捜索
「――メゾンは、確かにここが敵本部だと言った。最重要攻撃目標とし、ここを急襲することで敵の戦意を削ぎ指揮系統を混乱させると」
なのに、このあからさまな更地はなんだろうか。
世界を覆った瘴気からわずかに逃れ得た人類の土地にメストス階級は住まう。しかし、そのわずかな土地も、用途は限られる。雨水は地下を通り湧出するが、壁の外で降った雨は地下を通るうち土地を汚す。人類の食欲を満たす作物は、特殊なフィルムに根を張った状態で工場で栽培されると聞いた。
ならば、地下に最高権力者の居宅が構えられる確率は低い――そう思ったのだが。
「最高権力者の邸宅や執政所が、こんな簡単になくなってしまうものかねぇ」
敵のトップが知らぬ間に死んでいたのなら、呆気なくも戦争の早期終結には利となろう。特に、互いに妥協の余地のない戦争ならば。ただ、知らぬ間に脱出され新たな拠点など築かれていたら厄介だ。――それこそ、戦力をもってして叩くしかなくなる。
――非暴力的に混乱状態にある人民を収めよという神の試練に反さなくてはいけない。
「一体どこに隠れていやがる――ん?」
彼は自分の言葉に違和感を覚えた。
「なんで
レジスタンスのアジトのある陸から海を越えこちらに来た。その道中、メゾンがタタと話していた内容を聞くとはなしに聞いた。その話の内容が、あまりに具体的で的をえている。
「あいつ……何が目的だ」
敵をよく知りながら、敵を敵として憎んでいる。例えばメゾンがかつてメストス階級の白い肌を有していたとして、組織の創設者として誰よりも早く機械の体を得た彼にその時代の面影を見いだせる者はいない。だから、彼がメストス階級であったとしてそれを知る者はいないか、いても限られるはずだ。
「チッ……あいつはどこにいやがる!」
生身の人体に戻ってしまったタエは、なぜか同胞とのテレパシー能力を喪失していた。メゾンとタタの行方を探ることはできない。とはいえ、二機はまだそう遠くにいるわけでもなく、今からでも追いかければ合流はできる距離だった。しかし、タエにはいかんせん二機の行き先がわからないから、判断もできかねた。
「……とりあえず、メゾン区長を探すのを先にしようか」
タエはエンジンをいれ、モーター音が小気味よく鳴るのを確認して、滑走する。
「なかなかに不便なものだな」
自身の身体を自立式に
ふわ、と機体が浮いた。タエはすぐさま車輪を収容し、ぐんぐん高度を得て上昇した。
空を戦場にして久しいタエは目がいい。広域を見渡せる空高くから、異常を見つけようという算段らしかった。
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