名前の意味は救世主

「……目が覚めたようだな」

 レジスタンスの本部で勝手に肉体改造をされたときのように、タエはベッドに横たわりながらメゾンの来訪を視認する。

「まあな。ところで俺、うなされて何か口走ってはいなかったか」

 見た夢は、自分が五百年前、すなわち世界が瘴気に侵される前の命の生まれ変わりであることを示している。常識的には受け入れられないことだったがタエは受け入れた。

 それはその夢が、他人事ではなかったため。記憶にないことでも、見知った人間に話されたらそれを自分の幼少期の出来事なのだと納得してしまう、そんな感覚がタエにはあった。

 だが、それを他人に言うことは憚られた。五百年前に生きていた人間の生まれ変わりなどと自分を称することで、自分への根本的なところへの信頼が揺らぐことを恐れる気持ちがあった。

「いや、特に聞いてはいないが」

「それならいい……ところで、組織に属することで新しい名前を名乗るというあの件だが」

 タエはタタに言われたことを思い出す。自分たちを駒のように使う特権階級の元で付けられた称号など名乗り続けるのは同胞たちの恥である、と。なにもタタの言い分に今さら納得したわけではない。彼の言いがかりを利用するまでのことだ。

「“タエ”という名前を使うことでタタと軋轢が生ずるのであれば、変えた方がいいのかもしれない、と思った。だから、俺はこれからメシアと名乗る」

 一方的に宣言するタエに対し、メゾンは安心したように格好を崩しベッドの縁に腰を下ろす。

「おお、それは助かったよ。というのもお前がタエという名前を捨てないことでえらく私が責められたからな……タタのメストス階級への憎しみは凄まじい。ところで、メシアというのは聞き馴染みのない響きだな。なにか意味のある言葉だったりするのか?」

 タエは一瞬言葉に詰まり、しかしすぐにメゾンの問いを否定した。

「違うな。メシアという語感を気に入っただけだ。そういうことだから、タタにも伝えておいてくれ」

 メゾンは面食らったような顔をし、そして大きく体を揺らして笑った。

「タタと喧嘩したくなくて名前を変えたのに、タタとは自分で話せないんだな」

「バカをいえ! 俺はあくまで戦闘舞台の構成員メンバー同士の意志疎通を考えただけだ。戦いのときでなければ、奴と話す気はこれまでもこれからもない!」

 ムキになるタエにメゾンはスマンスマンと手を振って謝った。そしてひとしきり笑った後に、顔を引き締める。

「君の名前の件は承知した。そして、こちらからも連絡がある」

「聞こう」

「ファスト亜区は、我々の作戦に全面的に協力することになった」

 大きな組織が関わることで事が大きくなることなどから区長からの協力の申し出を断ったはずのメゾンから、こんな話がされたことにタエは戸惑う。そしてそんなタエの戸惑いをメゾンは察した。

「混乱するのも無理からぬ話だ……君はこの地の古代技術を見ていない。君も見ていれば、私の決断に同調してくれただろう」

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