第11話◆入学式
悪漢の一件の後、トトラーシュ家の執事のヒールによって服に土埃が付いただけという状態まで回復出来た為、クレリアと口裏を合わせて二人で遊んでいただけで、男と戦った事はお互い秘密にすることにした。
理由はもちろん、心配性な二人の親を余計に心配させてしまうからだ。
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それぞれが帰路につく。
「ジイ……」
「……何でございましょう?」
今会話しているのは、エルディアとその執事だ。今は中流階級の広場から上流階級の門へ向かっている最中だ。
門の兵はエルディアの顔を見るなりバッ! と敬礼をする。そんな見慣れた風景には目もくれず、真っ直ぐ前を見据えて歩く。
「あのソータ・マキシという少年が練成学院を首席で合格した奴なんだな?」
「左様でございます」
「その理由が分かった気がする。アイツは戦いながら成長するタイプの人間だ。……アイツの目を見て判ったが、途中でスキルまで修得していたようだ」
「左様でいらっしゃいましたか……!」
「だが、俺は負けるわけにはいかない……! 二日後が入学式だ! それまで剣の稽古を今まで以上に厳しく頼むぞ、ジイ!」
「かしこまりました、エルディア様」
一方、中流階級の街を二人で並んで歩いているソータとクレリア。
「なぁ、ポニ子」
「何?」
「あの男と戦う時、普通にエルディアもお前も武器を抜いてたよな? 何でだ?」
気になっていた事を聞く。一歩間違えば普通に殺してしまう。
……というか、途中から殺し合いをしている感覚になった。
「そりゃ当然でしょ? 喧嘩なんだから」
驚くような事を言われた。そもそもの感覚が全然違うようだ。
「喧嘩で殺し合いするか……?」
「そりゃそうよ。アレぐらい衝突してたら殺し合いは普通よ」
なんてこった……エンから危険な世界だとは聞いてはいたが、境界で言われた「アンタすぐ死ぬわよ」という言葉はこういうことだったか……
練成学院でも本物の武器を用いて実技試験を行った理由がよく分かった。
「しかしよ……あの男もぶつかっただけだろ? 何で殺し合いにまで発展するんだ?」
「トトラーシュ家の息子に対して胸ぐら掴んで罵声を浴びせてたでしょ? その罪は死に値するわ……アンタ、名門の家の出なのにそんなことも知らないのね」
「教わってないからな……俺は普通に殴り合いをして最後にはお互い謝れば良いと思うが……」
「そういう優しすぎる心は、いつか誰かを不幸にさせると思うわ」
「でもその命が無いと不幸を感じる事も出来ないじゃないか」
「……だったら、アンタが世界を変えれば? 出来るわけないけどさ」
「…………」
出来るわけないとは言ったものの、クレリアはただの冗談で世界を変えれば? などと言ったわけではない。
再びソータの能力値を見て、彼の強さに少しの期待を抱いての言葉だった。
名前:ソータ・マキシ 年齢:12
職業:なし
Lv:11 HP:298/298 MP:117/117 SP:101/101
攻撃力:85 防御力:72
魔攻力:76 魔防力:78
敏捷力:81 精神力:122
ゴッデススキル:経験値10倍/天賦の才
通常スキル:【槍術マスタリー:Lv1】【拳術マスタリー:Lv2】【炎属性魔法:Lv2】【氷属性魔法:Lv1】【反骨心:Lv1】
「……」
クレリアはそのままジッとソータのステータスを見つめる……。
このレベルや能力値は普通の12歳じゃないわ。ソータがどれほど強いかはアタシ自身知っているつもりだったけど、さらにとんでもない強さになってる……
「ソータ、反骨心っていうスキルがあるけど、どういう効果なの?」
いつの間にか追加されているスキルについて聞いてみた。
「反骨心……?」
(……ステータス)心で念じながら手を振る――その場所にソータのステータス画面が表示される。
「……あぁ、さっき戦ってる最中に覚えたスキルだ……でも効果分からないんだよな」
「効果なら名前のところタッチすれば見られるじゃない」と教えてくれた。
知らなかった……。
早速、今回手に入れた【反骨心】スキルをタッチして説明を見ることにする……
“【反骨心】パッシヴスキル。格上との戦闘中において、相手との実力差を縮める。レベルが高いほど効果が高い”
なるほど……知らなかったが、これはかなり便利なスキルだ。
そしてタッチしてスキルの効果が見られるということは、気になっていた天賦の才の効果も調べられそうだ!
そう思ったソータは、天賦の才もタッチしてみる……
“【GS:天賦の才】パッシヴスキル。天から授かった、様々な物事に開花する特殊な才能を得る”
……なるほど、分からん。
天賦の才の効果も見て複雑そうな顔をしたソータにクレリアは言う。
「まさかその反骨心って効果分からない?」
「え? あ~すまん。反骨心っていうのは、格上との戦闘中、実力差を縮めるっていう効果らしい」
「へぇ~……ってことは、今回あの男と戦って勝てたのは、アンタとエルディアの魔法武器と、アンタが習得した反骨心っていうスキルの効果ってことね」
「たぶん、そうなんだと思う」
「いいなぁ、反骨心。どうやって手に入れたの?」と顔を覗き込んでくるクレリア。
「知らないよ、戦闘中突然新しいスキルを習得しましたって聞こえたんだから」
「何よ、使えないわねぇ!」
使えないとは一体……まぁいいか。
そうこう話しているうちに、クレリアの住んでいる家が見えてきた。
「あ、着いちゃった。じゃあまた!」
「あぁ、入学式にな!」そう言って二人手を振って別れる……。
一人になった夕方の道。人通りは少なくなりながらも、相対的にチラホラとカップルが増え始めた。
ソータが今日も実感した、危険な世界で生き抜いているカップルたち……。この世界の中では、か弱そうな女性でさえも、実際は結構強そうだ。
男性の方ももちろん、しっかりとした身体つきの人が多く、やはり喧嘩で殺し合いに発展しても生き抜いていける強さを持つことが大切なのだろう。
独り身ならばそれだけで十分だが、カップルとなれば大切な人を護らないといけない。更なる強さが必要なのだ。
そんな事を考えながらも、ソータはやはりこの世界へ転生したことに関しては、全く後悔などしていなかった。
生き抜くことが一番だが、今はグラディエーターになることが目標だ! その次は世界中を旅する! その方が楽しそうだし!
そして、安住の地を見付けて、素敵な女性と結婚して老いて死んでいきたい。誰もが持っている、最後に手にしたい幸せだ。
――しばらく経つと、ソータの家も見えてきた。そのまま玄関を開けて帰宅する。
「ただいま」
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――二日後。
―練成学院―入学式会場。
会場は、前世にあった学校のような体育館を狭くした感じだ。
そして、木の床にラインが引いてあるわけではなく、もちろんバスケットゴールも付いていない。
ソータが月島颯太であった頃に知っているこういった儀式の日は、自然と周りはザワザワとしているものだ。
しかし、今日の入学式はそれほどザワザワしていない……といってもそれは当然だ。
グラディエーターになるために訓練を積んでいる先輩たちである総勢50人の学生たちが会場の後方に集まっており、会場の先頭には10人の新入生と、その後ろに10人の親たち。合計70人程度だ。
70人もいればザワザワ……かと思いきや、周りでの話し声は聞こえるものの、話したりしている人は少ない。
特に先輩たちである50人の学生は、ほとんど口を閉じてジッとしている。……そういう教育を受けたのだろう。余計な事は喋らない……という。
「ねぇソータ。ちょっとこの会場怖くない?」耳打ちのように隣にいたクレリアが耳打ちをしてきた。
「そうかな? やっぱり世界で唯一のグラディエーター育成機関だし、かなり厳しいだけじゃないかな?」
前を向いたままクレリアの言葉に返事をするソータ。
「アンタって結構ムズカシイ言葉を知ってるよね」そう言ってクレリアも前を向いた。
数秒後に、舞台上の袖から真ん中へキリッとした表情のメガネを掛けた女性がツカツカと歩いてきた。
あの人は、筆記試験と実技試験の監督をしてくれた女性だ。
その女性は中心の演台へ立つと号令をかける。
「総員、敬礼!」
会場にいる全員が素早く敬礼をする。出遅れたソータも慌てて敬礼をする。
「楽にしなさい」
敬礼をした時と似たような音が会場に木霊し、実際それほど楽ではない、楽なポーズをとる。
「おはよう、新入生諸君! 私は今日からキミたちの担任教官を務める、メリッサ・エストだ! よろしく!」
メリッサはメガネがかなり似合っており、髪は金髪で後頭部には少し大きなお団子を作って縛っている。目の色は蒼く、美しい女性だ。
「今年で13歳になる一年生のキミたちは、これから六年間しっかりと修行し、立派なグラディエーターになって貰おうと思う。ここ練成学院では、その為のカリキュラムを組んでいる」
グラディエーターになるためのカリキュラムか……俺のスキルもどんどん増えていくのかな?
「そして、その為のカリキュラムは基本に過ぎん……その基礎が出来た後は、カリキュラムは個々の能力に合わせてドンドン変えていく! それがこの学院のやり方だ!」
個々の能力に合わせて……? つまり、本当に強くなるには、相応の努力と実力を
「この学院では、差別なども大いに行う。我々はキミたちの命を預かる身だ。最初は危険な目に遭わせない為の差別だと思ってくれ! 但し、階級や人種による差別は厳禁だ!」
最初は……か。年数を重ねても大した成長が見込めない場合、ガンガン差別されていくのだろうか……?
あくまで、学院の中で居場所を作るのも自分たちの努力次第……ということだな。
大抵の子は頭の中に?が出来ているだろうが、高校生だった俺には解る……ここは個人のメニューを確実にこなして、更に自分で心を強くしていくしかない。
練成学院とは、そんな場所であった……。
「それでは、キミたちの先輩を一人紹介する。入れ!」
メリッサ教官がそう言うと、舞台袖から女性が歩いてきた。
「彼女は新六学年の学生長リトン・アーフェイだ」そう紹介されたリトンは、メリッサ教官と入れ替わるように演台に立ち、挨拶をする。
顔立ちは整い、紫色の髪は長く、左右の額の上から細い三つ編みを後頭部まで伸ばし、後ろでそれを一つに縛っている。
「新一年生の諸君、初めまして。私の名前はリトン・アーフェイだ。この錬成学院六学年の学生長を務めている……何か困ったことがあれば、いつでも声を掛けてくれて構わない。これからよろしく!」
あっさりとした挨拶をしたリトンは、そのままお辞儀をしてから一歩下がり、メリッサ教官に場所を譲る。
「最後にこの学院の学長から挨拶をいただき、本日の入学式を閉式とする! ……学長、お願いいたします!」
メリッサ教官がそう言うと、白いヒゲを伸ばした、どこからどう見ても普通の老人である男性が舞台袖から歩いてきた。
その老人は演台の前でお辞儀をして一言。
「おはよう。がんばるんじゃよ」とだけ言って、そのまま袖の方へ歩いていった。
……えっ? それだけ?
「学長、ありがとうございます! では、新入生諸君の入学式をこれで閉式とする! ……この後、私が先導し諸君がこれから使う教室へと案内する!」
メリッサはそういうとリトンと共に舞台袖へ移動した。
一、二分後メリッサが新入生十人の前へやって来た。
「では、ついてきて貰おう。先頭は名前の順でエゼルトからだ。行くぞ」そういうとメリッサがツカツカと歩いて行く。
五十音順で先頭のエゼルトから列を作って会場を出て行く。
両サイドには拍手で見送ってくれる二~六学年の先輩たちがいた。
先輩たちは皆、笑顔で見送ってくれているが、内から溢れる強さのようなものを感じた。
六学年ともなると、どれほどの使い手になるのか……?
そんな事を考えながら、先頭のエゼルト、その後ろにエルディア。さらにその後ろから付いて行っているクレリアに付いて行くソータ。残りの六人の新入生と保護者はソータの後ろを付いて歩いている。
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