第二話:「獣(終)」

私に向かい、素早くバーの室内を駆ける戦闘用C.M.Hの右手が、

エメラルドの様な色に発光すると、

次の瞬間には鋭利な形状のブレートに変形している。


初期の零世代C.M.Hは私を除き全滅している為、

彼らがその後期モデルである事は分かっていたが、これは想定外だった。


あの光は、セラフが具現化する光と酷似している。

しかし、身体にセラフを内蔵しているとは、セラフの性質上考えにくい。


そんな事を考えている間に、相手は数歩でこちらと間合いを詰めて来る。

二体は、非常に連携が取れた動きで攻撃を繰り出してくる。


一方が、ブレートをこちらに振りかざす。

私がそれを躱せば、続け様にもう一体がそこに攻撃を仕掛けてくるので、

私はそれを避けるしかない。そうなれば、こちらは攻撃をする機会を失う。

連携もさることながら、単体の動きも非常に洗練されており、

隙を見出すのが難しい。


防戦一方となった私の頬を、とうとう敵の刃が掠める。

このままでは埒が明かない。まずは一体ずつ相手にしなければ。


私はそばにあったテーブルを右手で相手に向かって投げ付け、

相手が体でそれを防いだタイミングで、左腕のスラスターを使い、

テーブルごと相手を殴る。


ひしゃげたテーブルに押された相手が後ろにのけ反るので、私はすかさずドアを破壊して外に出る。


相手は、当然追いかけて来るが、一人が前のC.M.Hの後ろに並ぶ形になる。


それも当然だ。人間2人分も無い狭い路地では、連携の取りようがない。

これで、一体に集中出来る。


そう思ったのも束の間だった。


後ろにいたC.M.Hは、体の節々から空気を噴射しながら、

それを推力とし、壁を蹴って私に頭上から襲い掛かって来る。


私の体にも取り付けられている、エアスラスターだ。

腐っても同型か。と私は舌打ちする。


上から落ちて来る相手を避ければ、その背中を蹴って後ろの相手がこちらに向かって来る。


自分と同じ能力に加え、更なる機能を追加した相手との戦闘は

ただでさえ苦労すると言うのに、

更にそれが2体もいるとなれば、こちらに残った取柄は一つしかない。


私は相手の攻撃を後ろに飛び退いて避け、スラスターを使いながら壁を蹴り上げる。


相手もそれに続いて上って来る。

私は、その動きを見て勝機を見出す。


私は、目の前に迫った相手の左手のブレードによる攻撃を、

相手の懐に飛び込む様にして回避する。


もう一体が後ろに回って、同じ様に左手のブレードで私の腹部を狙ってくるので、

私はそれを右に体を逸らして避ける。


そして、そのままの動作で、私は腕のスラスターをフル稼働させて、

左手で正面にいる相手の顔を壁に叩き付けた。


激突した壁は破損し、相手の頭部はそれに減り込むが、

私の体を基準に考えれば、恐らくあまりダメージは与えられていないのだろう。


私は相手を壁に打ち付けた姿勢のまま、後ろにいる相手の顔を右肘で思い切り打ち付ける。


そして、空中でよろめいた相手にスラスターを使って向き直ると、

私は相手の頭を掴み、スラスターで加速しながら落下する。


奴らの製造年は知った事ではないが、

こちらは90年近く前からこの体で戦ってきたのだ。

奴らとは、この体の熟練度が違う。


「これが『降り注ぐ死Death from Above』だ。覚えておけ。」

私は相手にそう言うと、相手が地面に落下する直前に頭を放し、

相手が地面にぶつかると同時に、両足で相手の頭を踏み潰す。


そうすると案の定、衝撃に耐えられなかった相手の頭部が破損し、

陥没する感覚が足に伝わる。


私は素早く床から足を放し、上で、

壁に減り込んだ頭を壁から外そうとしている相手に、

体を、スラスターを使って向けた後、出口を向き直し、

壁を蹴って素早く路地を出る。



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路地を抜け、大通りを走りながら、私はスクモに連絡を取る。


「あ、ヒソミ?丁度良かった。今連絡しようとしていたんだけど。」


「そんな事より、面倒な事になった。」


「もう遭遇したの?対象が護衛に雇った殺し屋に。」


「何?そんな物よりもっと面倒だ。私と同じ様な戦闘用のC.M.Hに襲われてる。」

あの殺された殺し屋はそう言う事だったのか。と私は言いながら思う。


「え?何言っているの。」


「それも新型だ。二体に襲われて、一体は殺した。もう一体も足止めして、今逃走してる。」


「そう。ちょっと待って、ああ。

恐らくあの映像が原因なのね。それで、何をすればいいの。」


「地上に出る。手続きしてくれ。」


「それは良いけど、その後どうするの。」


「会うべき人間がいる。」


「会ってどうするのよ。」


「さあな。とにかく、理由は知らないが、私はハイドラに狙われている。

お前も身を隠した方が良い。」


「そうね。ねえヒソミ、」

スクモが何か言いかけた後、爆発音の様な物が鳴り、突然スクモとの通話が途絶える。


呼びかけるが、反応は無い。

もう遅かったか。


ともかく、一刻も早くここから出なければいけない。


私は力の限り走り続けるが、目の前に見えた光景に、足を止めざるを得ない。


私の目の前には、大通りを塞ぐ様に、十体程の戦闘用C.M.Hが立ち塞がっていた。


白い顔に付けられた黒い玉が、こちらを見ている。


後ろを見れば、先程のC.M.Hがこちらに向かって走って来ている。


万事休すか。


ふと、この状況を喜んでいる自分に気付く。


このまま戦えば、私は死ねるのではないか。

それも悪くない、と。


「命令更新。対象の破壊を遂行。」

先程と同じように、正面にいるC.M.H達が一斉にそう言う。


こういう最期も、存外悪くは無いだろう。


そう思い、私が一歩を踏み出そうとすると、驚く事に、

そのC.M.H達が一斉に、糸の切れた操り人形の様に崩れ落ちた。


背後のC.M.Hも、同じように倒れている。


何が起きているのか。


私が前後を交互に見ていると、

倒れたC.M.Hの群れの後ろに、2つの人影を見付ける。


「何者だ?」

私は彼らにそう言う。


青緑の様な色をした髪の少女と、2mは優に超える肉体の岩の様な男。

見覚えの無い人物だった。


その年の差は、親子と言うよりも、祖父と孫の様にも見える。


「あの、ヒソミさんですか。安心してください。

このC.M.Hは、無人の遠隔操作型で、

その回線を遮断したから、なので。もう動きません。」

少女の方が、下を向いて私にそう言う。

敬語で話しているが、言い慣れていないのか、それは何処かたどたどしい。


「敵じゃない。ギデオン博士に頼まれて来た。手助けして欲しい。」

初老の、筋骨隆々の男が簡潔にそう言う。


ギデオン。それは、まさに私が会おうとしていた人物だ。


「手助けだと。何のことを言っている。」

私は、全く状況が呑み込めない。

私が襲われた事と、何か関係があるのだろうか。


「はい。私達は、『純然たる天使の製造法』。と言う物を探っています。」

少女が、顔を上げて、私にそう言う。

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