会中……武装した侵入者6名はスタッフデータベースに該当しない人物です>


<対象の脅威判定を行います……リーサル・エリミネーター起ど――>


「っ!!」


 とっさに拳銃をバックパックから取り出し、天井に向かって発砲する 

 放たれた銃弾は、天井部分がスライドして出現した警備ロボットを見事に撃ち抜いていた。


 撃ち抜かれたのは球体状のドローンタイプの黒い警備ロボットで、銃弾を浴びた部分からパチパチとスパーク音が響く。


 警備ロボットの名称はエリミネーター。貫通弾による機器の破壊を防止する為に特注された、質量兵器を用いない鎮圧執行警備ロボで、致死的な出力の集中電子波を浴びせ対象を風船のように膨らませて破裂させる。


 ゲームではプレイヤーは集中電子波を浴びてもHPバーが減るだけだったが、この世界だとガチで破裂してしまうかもしれない。出現場所を記憶していてよかったとホッと胸をなでおろす。


「クエスト画面に変化はなし、だがクエストは発生している……どういう仕様なんだ?」


 インターフェイス画面を起動し、クエスト一覧を確認する。

 だが、クエスト一覧表には何も表示されていない。だが現実にゲームと同じクエスト展開が始まっており、研究所内に警報が鳴り響いている。


 このクエストイベントはゲーム主人公とは別にスカベンジャーと呼ばれる旧時代の施設に侵入して旧時代のテクノロジーを発掘し、それを売って生計を立てる職業集団が研究所にやってきてうっかり警備システムを起動させたことによって開始するクエストイベントだ。


 結局スカベンジャー達は全員死亡、主人公はかろうじて研究所から脱出と言うのが正規のクエストルートだった。


「とにかく、研究所から脱出しないと……」


 クエストイベントが開始されたなら脱出を急がないといけない。

 ゲームならチェックポイントを過ぎるまで敵は現れないが、この世界でもチェックポイントすぎるまでイベントが進行しないなんて保証はない。


 バックパックからいくつか武器を取り出すと俺は武器庫から飛び出した。

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