明かされるもう一つの真実
奇妙な植物の群生する、郊外の不自然に広い草原地帯の一角。そこにある使途不明の建物を、タエは黒肌の民弾圧に関するなんらかの機関と踏んだ。
機銃掃射をお見舞いするか否か、争わず世を治めよという神の課題との折り合いから逡巡する――その次の瞬間、機体がぐらりと左に傾いた。
左には先ほど低空飛行で確かめたあの建物がある。しかし低空飛行ののち十分に高度は回復していたはずだ。左に傾いたのは、左の翼が折られ浮力を失ったからだ。だだっ広い地帯のなか、この高度の飛行機を迎撃できる対空砲を収容できるのはあの施設しかない。今になって、なぜ、攻撃をしたのか。
純粋に、建物の近くに墜落させたくなかったという可能性もある。低空飛行をする相手を近くで落とせば、確かに落とした相手も何らかの被害は免れない。――しかし。
「自棄に冷静じゃないか」
迫りくる戦闘機を前に、それだけの判断を下せる余裕があったということだ。
「癪だな」
貴様は弱い、どうせ攻撃など仕掛けてこず再び遠ざかる。そう思われているようで、戦場の空気を懐かしく思う身体の奥底のなにかが、疼いた。それは炎となって身を焦がす。気づけば左翼の損傷も直っていた。――問題ない。俺は飛べる
どこにも窓がない建物の、唯一開いた砲台の窓を避けるように、ぐるりと旋回して砲台の背後に回る。左翼を損傷したことにより左側にゆるやかに旋回していたのを、最大火力で体勢を立て直し鋭角で右側への旋回に移行。さすがにこの動きは想定していなかったらしく、連続で放たれる砲弾は虚しくタエの機体の後ろを扇の軌道を描いていった。
「――……何ッ!」
なのに、である。想定しない動きで相手の背後を取ることができた気になっていた。そこで目にしたのは、タエの動きを見透かしたような目。そう、その透明で巨大なレンズのようなものは、大きな砲台に隠れるようにして今までタエの認識の外にあり続けた。
「これは……何なんだ……」
『やっと完成したんだよ。数多くの子どもを壁の外に捨て、経過観察として生き残った〝個体〟を戦闘員として飼った。その繰り返しで非常に有意義なデータがとれた。――あとは君の肉体だけだ。これで、世界を汚染から取り戻せる』
射竦められたように、タエは動けない。そして、動けない代わりに放たれた言葉の意味を咀嚼した。そして導き出した答えは、タエの想定以上に残酷だった。
「お前は……各区の区長すら超越した黒幕か」
『そうだ。お前からみれば〝暗躍していた〟となるのかもしれないな』
カラカラと乾いた声が脳内に届き、それを振り払うようにタエは操縦席で首を振った。戦争の駒の動向を把握する必要があったとはいえ、使い捨ての戦闘員の身体に技術の結晶である個体識別装置を取り付けるのはコストパフォーマンスが悪い。人口過多と土地不足の
「やっぱ作戦変更。ここを焼き払う」
『…………?』
想定していなかった、というような声。何もかも見透かしたような〝目〟への、意趣返しのつもりだった。
『――そうか。それは悲しい』
言うや、目は赤い光を有した。
『赤い髪に赤い目――お前は数少ない先祖返りの例だ。世界を掌握した、かつての一族の栄光を、享受するのはお前とだと、ずっと考えていたのだがな……』
「何をする!」
タエの戦闘機は、強靭な金属でできているにもかかわらず、金さえ溶かすという王水にでも浸されたように脆く崩れていく。かつて戦闘機だった瓦礫たちは、タエを避けるように落下していった。地上に真っすぐに落ちていくはずの物体にありえない動き。〝目〟の仕業ということは明らかだった。
空中に、矢で留められたかの如く、有史時代のある預言者の最後のごとく、何もないはずの虚空に手首と足首を固定され、タエは必死にそれに抗っていた。
『貴様には私の一部となってもらう』
有無を言わさぬ口調だった。
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