第8話◆実技試験決勝戦


 ――数時間後。

 最初の、ア行〜ナ行の名前の入学希望者のトーナメントの中から頂点に立ったソータとクレリアは、後から合流し、どんどんと勝ち進んできていたハ行〜ワ行の頂点となったその日の入学希望者の残り半分と戦うことになる。

 これが、錬成学院の実技試験の決勝戦だ。

 もちろん優勝するに越したことはないが、トーナメントの初戦で負けても、合格する人はいるらしい。

 ただ、勝ち進んだ方が自分をアピールする機会が増える……ということだろう。


「……では、次が本日の実技試験の決勝戦となる! ……クレリア・ラピス、ソータ・マキシ……リーダーはクレリア・ラピス! 対するは、フレッド・レオン、ロッサ・パルセノス……リーダーはフレッド・レオン! 前へ!」


 目の前のフレッド・レオンは右手に長剣、左手に篭手を装備している……


「フレッド・レオン、お前は剣と篭手で良いのか?」という試験官の問いに「はい」と答えると、次に試験官はソータとクレリアを見た。


「ソータ・マキシ、お前は得意武器は槍と篭手と聞いていたが……その篭手のみで良いか?」


「はい、問題ありません」そう言って、紅蓮の手甲二つを装着して、グーとパーを繰り返しながら装着感を確かめる。


「では、クレリア・ラピス……お前の短剣は……一本で大丈夫なのか?」


「はい、短剣も多少の練習はしました!」


「そうか……ロッサ・パルセノス。お前の武器は……」


「はい、私はこの戦鎚せんついで戦いますわ!」ロッサ・パルセノスという対戦相手はそう答えた。持ち手は銀色に光り、上は大きめの棘が付いたハンマーだ。全体的に鋼で出来ていることは理解出来た。



「おい、ポニ子。お前、リーダーになったが作戦はあるか?」


「う、うっさいわね、ポニ子ポニ子って! 今考えてるところよ……!」そして数秒後「……アタシはあのフレッドとかいう奴と戦うわ!」


「あの剣持ってる方か。何か策はあるのか?」


「……アタシ達二人共スピード重視の装備でしょ? だったらフレッドを私が相手にした方がいいわ。私とフレッドは同じレベル。そしてアンタが一番あのロッサって女とレベルが近い」


「!?」クレリアのレベル発言でようやく理解できた。……コイツのゴッデススキルは恐らく人のステータスを覗くことが出来るもの……

 試験会場でレベルの話題は一切出していないのに、対戦相手の全ての能力値を把握しているようだった……。

 それはつまり、能力値の長所と短所が見極められるということだ。


「分かった、じゃあ俺は奥にいるロッサと戦おう」


「気を付けて……アイツ、アンタよりもレベルは高いし相当強いわよ」


「あぁ」普通に返事をしたが、クレリアの発言は驚愕するものだった。

 何故なら、経験値10倍のスキルをゴッデススキルを持っているソータよりもレベルが高いというのだ。一体どれほどの訓練を積んできたのか……?

 それはロッサ・パルセノス自身、中流階級でありながら生まれた時から英才教育を受けていた事を意味するのではないか? それならば、絶対に見くびる事の出来ない相手だ。




「では、実技試験決勝戦……始めッ!!」


 合図と共に、クレリアはフレッドの方へ走り出す!

 フレッドのレベルは3……アタシと同じだ。能力値は、攻撃や防御などは負けているけど、敏捷は私の方が速い! 翻弄しながら倒してやるわ……!


 クレリアは相手の分析を自身のゴッデススキルで行いつつ、それと同時にソータ達の能力値も見る……


 ソータ・マキシ……レベル6……そして、対するロッサ・パルセノスはレベル7……かなりの強敵だろう……ただ、彼女の強みは攻撃力ではない。


 戦いながら周りの能力値の分析をしているクレリアを見て、試験官は呟く……

「ほう……あの子は……」密かにクレリアの名簿の端に丸を付ける試験官。



 戦闘開始の合図から十数分が経った。


「ぐあぁッ!」先に声を木霊させたのはソータだった。

 かなり重そうな戦鎚をブンブン振り回して攻撃してくるロッサ。それに対し、防戦一方になるソータがついに攻撃を食らってしまった!


 ソータはそれに怯まず、ふっ飛ばされそうになるのをグッと脚で堪えて、ロッサに思い切りボディブローを食らわせた!


“拳術マスタリー発動――”

 骨に響いたような鈍い音と共にロッサはかなりのダメージを負った。しかし彼女の凄いところは、ボディブローで吹き飛ばされそうになる直前、持っていた戦鎚を地面に叩き付けて、それをブレーキとしてその場に踏み留まった。

 ダメージを負った直後にその判断力は凄まじいものだ。


「ソータ・マキシ……名前からして王国第三大隊長のゾルダー・マキシ様のご子息と思われますわ……こんな燃える戦い……久しぶりですわッ!!」ロッサは再び戦鎚を構えて走り出す!



「アイツって、ゾルダー・マキシ様の子だったんだ……」ステータスが見えるのに全く気付いていなかったクレリア。そこへ思い切り剣が振るわれる。


「俺を相手にして余所見とは良い度胸だこの野郎ッ!」ブンッと振り降ろすが、短剣で防御する。

「オラァッ!」反対に装備していた篭手で、クレリアの脇腹目掛けてフックを放った!


「ぐぅっ!」そして、脇腹を押さえながらよろけるクレリア。

 そのままクレリアは身体を斜めに斬り付けられる!


「キャアァァァァァァッッ!!」耳を切り裂かれるような悲鳴をあげながら血しぶきを飛ばすクレリア。


 試験官は少し考えてから言った。

「……クレリアは直ちに戦闘エリアより離脱、治療を開始せよ!」試験管から、クレリアの敗北宣言が出された。


 それを横目でチラッと見るソータ。

「クソッ、アイツやられたのかよ……! ……だったら!」と言って、ロッサの振り下ろした戦鎚を右方向に跳躍して躱し、そのままロッサの手を蹴り、戦鎚から手を放させる。

 そこから戦鎚を掴んで思い切りロッサを横薙ぎに殴った!

「うぐぅっ……!!」という呻き声をあげて怯むロッサ。


 斬撃よりもこういった打撃の方が良心が痛むな……。


 そんな事が一瞬脳裏をよぎったが、そのまま戦鎚を遠くへ投げ飛ばすことにした。

 可能ならそこでトドメを刺したかったのだが、後ろのフレッドが接近しているのが解ったからだ。


「後ろがガラ空きだぜぇッ!!」剣を振り下ろす、フレッド。


 篭手で防御するも、対処が遅れて腹が浅く斬られてしまった。


「ぐっ……!!」

 き、斬られるのってこんなに痛いのかよッ……!!



「でやぁッ!」

 今度はソータが反撃で右ストレートを食らわせようとするが、フレッドが左手に装備していた篭手も丁度ストレートで、その拳同士はぶつかった!

 そして、フレッドの篭手は壊れてしまう!

 紅蓮の手甲はかなりの攻撃性能と防御性能を秘めていたのだ。


「……やりやがったな、この野郎!!」

「先程の仕返しですわ! くらいなさいっ!!」


 偶然、目の前にいたフレッドの斬撃と戦鎚を拾って戻ってきたロッサの攻撃で挟撃を浴びせられることになった。


「危ない! 逃げてッ!!」遠くからクレリアの声が聞こえた気がした……


 咄嗟に右手に装着した紅蓮の手甲がフレッドの斬撃を、そしてロッサによる戦槌の打撃を左手に装着した紅蓮の手甲で防御した。


 ソータは考える……。

 この状況を打開するにはどうすればいい……?

 …………そうだ! 上手くいくか分からないが……頼む! 上手くいってくれ……!!




「……魔力開放ッ!」


 紅蓮の手甲のレッドクリスタルの部分から、赤い魔力の球が出現し、それはフレッドとロッサの二人に直撃し、二人は吹き飛ばされていった!

 二人とも、2,3メートルほどふっ飛ばされた!


 やった! 上手くいったぞ!!

 実技試験の練習中、毎日頑張っても出来なかった魔力を解放してレッドクリスタルに特殊な力を持たせる技である、魔力解放……ついに土壇場で成功したのだ。


「おい、お前ら……まだやるか? 俺はまだまだいけるぞ……!!」紅蓮の手甲を構え直すソータ。


「……こ、降参する……」先に手を上げたのはフレッドだった。


「ちょっと!? 本気ですの? フレッド!」ロッサはフレッドに怒鳴る。


「すまんが、俺には勝てそうにない……さっきの魔力球の攻撃で剣が折られたしな……」そう言って自分の近くに落ちている剣を見る。真っ二つに割れてしまっていた。


「勝手にしなさい! ……私はまだ……戦えま……す――」そう言って、立ち上がろうとしたロッサはその場で膝から崩れ落ちた。予想以上に魔法攻撃ダメージが入ったようだ。



「勝った……?」




 女性の試験官がバッと手を挙げて言った。

「そこまで! 実技試験決勝戦……勝者は、クレリア・ラピス、ソータ・マキシのチームとする!!」



 試験も終わって、入学希望者待合室で、荷物を片付けようとしている時……

 回復し切ったクレリアが声を掛けて来た。


「よっ……ソータ・マキシ……」


「なんだ、お前か」

 正直何かと突っかかって来る性格なのは分かったので、あまり相手にしたくはなかった。


「なんだって何よ! 折角声掛けてやったのに!」


「あ~、すまん。怪我は大丈夫か?」


「大丈夫! アンタ、意外と優しいところあるじゃない」


「えっ、どこに?」


「理解出来ないの!? やっぱりアンタ頭悪いのね!」


「お前に言われたくないね」



 そんな様子を見て、他の入学希望者は言う。

「アイツら、なんか仲良いよな……」


 ・

 ・

 ・


 ――練成学院―敷地内

「ソータ! 大丈夫だった?」リエナが少し心配そうな面持ちで声を掛けてくる。


「うん、大丈夫……何時間もヒマじゃなかった?」と聞いてみると、リエナは首を振って答えた。


「お母さんは大丈夫よ! ……こちらのカトリナ・ラピスさんと仲良くなったから!」そう言って隣に居る女性を紹介してくれた。……ん? ラピス……?


「ま、ママ……」後ろから付いて来ていたポニ子……もとい、クレリアが声を掛けて来た。

 そしてソータに向いて言い直す「ちょっと! 何でアンタの母親とウチのママが仲良くなってるのよ!」


「うるさいな、知らねーよ!」


「あらあら、ソータくん。もうウチのクレリアと仲良くしてくれてるのね! ありがたいわ!」クレリアの母親、カトリナが喜んでいたが、すかさず反論するクレリア。


「コイツとは友だちでも何でもないから!」と俺の方を指差してくるクレリア。……全く、人を指差すなよ。


「とはいえ、私達の子が入学できるか……」


「それはどうなるでしょうねぇ……」


「私はクレリアを信じてます。きっと合格してくれると……!」


「あ、そうだ! カトリナさん、よろしかったら今晩ウチでご飯食べて行かない?」

 あ、何か母さんが変なこと言ってるぞ……?

 そんな息子の思考など分かる筈もなく、当のリエナ本人は良いことを思い付いた! と言わんばかりに両手を軽く合わせる。


「あら、いいんですか? リエナさん! じゃあ、クレリア。一緒に行くわよ」


 来るつもりかーい!


「な、何でよ! ママ一人で行けばいいでしょ!?」


「あら、クレリアちゃん。私達と一緒にご飯食べるの嫌なの?」困った表情で聞くリエナ。

 芝居がかっているわけでもなく、母リエナはこれを素で言っているのだ。これはクレリアの良心が痛むだろうな……


「あ、いや……嫌じゃ……ないんですけど……その……あ、アンタはどうなのよ?」突然ソータに振るクレリア。


「え、何で僕に?」


「良いから答えなさいよ! ……アタシが一緒に居たら嫌でしょ!? 嫌なら嫌って早く言いなさいよ!」

 何でそんな喧嘩腰に見えるような言い方しか出来んのだ、コイツは……。


「何も言ってないだろ……それに別にお前が一緒でも構わない」


「じ、じゃあ……行ってもいいの?」


「親がああ言っているんだし、ポニ子も来ないと何か変だろ」


「ポニ子って言うな!」


 そんなこんなで、カトリナとクレリアもソータの家へお邪魔することになった。




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