第3話◆王宮へ
――その日の夜。
「ソータのゴッデススキル習得を祝して……カンパーイ!」次女ソエラが乾杯の音頭を取っていた。
「――それで、凄い能力身に付けたんだって?」長女アルマは両手で頬杖を付きながら聞いてきた。
実はまだ家族の中では、母親と自分しかゴッデススキルを二つ手に入れたという事実を知らない。
街中が騒ぎになっていたものの、父親は仕事で城へ行っていたし、アルマは家でお留守番。外へ出なかった。そしてソエラは学校だったので、何も知らなかった。
だから三人にとっては、母親の喜びようは異様なものだし、その喜びようを見ていれば確実に良いスキルであることは間違いない。……にも関わらず、一生付き合っていくゴッデススキルを手に入れて、かなり落ち着いているソータ。
全てを知っている二人の対照的な態度が、不思議な雰囲気を創り上げている。
ただ純粋にソータの心の中は「あぁそういえばカプセルの中身は、こんなスキルだったな」という感覚なので、新しいものを見た感覚ではない。
それに、アルマとソエラのようにゴッデススキルを授かってすぐ、ゴッデススキルの恩恵を感じたわけではない。
アルマのゴッデススキル魔法習熟5倍。これを授かった当時、周囲の空気中のマナがアルマに集まってきて、その光景はまるで魔法という概念そのものに愛された女の子……だったようだ。
それを見ただけで、周りの子たちを圧倒させた。今でも軽く全身に魔力を込める(全身を意識するような感覚で出来る)だけで、周囲のマナが活性化してアルマの周りに集まる……。
そしてソエラ。彼女の敏捷上昇値7倍……昔から元気で走り回って活発だった彼女は、ゴッデススキルを授かって、はしゃいでいる時に今まで元気に遊んできた経験値分、偶然レベルが2に上がり、
敏捷値が跳ね上がり、とてつもないスピードで家へ走り出したそうだ。
12歳の少年少女であれば、解りやすく言えば50m走。この世界での12歳の女の子の平均はおよそ8秒台後半。それをソエラはおよそ6秒台前半で走るとてつもないスピードだった。
そのスピードは、ソエラを眺める周りを圧倒させるものだった。因みに16歳の現在は、正式に測ると4秒台前半だ。完全に元の世界基準なら人間離れしている。……それでも彼女曰く「最近走ってないから
とにかく、姉二人はそのような形でゴッデススキルがすぐにどのような物か大体は理解出来た。
しかし、問題は俺のゴッデススキルだ……。経験値10倍……これの効果は大体解る。問題は、
「ほら、早くおねーたんにゴッデススキル見せなさいよぉ~」とニヤニヤするアルマ。
「う~ん、どうやって見せれば良いのか分からないんだ」そう返すソータ。
「ソータ、お前は何ていうゴッデススキルを手に入れたんだ?」聞いてくる父親。普段はあまり喋らないが初の息子のスキルが気になって仕方ないのだろう。
「ええと……」チラッと母親を見る。笑顔で頷いている母親。
「経験値10倍……」
「おぉ!」「わぁお!」「10倍も!?」と父と姉二人はそれぞれ言ったが、まだ言い終わってない。
「と……」
「「「……と?」」」
「もう一つが、天賦の才……」三人の喜びようが少しこそばゆかったので、俯いて言った。
「「「…………」」」父と姉二人は目を丸くし口をポカンと開けて呆然としていた。そして、少し間を置いて――
「「「ええぇぇーーーッ!!?」」」その驚愕の声は隣近所にまで届いたのだった。
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「そ、ソータ……お、お前……ゴッデススキルを二つも……?」今まで見たことのない動揺を見せる父親。
「う、うん。エンさんが……」
「エンさんって……エン・マーディオー様か? ……ソータ、さん付けは無礼だぞ!」厳しい口調で叱る父親。
「え、でもエンさんは怒らなかったよ……?」
今度は母親も含めて四人が「えっ?」という顔をする。
「な、何……?」
「ソータ、あなた……エン・マーディオー様と会話をしたの……?」母親が聞いてくる。
「うん、したよ」
基本的にはエンは、祈りを捧げている子供に対して流れ作業のようにゴッデススキルを授けてすぐに消えていくので、会話が出来る人など今までいなかったのだそうだ。
「そこで……女神様を“エンさん”って呼んだの……?」母親はまだ聞いてくる。
「そうだよ?」
「会話したのよね? 何て返された?」
「ええと……「大きくなったわねぇ! じゃなくて、かわいくなったわねぇ!」……とかだったかな?」
「それ、以前にもエン様とお会いしたことがあるってこと……?」
「あ~えっと……」転生の話は知られてはいけない可能性があるし、説明が色々面倒なので、これ以上は突っ込まれない為に、ウソを吐くことにした。
「僕もよく分かんないんだけど……大分昔、大きくなった僕と会ったことがあるんだって」と言っておいた。
「……神の子だ……」父親は呟いた。
「えぇ……」母親も驚きながら声を出した。
当の俺は状況を飲み込めず「???」という状態だったが、父親がまた話し始めてくれた。
「ソータ、お前は女神エン・マーディオー様に認められた神の子だ。……明日、俺と一緒に職場へ来なさい。いいな?」いつにも増して真剣な眼差しで言う父親。
「え……うん、分かった」
父親ゾルダーの職業は、王国騎士大隊長。かなりの槍の使い手で、部下には槍はもちろん、剣の指導までしている武装術の天才と呼ばれている。
その父親が「職場へ来い」と言ったということは、明日は王宮へ行くのだ。それを改めて頭の中で咀嚼すると、段々と期待が高まってきた。
現在ソータが住んでいるこの街は、城下町エルドラド。エルドラド王宮の城壁の外にある大きな街だ。
王宮は城壁で囲まれており、その外側にある上流階級の街をまた壁で囲む。そして、更にその外側の一番大きな中流階級の街を更に囲んでおり、その外側のスラム街は囲まれていない。
スラム街が囲まれていない理由は、そこまで囲んでしまうと、上流、中流階級の人間が街を出ようとスラム街を歩くと、襲われてしまう危険性があるからだ。
だから、スラム街は外にほっぽり出しているような形だ。もちろん、エルドラドへ送られてくる食べ物はスラム街へも届く。一番多く消費されるのは、最も多い中流階級。
しかし、ある一定以上の食料をスラム街へ届くようにすることを決められている為、スラム街も衣住に困る人は居ても食に困る人はほぼ居ない。
因みに、ソータ達のマキシ家は比較的裕福な家だが、中流階級だ。上流階級が住む町へ行くための条件がある一定の水準を超えなければならないのだが、
それをギリギリ超えられていない為、上流階級に登れないでいる。
上流階級の一部では「落ちこぼれ貴族」と呼ばれているらしく、近所の上流階級の子供にもその件でからかわれたが「僕子供だから分かんない」と返しておいた。
その日、寝る前になり目を閉じても、中々眠りにつくことが出来なかった。
「チッ、寝れないな……」ボソッと呟くソータ。中身は18歳から0歳になり、今はもう12歳。記憶だけで言えば30年生きているようなものだ。
とはいえ、18歳のあと子供を演じながら育っていた為、大人になるまでの30年間生きてきた人よりは精神年齢は劣っているだろう……それはソータも判っていた。
ゆっくりとベッドから出て、ベランダへ行ってボーッと夜空を眺める。前の世界の夜空と比べると、星々の輝きが非常に強く、視界に映る三日月も力強く輝いている。
そんな夜空を見上げながら、ソータはこの世界の事を考える……
この世界へ来てかなり経つ……大人になったら何になろう? 父親を継いで王国騎士になるのもいいし、ハンターになって世界中を旅するのも楽しそうだ……いっその事、盗賊団に入って悪いことに手を染めるのもアリだ。
正直、何をやってもこの世界なら楽しい。嫌いだった勉強もこの世界の勉強なら喜んで出来た。
ふと、神殿のおじさんに言われたことを思い出した。
「英雄か……」ボソッと言ってみた。
「英雄……英雄ね……俺には不釣り合いだわ……。……エンさんよ。自分で責任を取ればこの世界で何をやっても良いんだよな? ……だったら俺は――」
「ソータ……?」
「!?」急に後ろから声が聞こえた。バッと振り返って視認する……長女のアルマだ。
「あ、あはは、どうしたの、お姉ちゃん? 僕眠れなくって……」
「……貴方、ソータよね?」
「え……そうだよ? 何で?」
……マズイ! さっきのを聞かれていたか? しかし、いつから後ろにいた? 盗賊団に入ろうとか下手なことは口にしてなかったよな? 大丈夫だったか……?
「ソータの中に誰かいるんじゃない? 別の人格……みたいな」
「そ、そんなの居ないよ~! 変なこと言うなぁ、お姉ちゃんは!」そう言いながら、そそくさとその場を立ち去ろうとするが、アルマに止められる。
俺は男とはいえまだ12歳の身体。対して姉は19歳だ……力では勝てない。
すれ違おうと歩くソータの腕をグイッと引っ張られ、身体はアルマの正面に戻される。
「私は真面目に聞いているの! 一人称……自分の呼び方“俺”になってたよね? さっきエンさんよ、自分でどうとか……って言ってたけど、エンさんってエン・マーディオー様よね? 全部教えて!」かなり真剣な眼差しのアルマ……。
「…………」マズイ、ほとんど聞かれていたらしい……どう誤魔化せばいいか……?
「あ、ええと……俺って言ったのは……恥ずかしいけど、背伸びしたくて言ったっていうか……悪ぶった言い方にちょっと憧れてるっていうか……」苦し紛れに出た言葉だった。
「もう、かわいいなぁ! ……でも、パパから怒られたんだから、エン様はエン様って呼ばないとダメだよ? 美しくて素敵な女神様なんだから!」
美しくて素敵、ね……。……まぁ、否定するつもりはないが。
「う、うん、ごめんなさい」
「明日は王宮へ行くんでしょ? もう1時回ってるし、寝なさいね!」そう言ってアルマはベランダのイスに座って、ジュースを飲み始めた。
「お、おやすみなさい」
「うん、おやすみ~!」
――自室に戻りベッドへ潜る。
何とかなった……か? ソータはそのまま無理にでも寝ることにした。
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